失われた最終兵器
「キャプテンが点を入れられてしまったでゴス!!」
「敵の目眩しにかかったか……」
「でもあれを反則として証明するには難しそうですね……」
上から順にゴーレム……岩戸、ヒロト、坂野上。
納得の行かない得点にベンチ民の不快指数がグングン伸びている。
大河はただ目視しただけで発言する事なく、再びぼんやりと視線を宙に投げた。
(財団が動き出したは動き出した、けど。どうすればいいんだ、これ。あー、めんど)
彼の脳内では漫画等でよく見かける脳内会議が絶賛会議中であり、意見は真っ二つに割れる。
『いや、まだその時じゃねぇだろ。焦んじゃねぇぞ、男が廃る』
『まだ序盤なのに出場したらヘロヘロになるぞ』
『ここで躊躇って命取りの行動を財団がやったらどうすんだよ』
『考えるのをやめろ、面倒くさい』
ミニ大河がガミガミ口論を続ける中、思索放棄して頭から追い出す大河。
イレブンバンドの機械音も鳴らないし、別にいいかなと思ってしまう。
趙 金雲が待機命令を出している様な状況なのだ。まだ財団は悪目立ちした指令を下していない、と。
この時に下した決断が後に、後悔と成り変わる事を今の大河は知る由もなかった。
誰も予想できていなかった。あの男があんな大技を完成させていた事に殆どの者が気が付かなかった。
❀
「日本は苛立っている。韓国は、日本の経験の少なさとメンタルの弱さを突いてくる、か…」
同時刻、観客席。褐色の男性がカメラを頭から下げ、眼鏡の奥から冷静な眼差しをフィールドに落とす。彼の名は木村 陽介。月刊ワールドサッカーの記事を担当するサッカー記者だ。
色々なサッカー観戦をしてきた熟年者の瞳に映る日本。誰にでもなく呟いた木村記者の所感に。
返答が入った。
「本当に経験がないのはどちらかしら」
驚き混じりに木村記者が振り返ればいつのまに隣に居たのか、エキゾチックな少女がアイスを食べながら静観していた。明らかに木村記者の独り言に対しての返答だ。
「ん?」、と木村記者は少女の発言を咀嚼しながら再び思索を続ける事にする。
少女の発言の真相を見極めるが為に。
❀
「先制された日本!さぁ、どうするのか!!日本ボールで試合が再開されます!」
ホイッスルの音と共に明日人が飛び出した。ペクがそれは酷い形相で明日人にマークに掛かる。赤い闘牛の本性を曝け、踏み潰そうとばかりに襲いかかって来た。
「更なる泥舟に沈めてやるぜ!!」
ガード固めに再びペクを抜きに間合いを詰めていく明日人。
「またラフプレーを仕掛けるつもりか!!」
いきり立ちながら明日人は誰にもパスを渡す事なく1人で突破にかかる。
「今度はお前だ!!」
今度はお前にラフプレーを仕掛ける、という意味らしい。吠えながらペクは荒いスライディングを明日人に放った。それは時間にしてしまうならほんの数秒。十秒にも満たないボールの鬩ぎ合い。明日人の視界の領域にペクが映り込む。数秒の時間が十数秒に。コンマ送りで送られたかの様な錯覚を明日人は憶えた。すなわち。
“明日人の視界のがペクのラフプレーがやけに鮮明に捉え、動作をスローで認識した”
寸前の所でボールを操り、強奪を躱した明日人。
気付けば、スライディングの姿勢でフィールドに取り残された驚愕状態のペクを乗り越えている。「うぁっ」と小さく声を上げればそばに駆け寄って来ていた氷浦が反応した。
先程の氷浦と同じ様な反応を明日人まで。敵の攻撃を避けた者同士は顔を見合わせる。
「俺、今ラフプレーを避けられたんだ。……なんで?」
脳内でどう動いて躱すか、と考えるよりも先に体が勝手に動いた……。
困惑状態のままボールを所持し続ける明日人に氷浦がアメジスト色の瞳を瞬かせた。
「明日人。……お前も気づいたか……」
氷浦の思いもよらぬ返答に明日人は益々素っ頓狂な声を漏らす。
まさか氷浦が同意するとは思ってもいなかった様で明日人の頭には巨大なはてなマークが付く。
「俺も敵のラフプレーを躱せた。何故だか当たってくるタイミングが解るんだ……」
それは数十分遡った“特攻 バッファロートレイン”発動時の氷浦の華麗な回避。
あれで氷浦は敵の仕掛けるタイミングを見抜いたと言う。
どうしてラフプレーを避ける回避能力がついたのか。
それを彼等は記憶から引き摺り出し始める。
「敵の目眩しにかかったか……」
「でもあれを反則として証明するには難しそうですね……」
上から順にゴーレム……岩戸、ヒロト、坂野上。
納得の行かない得点にベンチ民の不快指数がグングン伸びている。
大河はただ目視しただけで発言する事なく、再びぼんやりと視線を宙に投げた。
(財団が動き出したは動き出した、けど。どうすればいいんだ、これ。あー、めんど)
彼の脳内では漫画等でよく見かける脳内会議が絶賛会議中であり、意見は真っ二つに割れる。
『いや、まだその時じゃねぇだろ。焦んじゃねぇぞ、男が廃る』
『まだ序盤なのに出場したらヘロヘロになるぞ』
『ここで躊躇って命取りの行動を財団がやったらどうすんだよ』
『考えるのをやめろ、面倒くさい』
ミニ大河がガミガミ口論を続ける中、思索放棄して頭から追い出す大河。
イレブンバンドの機械音も鳴らないし、別にいいかなと思ってしまう。
趙 金雲が待機命令を出している様な状況なのだ。まだ財団は悪目立ちした指令を下していない、と。
この時に下した決断が後に、後悔と成り変わる事を今の大河は知る由もなかった。
誰も予想できていなかった。あの男があんな大技を完成させていた事に殆どの者が気が付かなかった。
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「日本は苛立っている。韓国は、日本の経験の少なさとメンタルの弱さを突いてくる、か…」
同時刻、観客席。褐色の男性がカメラを頭から下げ、眼鏡の奥から冷静な眼差しをフィールドに落とす。彼の名は木村 陽介。月刊ワールドサッカーの記事を担当するサッカー記者だ。
色々なサッカー観戦をしてきた熟年者の瞳に映る日本。誰にでもなく呟いた木村記者の所感に。
返答が入った。
「本当に経験がないのはどちらかしら」
驚き混じりに木村記者が振り返ればいつのまに隣に居たのか、エキゾチックな少女がアイスを食べながら静観していた。明らかに木村記者の独り言に対しての返答だ。
「ん?」、と木村記者は少女の発言を咀嚼しながら再び思索を続ける事にする。
少女の発言の真相を見極めるが為に。
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「先制された日本!さぁ、どうするのか!!日本ボールで試合が再開されます!」
ホイッスルの音と共に明日人が飛び出した。ペクがそれは酷い形相で明日人にマークに掛かる。赤い闘牛の本性を曝け、踏み潰そうとばかりに襲いかかって来た。
「更なる泥舟に沈めてやるぜ!!」
ガード固めに再びペクを抜きに間合いを詰めていく明日人。
「またラフプレーを仕掛けるつもりか!!」
いきり立ちながら明日人は誰にもパスを渡す事なく1人で突破にかかる。
「今度はお前だ!!」
今度はお前にラフプレーを仕掛ける、という意味らしい。吠えながらペクは荒いスライディングを明日人に放った。それは時間にしてしまうならほんの数秒。十秒にも満たないボールの鬩ぎ合い。明日人の視界の領域にペクが映り込む。数秒の時間が十数秒に。コンマ送りで送られたかの様な錯覚を明日人は憶えた。すなわち。
“明日人の視界のがペクのラフプレーがやけに鮮明に捉え、動作をスローで認識した”
寸前の所でボールを操り、強奪を躱した明日人。
気付けば、スライディングの姿勢でフィールドに取り残された驚愕状態のペクを乗り越えている。「うぁっ」と小さく声を上げればそばに駆け寄って来ていた氷浦が反応した。
先程の氷浦と同じ様な反応を明日人まで。敵の攻撃を避けた者同士は顔を見合わせる。
「俺、今ラフプレーを避けられたんだ。……なんで?」
脳内でどう動いて躱すか、と考えるよりも先に体が勝手に動いた……。
困惑状態のままボールを所持し続ける明日人に氷浦がアメジスト色の瞳を瞬かせた。
「明日人。……お前も気づいたか……」
氷浦の思いもよらぬ返答に明日人は益々素っ頓狂な声を漏らす。
まさか氷浦が同意するとは思ってもいなかった様で明日人の頭には巨大なはてなマークが付く。
「俺も敵のラフプレーを躱せた。何故だか当たってくるタイミングが解るんだ……」
それは数十分遡った“特攻 バッファロートレイン”発動時の氷浦の華麗な回避。
あれで氷浦は敵の仕掛けるタイミングを見抜いたと言う。
どうしてラフプレーを避ける回避能力がついたのか。
それを彼等は記憶から引き摺り出し始める。