世界への門
「稲森くぅん、氷浦くぅん、基山くぅん、不動くぅん、灰崎くぅん、水月くぅん…お使いお願いしますぅ!!」
一星は“行ってらっしゃい”と手を振りながら毒づいた。なんだ、この濃すぎるメンツは。
呼ばれなくて良かった、と心底思うメンツだ。特に後方3人。絡みたくなさ過ぎる。
そう思いながら“感じの良い後輩”を演じるが如く、ゾロゾロと出入り口に足を運ぶメンバーに手を振る。……なんの法則性もないメンバーが呼ばれたな。6人もお使いって必要なわけ。
なんて愚痴混じりに思考を巡らしていた最中。
「……梅干し、通路」
「あ、……ごめんね!!水月君も呼ばれてたもんね、気をつけて!」
「おー…」、と明らかにテンションガタ落ちの大河が隣を掠める。自分が扉の前で出入り口を閉鎖してしまっていたらしい。それは謝ろう。けれども、それよりも、取り敢えず名前をいい加減覚えろ!
その反面、こう言う雑用任務はバックれるだろうな、と思っていた一星は少し驚きもする。
真面目なのか不真面目なのか分かんねぇ奴……。
「胡散臭」と呟きながら、一星は6人の背を見送り、扉をそっと音を立てずに閉めた。
______
「お前、こういう事しない質かと思ったのに…意外だったぜ」
欠伸をしながら隣で歩く大河に灰崎が好奇心からか話しかけた。
誰もが大河のバックれを予想していたらしい。稲森、氷浦が『よくぞ、聞いた』みたいな神妙な顔持ちで肯く。謎の団結が起こった。
「たしかになぁ、ニートさんよ。徹底したらどうだ?その名に相応しく」
不動がその隣で揶揄混じりに相槌を入れる。かく言う不動も“反逆児”等と異名過ぎる異名の持ち主ではあるが。不動の中で如何やら同じ人種に配置されたらしい。
「……いや、別に面倒い事はやんねーよ。怠いし」
表情を変える事なくシレッと答える大河。要は気分で面倒くさいか判断すると言う事らしい。
「てか、俺はニートじゃねぇ」とボヤく彼の言及は無情にも誰の耳にも届かない。
「取り敢えずぶどうと悪魔は全ニートに謝った方がいいと思うよ」
「ぶっ……!!!」「なんでお前は2つ名呼びなんだよ!!」
稲森、氷浦、タツヤがぶどうに吹き出した為に大河は激怒される事を物の見事に回避するのだった。
❀
他愛の無い会話で帰路の時間を潰し、合宿の施設から漏れる電灯が見え始めた頃。
不動が使い走りに意味を問い、皆で苦笑を漏らしていた時の事だった。
風をヒュンッ、と切り裂く様な音を立てながら、目にも止まらぬ速さで向かって来た物体をいち早く目視したのは氷浦だった。
「危ない!!」
力加減など一切考慮されていないサッカーボールがメンバーに向かって突っ込んでくる。
先程まで柔らかい好青年の笑みを浮かべていた彼から笑顔が消えた。咄嗟に氷浦が蹴り返した球は吸い込まれる様に蹴り主の手に収まる。
「誰だっ!!」
ようやく皆が異常事態だという事に気づく。氷浦が気付かなければ試合開始直前に誰かが怪我を負っていたかもしれなかったのだ。穏和な雰囲気は突如一変する。
「あぁ、そこにいるのは、テレビに出てたサッカー日本代表の皆さんじゃないですかぁ」
皮肉混じりに落とされた、まだあどけなさの残る声。
意外にも月明かりに照らされたその主は小柄であった。萌葱色の特徴ある髪とキャップ帽。
何処となく粗野的な気質を彷彿させる少年だった。
「お前……誰だ?」
不動が眉を潜め、質問するが少年は答える事は無かった。
刹那、少年と大河の目線が混じり合う。大河は億劫げにやや気怠げに口角を上げた。
悪質な笑みを浮かべた少年は同じく口角を上げると、踵でボールを巧みに蹴り上げ、集団の先頭に居た不動の鳩尾に打ち込む。
(うっっわ、質が悪ぃだろ。今の)
思ったよりもラフなそのプレーに眉を寄せながらも大河は棒立ち状態でただ静観するのみ。
誰も大河の棒立ちに気づく間も与えられず、少年の攻撃に翻弄され始める他メンバー。
灰崎は反応すら出来ず、2人がかりで止めに入った氷浦とタツヤ、明日人ですら止められない。彼等を一瞥した少年は慇懃無礼な口を叩いた。
「その程度で日本代表とは笑えますねぇ」
「お前は何者だ!!」
疼く鳩尾に顔を顰めながら、それでも不動が再び同じ質問を投げ落とす。
そして先程から挑発する様な言動を取るその少年は漸く彼等に返答をしたのだった。
「僕の名前が知りたいのか。……僕の名前は無敵ヶ原富士丸。
君達の様なダメ選手がFFIに出て、日本が恥を掻かないように___________ 」
そこで一旦区切った少年こと、無敵ヶ原富士丸は悪意の有る嫌らしい下劣な笑みを浮かべた。
目元は影が縁取られ眼光のみがギラギラ覗く。ぞわり、と大河を除いた5人の背に悪寒が走る。
「ここで全員再起不能にしてやるよ……ククッ」
一星は“行ってらっしゃい”と手を振りながら毒づいた。なんだ、この濃すぎるメンツは。
呼ばれなくて良かった、と心底思うメンツだ。特に後方3人。絡みたくなさ過ぎる。
そう思いながら“感じの良い後輩”を演じるが如く、ゾロゾロと出入り口に足を運ぶメンバーに手を振る。……なんの法則性もないメンバーが呼ばれたな。6人もお使いって必要なわけ。
なんて愚痴混じりに思考を巡らしていた最中。
「……梅干し、通路」
「あ、……ごめんね!!水月君も呼ばれてたもんね、気をつけて!」
「おー…」、と明らかにテンションガタ落ちの大河が隣を掠める。自分が扉の前で出入り口を閉鎖してしまっていたらしい。それは謝ろう。けれども、それよりも、取り敢えず名前をいい加減覚えろ!
その反面、こう言う雑用任務はバックれるだろうな、と思っていた一星は少し驚きもする。
真面目なのか不真面目なのか分かんねぇ奴……。
「胡散臭」と呟きながら、一星は6人の背を見送り、扉をそっと音を立てずに閉めた。
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「お前、こういう事しない質かと思ったのに…意外だったぜ」
欠伸をしながら隣で歩く大河に灰崎が好奇心からか話しかけた。
誰もが大河のバックれを予想していたらしい。稲森、氷浦が『よくぞ、聞いた』みたいな神妙な顔持ちで肯く。謎の団結が起こった。
「たしかになぁ、ニートさんよ。徹底したらどうだ?その名に相応しく」
不動がその隣で揶揄混じりに相槌を入れる。かく言う不動も“反逆児”等と異名過ぎる異名の持ち主ではあるが。不動の中で如何やら同じ人種に配置されたらしい。
「……いや、別に面倒い事はやんねーよ。怠いし」
表情を変える事なくシレッと答える大河。要は気分で面倒くさいか判断すると言う事らしい。
「てか、俺はニートじゃねぇ」とボヤく彼の言及は無情にも誰の耳にも届かない。
「取り敢えずぶどうと悪魔は全ニートに謝った方がいいと思うよ」
「ぶっ……!!!」「なんでお前は2つ名呼びなんだよ!!」
稲森、氷浦、タツヤがぶどうに吹き出した為に大河は激怒される事を物の見事に回避するのだった。
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他愛の無い会話で帰路の時間を潰し、合宿の施設から漏れる電灯が見え始めた頃。
不動が使い走りに意味を問い、皆で苦笑を漏らしていた時の事だった。
風をヒュンッ、と切り裂く様な音を立てながら、目にも止まらぬ速さで向かって来た物体をいち早く目視したのは氷浦だった。
「危ない!!」
力加減など一切考慮されていないサッカーボールがメンバーに向かって突っ込んでくる。
先程まで柔らかい好青年の笑みを浮かべていた彼から笑顔が消えた。咄嗟に氷浦が蹴り返した球は吸い込まれる様に蹴り主の手に収まる。
「誰だっ!!」
ようやく皆が異常事態だという事に気づく。氷浦が気付かなければ試合開始直前に誰かが怪我を負っていたかもしれなかったのだ。穏和な雰囲気は突如一変する。
「あぁ、そこにいるのは、テレビに出てたサッカー日本代表の皆さんじゃないですかぁ」
皮肉混じりに落とされた、まだあどけなさの残る声。
意外にも月明かりに照らされたその主は小柄であった。萌葱色の特徴ある髪とキャップ帽。
何処となく粗野的な気質を彷彿させる少年だった。
「お前……誰だ?」
不動が眉を潜め、質問するが少年は答える事は無かった。
刹那、少年と大河の目線が混じり合う。大河は億劫げにやや気怠げに口角を上げた。
悪質な笑みを浮かべた少年は同じく口角を上げると、踵でボールを巧みに蹴り上げ、集団の先頭に居た不動の鳩尾に打ち込む。
(うっっわ、質が悪ぃだろ。今の)
思ったよりもラフなそのプレーに眉を寄せながらも大河は棒立ち状態でただ静観するのみ。
誰も大河の棒立ちに気づく間も与えられず、少年の攻撃に翻弄され始める他メンバー。
灰崎は反応すら出来ず、2人がかりで止めに入った氷浦とタツヤ、明日人ですら止められない。彼等を一瞥した少年は慇懃無礼な口を叩いた。
「その程度で日本代表とは笑えますねぇ」
「お前は何者だ!!」
疼く鳩尾に顔を顰めながら、それでも不動が再び同じ質問を投げ落とす。
そして先程から挑発する様な言動を取るその少年は漸く彼等に返答をしたのだった。
「僕の名前が知りたいのか。……僕の名前は無敵ヶ原富士丸。
君達の様なダメ選手がFFIに出て、日本が恥を掻かないように___________ 」
そこで一旦区切った少年こと、無敵ヶ原富士丸は悪意の有る嫌らしい下劣な笑みを浮かべた。
目元は影が縁取られ眼光のみがギラギラ覗く。ぞわり、と大河を除いた5人の背に悪寒が走る。
「ここで全員再起不能にしてやるよ……ククッ」