「……はぁ…うっぜえ」

電話の着信音に辟易しながらようやくヨロヨロ立ち上がった檳榔地黒色の髪色をした少年。
目元にはクッキリとした隈が浮かび、誰もが一目で察するほどその健康状態は優れていない。

(…何度目のコールだよ、しつけぇな……)

頭を少し掻き毟った少年は蹌踉めきながらもようやく電話機へと行き着いた。
着信相手は片言な日本語を発する中国人からだった。そして今回もその中国人からの電話番号。
自然と覚えてしまったその番号に自ずと溜息が溢れる。

(……これで20回以上俺に掛けてるって訳かよ……うっぜえ…。最後におつかれ、ぐらい言い捨てて切ってやるか)

迷惑行為と言っても過言ではない相手からの大量着信についに折れた少年。
受話器を取った少年に“パンパカパーァンッ”と刹那、受話器越しに大音量で流れてきた奇声が鼓膜をビリビリ揺らす。

「……、うるっせぇ」

つい顔に皺を寄せながら言い放つ不機嫌丸出し少年に火に油を注ぐように“おめでとうござぁいまぁぁすっ”と耳が破れんばかりに呟く中国人。

「……めんどくせぇ、こんなに掛けてくる要件を言えよ、キチガイ」

一層の事なら、こんなに執拗に電話を掛けてくる訳を聞いてしまった方がいい。なんか懸賞でも当選したんだろうか。そう踏んだ少年は目頭に手を添えながら相手の出方を待った。

『ようやく聞いてくれる気になりましたかぁ！！いやぁ、嬉しいですねぇめでたいですねぇ！！
貴方は！！！イナズマジャパンの正式メンバーに選ばれましたぁぁっ！！あ、ワタシは監督の趙 金雲ですぅ～！これから』

理解が追いつけなくなって受話器を無慈悲に叩き切る。
ツーツーッ、と機械音が規則正しく鳴り響く中。少年ははた、と足を止めた。

「は？イナズマジャパン？」

誰もいない廊下で1人素っ頓狂な声を上げる少年は開いた口を塞ぐ術を知らない。

丁度たまたまつけていたTVで流れている日本代表選考会のLIVE映像では、偶然かニヒルな笑みを浮かんだ趙 金雲が、自身のスマホを片手に、ピースサインを浮かべながら此方を見つめていた。

少年の選抜が偶然でもまぐれでも無い事を。