冬とミカンとあなた
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冬の風が冷たい日。
佐野家に行くと、玄関から居間に通じる廊下にダンボールが置いてあった。
封はすでに開けられており、ダンボールの側面には、ミカンの絵がひとつ、描 かれていた。
「こんにちはー」
雪花は家の奥へと声をかけて、靴を脱ぐ。
玄関の段差を上がったところでエマが出て来た。
「雪花ちゃん、いらっしゃい!」
「お邪魔します」
靴を揃 えて立ち上がり、なんとなく聞いてみる。
「これ、ミカンなの?」
「そうなんだ。箱でもらっちゃって。雪花ちゃんは、ミカン好き?」
「うん。わりと好きかな」
「じゃあ、一緒に食べようよ」
エマはダンボールの脇にしゃがんでフタを開ける。中にはぎっしりとミカンが詰まっていた。まだほとんど消費されていないようだ。
「雪花ちゃん、いくつ食べる?」
「え。1個でいいよ」
「わかった」
ミカンを3つ手にして立つと、エマはこちらに視線を向けた。
「行こ」
「うん」
エマと一緒に居間へと入ると、龍宮寺堅の後ろ姿が目に入った。
「あれ、ドラケン君も来てたんだ」
言いながらコートを脱ぐ。
「よっ! 雪花ちゃん」
堅が振り返って手を振る。
雪花も手を振り返し、こちらを見ていたマイキーにも手を振る。
「あれ。4人なのにミカン3個? 誰かミカン嫌い?」
「あー、マイキーがね」
エマが言うと、万次郎がそれを遮 った。
「エマー、オレも食う。持ってきてー」
「ええ!? マイキー、昨夜 『そんな面倒くせーもの食わねー』って言ってたじゃん」
「気が変わったのー。食うから、持ってきてー」
「もう、しょうがないな」
エマはぶつぶつ言いながら廊下へ引き返す。
万次郎はあまりミカンが好きじゃないのかな、などと考えつつ、雪花は空いている万次郎の対角に座る。
追加のミカンをエマが持ってきて、おのおのがミカンを手にし、雪花もミカンを剥 くべく真ん中のくぼみに指をかけたところで、万次郎が言った。
「ねー、ユッキン、ミカン剥 いて♡」
……は?
「え。ミカンくらい自分で剥 きなよ」
雪花はすかさず却下 したが、万次郎は引かない。
「オレ、ミカン剥 けねえもん。ユッキンが剥 いて♡」
絶対に嘘だと思ったが、雪花は万次郎が差し出したミカンを受け取った。
「仕方ないなあ、もう」
言いながら外皮を剥 いて白い筋を取り、中身を外皮に戻して万次郎に渡した。
「はい。できたよ」
すると、万次郎は手にしたミカンを雪花の手のひらに戻す。
「オレ、この白い皮嫌い。取って♡」
なんだ、コイツ。
2人きりのときならともかく、エマに堅までいるというのに、甘えた声で甘えたこと言いやがって。
そこで、ふと思った。
━━あ。
そうか。わざとか。
エマはともかく、堅の前で、『オレ達はこんなにラブラブでーす』と言いたいわけか。
こういうところは本当に子供だ。
「分かった。手を洗ってくるから、待ってて。━━エマちゃん、洗面所借りるね」
エマを見るとぽかんとした表情だった。ついでに堅も。
「あ、うん。いいよ」
そうエマが言い。
「エマ。マイキーと雪花ちゃんって、いつもこんななのか?」
そう堅が言った。
あああ。恥ずかしい。
「うん? うーん? どうだろ。こんなような気もするけど、ときどきすごい喧嘩 してるときもあるよ」
「雪花ちゃん、マイキーと喧嘩 すんのか」
「うん。この前なんか、マイキーのこと蹴 ってたし」
「マイキーを蹴 る? 雪花ちゃん、武道とかやってんのか。蹴 り技 があるなら空手とかか?」
「そんな蹴 りじゃなかった気がするけどなぁ。ねぇ? 雪花ちゃーん。何かやってたのー?」
「ううん。なんにもできないよー?」
マジか、と堅の声がして、いいから2人ともミカン食べなよ、と思う。
ふとテーブルの上を見る。
ん? 2人とも食べてない?
食べていないどころか剥 いてさえいない。
ふ〜む。
よし、ここはひとつ、援護射撃 をしよう。
雪花はちらりとエマに視線をやる。エマが笑顔を返してきたので、エマの手元のミカンを見て、もう一度エマを見、次に堅の手元のミカンを見た。
エマの表情が変わる。どうやら通じたようだ。
「ねえ、ドラケン。ドラケンのミカン、ウチが剥 いてあげる!」
弾 んだエマの声を背に、雪花は洗面所へ向かった。
* * *
〈続く〉
佐野家に行くと、玄関から居間に通じる廊下にダンボールが置いてあった。
封はすでに開けられており、ダンボールの側面には、ミカンの絵がひとつ、
「こんにちはー」
雪花は家の奥へと声をかけて、靴を脱ぐ。
玄関の段差を上がったところでエマが出て来た。
「雪花ちゃん、いらっしゃい!」
「お邪魔します」
靴を
「これ、ミカンなの?」
「そうなんだ。箱でもらっちゃって。雪花ちゃんは、ミカン好き?」
「うん。わりと好きかな」
「じゃあ、一緒に食べようよ」
エマはダンボールの脇にしゃがんでフタを開ける。中にはぎっしりとミカンが詰まっていた。まだほとんど消費されていないようだ。
「雪花ちゃん、いくつ食べる?」
「え。1個でいいよ」
「わかった」
ミカンを3つ手にして立つと、エマはこちらに視線を向けた。
「行こ」
「うん」
エマと一緒に居間へと入ると、龍宮寺堅の後ろ姿が目に入った。
「あれ、ドラケン君も来てたんだ」
言いながらコートを脱ぐ。
「よっ! 雪花ちゃん」
堅が振り返って手を振る。
雪花も手を振り返し、こちらを見ていたマイキーにも手を振る。
「あれ。4人なのにミカン3個? 誰かミカン嫌い?」
「あー、マイキーがね」
エマが言うと、万次郎がそれを
「エマー、オレも食う。持ってきてー」
「ええ!? マイキー、
「気が変わったのー。食うから、持ってきてー」
「もう、しょうがないな」
エマはぶつぶつ言いながら廊下へ引き返す。
万次郎はあまりミカンが好きじゃないのかな、などと考えつつ、雪花は空いている万次郎の対角に座る。
追加のミカンをエマが持ってきて、おのおのがミカンを手にし、雪花もミカンを
「ねー、ユッキン、ミカン
……は?
「え。ミカンくらい自分で
雪花はすかさず
「オレ、ミカン
絶対に嘘だと思ったが、雪花は万次郎が差し出したミカンを受け取った。
「仕方ないなあ、もう」
言いながら外皮を
「はい。できたよ」
すると、万次郎は手にしたミカンを雪花の手のひらに戻す。
「オレ、この白い皮嫌い。取って♡」
なんだ、コイツ。
2人きりのときならともかく、エマに堅までいるというのに、甘えた声で甘えたこと言いやがって。
そこで、ふと思った。
━━あ。
そうか。わざとか。
エマはともかく、堅の前で、『オレ達はこんなにラブラブでーす』と言いたいわけか。
こういうところは本当に子供だ。
「分かった。手を洗ってくるから、待ってて。━━エマちゃん、洗面所借りるね」
エマを見るとぽかんとした表情だった。ついでに堅も。
「あ、うん。いいよ」
そうエマが言い。
「エマ。マイキーと雪花ちゃんって、いつもこんななのか?」
そう堅が言った。
あああ。恥ずかしい。
「うん? うーん? どうだろ。こんなような気もするけど、ときどきすごい
「雪花ちゃん、マイキーと
「うん。この前なんか、マイキーのこと
「マイキーを
「そんな
「ううん。なんにもできないよー?」
マジか、と堅の声がして、いいから2人ともミカン食べなよ、と思う。
ふとテーブルの上を見る。
ん? 2人とも食べてない?
食べていないどころか
ふ〜む。
よし、ここはひとつ、
雪花はちらりとエマに視線をやる。エマが笑顔を返してきたので、エマの手元のミカンを見て、もう一度エマを見、次に堅の手元のミカンを見た。
エマの表情が変わる。どうやら通じたようだ。
「ねえ、ドラケン。ドラケンのミカン、ウチが
* * *
〈続く〉
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