世界への門
「あーあ、なんで最後の最後で俺の存在をチクるんだろ」
呆気にとられるイナズマジャパンのメンバーを見下ろしながら心底怠そうに立ち上がった彼。
そして観客席とフィールドを隔てていた壁を軽々と乗り越えた。
「「「!!??」」」
彼が突飛に行った事に信じられずにイナズマジャパンは硬直するばかり。
一同に動揺が素早く走った。
(なんだこのジャジャ馬……違うな、それは女に用いられるから…なんだこのジャジャ男)
一星は心の中で動揺しながら華麗にフィールドに着地した彼を凝視する。
檳榔地黒色の少し癖っ毛の髪に淡黄色の切れ長の瞳。“長身痩躯”そんな言葉が彼はぴったりだった。
そんな長身短躯の彼はこちらを見下ろし開口一番。
「……なにビビってんの?日本代表ってグラタンに怯むとかそんな小心者の集まりなわけ?」
憐れむように薄い唇を持ち上げながら、メンバーを一瞥した彼は大欠伸をしながらスタスタと何処かへと去ろうとする。え、グラタンって何。突然現れた脈略すらないグラタンに困惑する一同。
「水月君~!!待ってましたよぉ~!」
と、そこへ。底抜けに明るい声がフィールド上に響く。我らが監督 趙 金雲。
「…… 栗きんとんだっけ」
「趙 金雲で~ぇす!それにグラタンではなくクラリオさんでぇすぅ!」
名前に関する記憶力が絶望的にない長身短躯。一同、ようやくグラタンの真意にたどり着く。
「……な、なんかあいつ腹立つな…」「…誰だよ、監督…!」
メンバーは彼の登場に度肝を抜かれたせいか、小心者扱いされた事にようやく気付いた。
今にも掴みかかりそうな灰崎と吉良 ヒロトを鼻で一蹴しながら「こいつらに何も話してないの」と彼は監督に話を振る。
「ああ!!皆さんが到着時に口にしていたメンバーの1人、水月 大河君ですよぉ~!!」
「電話先で思ったけど常時その声のトーンとかありかよ」
監督が発する日本語に目眩がするのか疲労が混ざり合った彼の声。
つい先程まで、監督にタメで接していた豪快性分剛陣でさえ、丁寧語を使ったというのに。
思い切りタメ。それに口も悪い。一星がバスで小耳にした時感じた通り素行が悪すぎる。
然し、この少年こそが水月 大河。正真正銘、本人様々だった。
❀
「まっ、待て水月 大河!お前は一体、何者だ!?」
慌てて引き止めた鬼道。矢継ぎ早に質問が紡がれ、困惑しているような様子でもあったが直ぐに「……堅苦しい人」と溜息が漏れた大河。
「経歴がそんなに大事なわけ、あんた。FFI出場資格は中学生で有れば基本罷り通る。……違う?」
「そ、それはそうだが。データが一切無い無名の選手なんて不可思議だ。その理由を知りたいんだ、俺は!!」
一瞬、詰まったものの折れずに切り返す鬼道。
「不可思議、ね」と自身の目蓋を軽く摩りながら大河は嘲笑った。冷笑、とも捉えられるような冷たい底冷えした笑みを。
絶対零度の笑み。暗黒微笑。一同の脳裏にはそんな常人を軌した連語が並んでは過ぎ去る。
「じゃあ、追い出す?……別に俺はいいよ、今すぐ出てっても」
クックっ、と喉を鳴らして嗤う彼は、まるで悪役の様な性の悪い輩が浮かべるような笑みを浮かべていた。
別にどう転んでも痛くも痒くも無い。そう淡黄色の瞳が告げていた。
「……そこまで経歴を隠したいのなら俺は、追求しない」
やや、沈黙が続いた後、鬼道はポツリと抑揚無く呟いた。
これ以上の口論を鬼道が拒否したのだ。話の展開が読めずに背には冷や汗を掻き、焦燥感が胸奥で燻る。
「……って事で。俺のことを探りたいなら探って結構だけど」
“痛い目に遭っても知らないから”
悠然とした笑みを浮かんだ彼に誰も声が出なかった。誰1人声を発せなかった。
「あーあ、面倒くせぇな。そんな黙まんなくていいのに」と、頭を掻きながらグラウンドから立ち去ろうとしていた彼は去り間際に振り返る。
「あ、そうそう。俺、練習出る気ないんで。精々頑張って」
バタン、と無機質な扉のロック音で、皆ようやく意識が引き戻される。
まるで夢でも見ていたかのような夢中感。引き金となったのか愚痴が堰を切ったように紡がれ始める。
「な、なんだよあれ……」「好き勝手、言ってくれんじゃねぇかよ…」「はぁーーーっ!?」
「鬼道さんが簡単に言い負けた……」「あの悪者みてぇな笑み見たか?俺、悪寒走った」
流石、中学生。収集つかなくなった感情が1度爆発すれば収まることを知らない。
喧嘩っ早い灰崎やヒロト、他数人には早くも青筋が浮かび、物腰丁寧で紳士的な吹雪や基山さえ、思案顔だ。
合宿開始早々、彼の存在は早くも目立つ事になった。
実はこの案件が少年の1つの“策”であった事を彼等が知るのはかなりの月日が経てからになる。
呆気にとられるイナズマジャパンのメンバーを見下ろしながら心底怠そうに立ち上がった彼。
そして観客席とフィールドを隔てていた壁を軽々と乗り越えた。
「「「!!??」」」
彼が突飛に行った事に信じられずにイナズマジャパンは硬直するばかり。
一同に動揺が素早く走った。
(なんだこのジャジャ馬……違うな、それは女に用いられるから…なんだこのジャジャ男)
一星は心の中で動揺しながら華麗にフィールドに着地した彼を凝視する。
檳榔地黒色の少し癖っ毛の髪に淡黄色の切れ長の瞳。“長身痩躯”そんな言葉が彼はぴったりだった。
そんな長身短躯の彼はこちらを見下ろし開口一番。
「……なにビビってんの?日本代表ってグラタンに怯むとかそんな小心者の集まりなわけ?」
憐れむように薄い唇を持ち上げながら、メンバーを一瞥した彼は大欠伸をしながらスタスタと何処かへと去ろうとする。え、グラタンって何。突然現れた脈略すらないグラタンに困惑する一同。
「水月君~!!待ってましたよぉ~!」
と、そこへ。底抜けに明るい声がフィールド上に響く。我らが監督 趙 金雲。
「…… 栗きんとんだっけ」
「趙 金雲で~ぇす!それにグラタンではなくクラリオさんでぇすぅ!」
名前に関する記憶力が絶望的にない長身短躯。一同、ようやくグラタンの真意にたどり着く。
「……な、なんかあいつ腹立つな…」「…誰だよ、監督…!」
メンバーは彼の登場に度肝を抜かれたせいか、小心者扱いされた事にようやく気付いた。
今にも掴みかかりそうな灰崎と吉良 ヒロトを鼻で一蹴しながら「こいつらに何も話してないの」と彼は監督に話を振る。
「ああ!!皆さんが到着時に口にしていたメンバーの1人、水月 大河君ですよぉ~!!」
「電話先で思ったけど常時その声のトーンとかありかよ」
監督が発する日本語に目眩がするのか疲労が混ざり合った彼の声。
つい先程まで、監督にタメで接していた豪快性分剛陣でさえ、丁寧語を使ったというのに。
思い切りタメ。それに口も悪い。一星がバスで小耳にした時感じた通り素行が悪すぎる。
然し、この少年こそが水月 大河。正真正銘、本人様々だった。
❀
「まっ、待て水月 大河!お前は一体、何者だ!?」
慌てて引き止めた鬼道。矢継ぎ早に質問が紡がれ、困惑しているような様子でもあったが直ぐに「……堅苦しい人」と溜息が漏れた大河。
「経歴がそんなに大事なわけ、あんた。FFI出場資格は中学生で有れば基本罷り通る。……違う?」
「そ、それはそうだが。データが一切無い無名の選手なんて不可思議だ。その理由を知りたいんだ、俺は!!」
一瞬、詰まったものの折れずに切り返す鬼道。
「不可思議、ね」と自身の目蓋を軽く摩りながら大河は嘲笑った。冷笑、とも捉えられるような冷たい底冷えした笑みを。
絶対零度の笑み。暗黒微笑。一同の脳裏にはそんな常人を軌した連語が並んでは過ぎ去る。
「じゃあ、追い出す?……別に俺はいいよ、今すぐ出てっても」
クックっ、と喉を鳴らして嗤う彼は、まるで悪役の様な性の悪い輩が浮かべるような笑みを浮かべていた。
別にどう転んでも痛くも痒くも無い。そう淡黄色の瞳が告げていた。
「……そこまで経歴を隠したいのなら俺は、追求しない」
やや、沈黙が続いた後、鬼道はポツリと抑揚無く呟いた。
これ以上の口論を鬼道が拒否したのだ。話の展開が読めずに背には冷や汗を掻き、焦燥感が胸奥で燻る。
「……って事で。俺のことを探りたいなら探って結構だけど」
“痛い目に遭っても知らないから”
悠然とした笑みを浮かんだ彼に誰も声が出なかった。誰1人声を発せなかった。
「あーあ、面倒くせぇな。そんな黙まんなくていいのに」と、頭を掻きながらグラウンドから立ち去ろうとしていた彼は去り間際に振り返る。
「あ、そうそう。俺、練習出る気ないんで。精々頑張って」
バタン、と無機質な扉のロック音で、皆ようやく意識が引き戻される。
まるで夢でも見ていたかのような夢中感。引き金となったのか愚痴が堰を切ったように紡がれ始める。
「な、なんだよあれ……」「好き勝手、言ってくれんじゃねぇかよ…」「はぁーーーっ!?」
「鬼道さんが簡単に言い負けた……」「あの悪者みてぇな笑み見たか?俺、悪寒走った」
流石、中学生。収集つかなくなった感情が1度爆発すれば収まることを知らない。
喧嘩っ早い灰崎やヒロト、他数人には早くも青筋が浮かび、物腰丁寧で紳士的な吹雪や基山さえ、思案顔だ。
合宿開始早々、彼の存在は早くも目立つ事になった。
実はこの案件が少年の1つの“策”であった事を彼等が知るのはかなりの月日が経てからになる。