「いよいよフットボールインターナショナル、アジア予選が始まろうとしています！
アジア予選は日本で行われる事が決まり、日本のサポーターも大興奮しています！！」

ナレーション、同時に進行を進める角 王将の歓喜を促す声音も加わり、スタジアムは熱い声援が木霊していた。雲一つない快晴と陽光がアジア予選会場を彩る。

フットボールインターナショナル…略してFFI。結成して間もない日本代表にとって開催国が母国なのは幸運だった。慣れない土地柄や風土により万全の実力が出せないなんて事はスポーツ界では良くある事だ。

「……おい、水月。ガン飛ばすんじゃねぇよ、怖がってるだろ」

エスコートキッズを容赦なく眼力で弾き飛ばそうとしていた大河に、外見でビビられているヒロトがムニっ、と頬を摘む。水月は「やめろ、伸びる」と怠そうに振り払う。
いつも不機嫌気味な大河だが今日は不機嫌に拍車が掛かっている。恐らく常時肌身離さず着ていたジャージを強制的に脱がされた事が原因だろうと察する。2人に充てられたエスコートキッズが哀れでならない他メンバー。

アジア予選初戦、と言う記念すべき第1戦。本来なら出場選手、11人のみエスコートキッズがつくはずだったがなんと全員につくことになってしまったのだ。※¹

「ちょ、水月もヒロトも。もうすぐ入場始まるんだからさ～…」

稲森が諭す様に話し掛けると、鬱陶しげに睨みつける両2人。他メンバー、稲森に静かに合掌。

「あの、潔癖症か何かでしたら別に構いませんけど……」

“コイツ面倒くさい”と顔にボロ出しの大河担当エスコートキッズ。
自分の方が満場一致で面倒くさい癖に「はぁ？誰も繋がないなんて言ってねぇだろ、面倒くぇ」と毒吐く大河。

「世界大会とは言えど、中学サッカー大会なのにエスコートキッズがつくんだろうな？
確かエスコートキッズって選手達が子供達の目の前で違反プレーをするな、とかって言う意味がある筈だけど。俺達、まだ中学生だし……」

氷浦の指摘に一同沈黙。そのまま入場合図が出てフィールドに踏み込むまで、誰1人口を開かなかった。……いや、返答する言葉が見つからなかったから口を開けなかった。

(……違反プレー、ね……)

微かに屈んでエスコートキッズの手を取った大河は、光の漏れるフィールドを静かに見つめていた。


❀


「うわぁ……イスかった…」

「尸の水月」
「うわぁ、ちょっ、水月君寄りかからないでくださいってば！！」
「おっっっも、全体重かけてくるな！！！」

開始0分。日本側控えベンチで雪崩れ。
控えベンチに着いた途端に目にも止まらない速さでジャージを分取った大河。
いつ自分の出番が回ってくるか分からない控えでもユニフォーム姿なのに、ジャージと言う神経の図太さが伺える。如何したものだろうか。

「絶対アジア予選、突破するぞーーーっ！！」

右拳を大きく空へ突き出し、意思表明を掲げる明日人。
その隣では稲森の年下は思えない様な落ち着きぶりを見せる灰崎が一瞥。

「相変わらず熱いな…」

まだFFが閉幕して1ヶ月しか経ってないが、明日人のサッカーに対する情熱は留まることを知らない。翡翠色の瞳は鬱陶しいほどに輝き、迂闊に近づけばその情熱のような炎を受けてしまうほど。
………そして、それは明日人に限るだけの事じゃない。
高らかに声を張り上げたチームの守護神の大声がフィールドに木霊する。

「みんな！！相手は世界だっ！！世界を相手にサッカーやろうぜ！！！！！！」
「「おーーっ！！！！」」

「……熱血漢はチームに1人だけでいいと思うんだよね、声が煩い。絡まれると面倒臭いし」
「水月、後ろ髪を引くな」

盛り上がっているフィールドと反し、なんとなく陰気なムードが漂ってるのは多分気の所為。

「日本vs.韓国！！アジアのライバルが激突！！勝利の女神が微笑むのはどちらなのかーー！」

アナウンスに釣られる様に沸き起こる歓声と熱気の中、大河の右隣に腰掛けた一星がボソリと言い吐いた。手のひらを合わせ、足を机代わりにしフィールドを含み笑いで見詰める一星。

「……残念だけどこの試合、日本は負ける」

自分が裏切り役です、と公言するかのようなその一言。
「声量調節しろよ、ポンコツ」と思わず突っこみたくなったがその先を考え、出かかった言葉を飲み込む。まだ、一星は表立った行動を取っていない。下手にこちらが刺激したら逆手を取られる可能性がある。

（はーぁ、エスコートキッズの意味マジでねぇじゃん……）

げんなり息を吐きながら左腕に装着したイレブンバンドを起動させる。
ピッ、と音を立て電源が入った液晶画面に双眸を細めながら捲っていた裾をそっと下ろした。








※¹ エスコートキッズは、本来例外なく出場選手にのみつきます。
都合上捏造させて頂きました、御容赦を。