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世界への門

「はーい、皆さんクラリオさんにお手合わせ願いましょお~」

まだ着慣れない稲妻柄のエンブレムが付いた青地のユニフォームを羽織ったイナズマジャパンメンバーは、思わぬ来客に息を呑む。合宿開始翌日、しかも朝から物凄い来客だ。皆が愕然と、又の者は目を輝かせながら彼等を見つめる。

「クラリオ…!」

厳つい巨体が特徴的なスペイン代表選手、クラリオ・オーヴァン。
そしてクラリオと共にキャンプを訪れてきたベルガモ・レグルト。
メンバーの中でもガラリと顔色を変えたのは旧・雷門メンバーだった円堂、豪炎寺、鬼道、風丸。
喜怒哀楽がゴーグルに隠れ、心情が察しずらい鬼道でさえも一目瞭然の反応を見せるほどだった。

彼等とクラリオ達は対戦経験がある。
1年前、フットボールフロンティアで奇跡の優勝を果たした雷門中に容赦なく“世界”との実力差を見せつけたのは彼等だった。

一種のトラウマでもあり、触られたくない過去でもある親善試合を思い出したのか。
いつになく旧・雷門メンバーの表情は固かった。

“お手合わせ”だなんて言われ、癪に触った人の怒声。圧倒的な人数差に懸念する声。
そんな声を薙ぎ払ってまで始まった一戦。結果は言わずもがな惨敗だった。
数人が必死に食いつき抵抗の意を示したものの、あっさりと抜かれ。
その後は彼の必殺技によって一蹴。笛が鳴ってからゴールネットが揺れるまで数分も無い。

肩で息をするサムライブルーのユニフォームを視界の端で捉えた少年はふと、溜息を吐いていた。

「……こうやって上から観戦すると弱小だな」

備え付けの観客的から不意に溜息混じりの低い声。体の底から力を入れようやく振り絞ったかのような掠れた声がポツン、と響く。
クルクルとスマホリングを片手で弄りながらつまんなさそうにフィールドを見下ろす1人の少年の姿。
あーあ、と塵芥状態のイナズマジャパンを見下ろし目を伏せた。つり目よりの奥二重。
目を伏せて初めて彼が奥二重だと気づくほど一重に近いその瞳は、淡くそしてどこか暗い淡黄色だった。支給された手元に置かれたユニフォームに視線を落とし、紡がれたのは溜息1つのみ。

「……めんどくせぇな」




“日本のレベルが世界に迫りつつある”

誰が代表に選抜するのか、と好奇心混じりに日本に来国したクラリオ、そしてベルガモ。
1年前に惨敗していた国が、優勝候補と謳われるスペインチームのライバル候補として上がるはずもない。そうたかを括っていたクラリオは前日、衝撃の光景を目にしたと言う。
その者が放ったシュートは世界レベルに等しい、と言っても過言では無いと。

誰の練習を覗いたのかわからないジャパン一同。その者の名を聞こうと問い詰めた鬼道。
しかし、クラリオは悠然とした笑みを見せてその者を吐こうとしなかった。

「君達との一戦 楽しみにしている」

日本がアジア予選を突破すること前提で彼はつぶやいたそんな彼に日本代表は折々、不満又不安を顔に出していた。そう、場の雰囲気が重たくなりかけた時。

「おい、あいつはお前らの仲間じゃないのか?どうして誰も見向きもしないんだ?」

ベルガモが顎で観客席の方を指した。皆の視線が自然と向いていく。
名の知らぬ者の存在にようやく気づいたイナズマジャパンのメンツは呆然と立ち尽くした。

「……いや、知らないな…?」「……誰だあいつ」

鳩が豆鉄砲を食らったかのような阿保面を晒してしまう一同。
完全に呆けている日本代表においおい…、と呆れたように肩を竦めるベルガモ。

「知らなかったのかよ…このキャンプ場にイナズマジャパンのメンバー以外来るわけねぇだろ」

ベルガモは「ま、どうでもいいか」と言いたげに身を翻しクラリオと共に会場を後にする。


「……気づいていたんだろ?クラリオ……あいつがイナズマジャパンのメンバーだってこと」
「ああ、練習していたところを見ていたからな」

呆気に取られる日本代表を振り返ることすらなく通路を進んでいたクラリオはベルガモの問いに静かに肯く。

「要注意人物だ。ミズツキタイガ、彼はまだ中1。日本がアジア予選を突破する要になるだろう」

「おいおい、巨神がビビってどうすんだよ」

ベルガモは野次を飛ばしながらもそのミズツキとやら男に興味を抱いた。
クラリオがここまで言うとはどれだけすごいやつなのだろうか。

と、その時。ふとベルガモの脳内で疑問が湧く。
あのミズツキって奴、私服だったよな。練習を見ていた?だったら前日からキャンプにいるってことだろ。
なんでメンバーに混ざってないんだ?

芽生えてしまった疑問を胸の内の収まることが出来ずモンモンとしながら、ベルガモとクラリオはグラウンドに背を向けた。
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