夜に咲く花 散る桜




ギャハハハ……

缶ビールを片手に、騒ぐサラリーマン達。
お茶菓子を持ち合って、会話に花を咲かせる女子大生達。
ナンパ目的なのか。辺りを物色しながら彷徨うろつくチャラい男達。

折角、夜桜見物に来たというのに。ガヤガヤと騒がしい花見会場は、花見そっちのけで騒ぐ人達が目立つ。

華やかに演出する為なのだろうか。それとも、花見客の足下を照らす為なのか。桜並木に平行して等間隔に吊された提灯が、人工的なピンク色の光を放つ。そのせいで、桜本来の淡い色を台無しにしてしまっているような気がする。

それが何だか──淋しい。


三週間ほど前にあった、雛祭りパーティー。それ以降、何となく竜一との間に距離を感じる。

《今からちょっと、会わねぇか?》
〈うん。それじゃあ、夜桜見に行こうよ〉

春休みに入って、突然届いた竜一からのメッセージ。
何でもないふりをして、そう返したけど……

「……」

何となく感じる、不穏な空気。
隣を歩く竜一との距離に、もどかしさと淋しさが募る。





小高い丘へと続く石畳。
花見会場から随分と離れた場所にあるここは、桜以外の木が鬱蒼と茂り、桜を映す提灯も少なく:人気(ひとけ)も殆どない。

「ヒューヒュー!」
「熱いねぇ、お二人さん」

突然暗闇に現れる、スーツ姿の男性三人組。こんな所で宴会でもしているのか。茂みのある地べたに座り込み、缶ビール片手に盛り上がっていた。

「彼女、エロい格好してるねぇ」
「生足サイコー!」
「……あー、触ってみてぇなぁ……」

卑猥な言葉を浴びせられ、ビクッと身体が震える。
こんな風に絡まれるのは、初めてで。どうしたらいいのか解らなくて……

「……!」

戸惑う僕の手を、竜一が掴んでしっかりと握ってくれる。

……竜一……

守ろうとしてくれた事が、嬉しくて。
繋いだ手のひらから、竜一の熱が伝わってくる。

「そっちにしけ込んで、ヤっちゃうかぁ?」
「……堪んねーなぁ、オイ」
「若いっていいねぇ……」

通り過ぎても尚、高笑いしながら悪ノリするサラリーマン達。歩を緩め、斜め後ろを振り返った竜一が無言の威圧感を与える。

「……」

不穏な空気を感じ、竜一の手を引っ張る。
確かに嫌な思いはしたけど、もしここで喧嘩にでもなったら……

「心配するな」

正面に向き直った竜一が、僕を見ずに歩を進めた。




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