それが、はじまり。
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どうしてこんなことになった。
道玄坂にあるクラシックでレトロな内装の喫茶店の四人席。
そのうちの一席に座って、雪花はダラダラと冷や汗を流していた。
ときどきミニタオルで額を押さえる。冷や汗が止まらないため、タオルをバッグにしまうことができず、雪花は膝の上でタオルをぎゅっと握りしめていた。
日曜日。雪花は一人で渋谷にショッピングに来ていた。
服や雑貨などの店をいくつか回ったら、あっという間に午後になった。昼食がまだだったこともあり、お昼を食べるか、もう少しお店を見るか、考えながらなんとなく公園通りを上っていた。
そうしたら、女の子にご飯を一緒に食べないか、と声をかけられた。
ナンパをされることはときどきあったが、そういうときは無視をする。
だが、声をかけてきたのが女の子だったため、うっかり返事をしてしまった。
けれどいくら女の子でも、まったく知らない他人であることに変わりはない。友達と来ていて女の子が足りないから、とかなんとか訳の分からないことを言っていたが、当然断るつもりだった。
━━が。
突然、女の子の後ろから、男が現れた。
身長が高く、ガタイがいい。
まあ、それは問題ないだろう。そんな男はいくらでもいる。
その男がその辺の男と決定的に違っていたのは、ソリコミを入れた頭に、あろうことか大きなタトゥーが入っていたことだった。
見た瞬間、反射的に体がビクッと震えた。
絶対にカタギではない。声をかけてきた女の子の男だろうか。いや、彼氏だろうが友達だろうが、そんなことは関係ない。とりあえずこれは良くない状況だ。絶対に断らなければならない。
━━だというのに。
そう。
雪花は今、知らない女の子と、非カタギの男(仮)と、仲間だという小柄な男の三人とともに同じテーブルについていた。
言いくるめられたのか気圧されたのか判断できないまま、二人と公園通りを下り、駅前のスクランブル交差点でもう一人を拾って、四人で道玄坂の喫茶店に入った。
ランチの時間は過ぎているし、ティータイムにはまだ早い、そんな中途半端な時間なのに、店の中にはわりと客がいる。
まず雪花がほっとしたのは、店にいる客がごく普通の人たちなことだった。
どうやら三人の行きつけというわけでもなく、この店を選んだのは、たまたまのようだ。
とりあえず怪 しい人たちのたまり場やアジトだのみたいな場所に連れ込まれたのではなさそうなことに安堵 した。
席に着くと、エマと名乗った女の子が声を上げた。
「というわけで〜、雪花ちゃんで〜す! 可愛いでしょ〜」
可愛いとか言わないでほしい。
男二人の反応はなかったが、エマは構わずに雪花の方を向いて続けた。
「さっきも言ったけど、ウチはエマね。佐野エマ! それでこっちが〜」
こっち、と手でエマの向かいに座る辮髪 の非カタギ(仮)の男を指 した。
始めは、ソリコミを入れている、と思った男の髪型は、後ろ姿を見て辮髪 だということが分かった。中国人をコミカルに描いたイラストなどでよく見るあれだ。もっとも髪色は中国人の黒ではなく金髪に染められていたが。
「龍宮寺堅。通称 ”ドラケン“ !」
ドラ……?
ああ、名字の龍でドラゴン。名前の堅でドラゴンケン。略して ”ドラケン“か。誰が考えたのか、うまいニックネームを付けるものだ。
「そんで、そっちが〜」
エマはそっち、と雪花の目の前の小柄な男を指 した。こちらは少し髪が長いものの特異な髪型ではなかったが、髪色はやはり金髪だった。
「佐野万次郎。通称 ”マイキー“ ね!」
……ん?
こっちは分からない。どこをどうしたら ”マイキー“ になる?
名前の万次郎の ”マ“ しか共通していないが?
まあ、どうでもいいことだろう。とりあえず食事をしたら、さっさと帰ろう。今度こそ何が何でも帰るのだ!
そこで雪花はあることに気付いた。
「……あれ、佐野……?」
佐野エマと、佐野万次郎。たしかにそう言った。家族か親類なのか。
エマを見ると答えが返ってきた。
「うん。ウチとマイキーはね、異母兄妹 なんだ」
「へえ。えーと、どっちが」
「ウチが下」
エマが言ったところで、店員がお水とメニューを持ってきた。
小さな喫茶店だったが、軽食の種類も多く、ケーキも豊富だった。メニューは二つのため、雪花はエマと一緒にメニューのページをめくった。
「私、スパゲティーにしようかな。ミートソース」
「あ、ウチもそれにする。……ね、雪花ちゃん、ケーキは? おいしそうだよ」
そう言われて一瞬迷った。ケーキは写真でメニューに載っており、どれも魅力的だった。
さっさと食べて、早く帰りたいのだが。
だが。
「うん。食べようかな」
言ってしまった。ケーキの誘惑には勝てない。
エマと二人でどれにするか悩みに悩む。
けっきょく別々のものを注文して半分ずつ、分け合おうという話になった。
店員が注文を取りに来て、自分とエマはスパゲティーとケーキを頼む。
「クラブハウスサンド」
龍宮寺堅がそう言い、
「オレ、お子様ランチ」
目の前の男がそう言った。
お子様ランチ? 思わず視線を向けそうになったが、堪 えた。偏見はいけない。昔、大人女子の間でお子様ランチが流行したことがあったではないか。子供ではない男がお子様ランチを頼もうと、別におかしなことではない……はず。
道玄坂にあるクラシックでレトロな内装の喫茶店の四人席。
そのうちの一席に座って、雪花はダラダラと冷や汗を流していた。
ときどきミニタオルで額を押さえる。冷や汗が止まらないため、タオルをバッグにしまうことができず、雪花は膝の上でタオルをぎゅっと握りしめていた。
日曜日。雪花は一人で渋谷にショッピングに来ていた。
服や雑貨などの店をいくつか回ったら、あっという間に午後になった。昼食がまだだったこともあり、お昼を食べるか、もう少しお店を見るか、考えながらなんとなく公園通りを上っていた。
そうしたら、女の子にご飯を一緒に食べないか、と声をかけられた。
ナンパをされることはときどきあったが、そういうときは無視をする。
だが、声をかけてきたのが女の子だったため、うっかり返事をしてしまった。
けれどいくら女の子でも、まったく知らない他人であることに変わりはない。友達と来ていて女の子が足りないから、とかなんとか訳の分からないことを言っていたが、当然断るつもりだった。
━━が。
突然、女の子の後ろから、男が現れた。
身長が高く、ガタイがいい。
まあ、それは問題ないだろう。そんな男はいくらでもいる。
その男がその辺の男と決定的に違っていたのは、ソリコミを入れた頭に、あろうことか大きなタトゥーが入っていたことだった。
見た瞬間、反射的に体がビクッと震えた。
絶対にカタギではない。声をかけてきた女の子の男だろうか。いや、彼氏だろうが友達だろうが、そんなことは関係ない。とりあえずこれは良くない状況だ。絶対に断らなければならない。
━━だというのに。
そう。
雪花は今、知らない女の子と、非カタギの男(仮)と、仲間だという小柄な男の三人とともに同じテーブルについていた。
言いくるめられたのか気圧されたのか判断できないまま、二人と公園通りを下り、駅前のスクランブル交差点でもう一人を拾って、四人で道玄坂の喫茶店に入った。
ランチの時間は過ぎているし、ティータイムにはまだ早い、そんな中途半端な時間なのに、店の中にはわりと客がいる。
まず雪花がほっとしたのは、店にいる客がごく普通の人たちなことだった。
どうやら三人の行きつけというわけでもなく、この店を選んだのは、たまたまのようだ。
とりあえず
席に着くと、エマと名乗った女の子が声を上げた。
「というわけで〜、雪花ちゃんで〜す! 可愛いでしょ〜」
可愛いとか言わないでほしい。
男二人の反応はなかったが、エマは構わずに雪花の方を向いて続けた。
「さっきも言ったけど、ウチはエマね。佐野エマ! それでこっちが〜」
こっち、と手でエマの向かいに座る
始めは、ソリコミを入れている、と思った男の髪型は、後ろ姿を見て
「龍宮寺堅。通称 ”ドラケン“ !」
ドラ……?
ああ、名字の龍でドラゴン。名前の堅でドラゴンケン。略して ”ドラケン“か。誰が考えたのか、うまいニックネームを付けるものだ。
「そんで、そっちが〜」
エマはそっち、と雪花の目の前の小柄な男を
「佐野万次郎。通称 ”マイキー“ ね!」
……ん?
こっちは分からない。どこをどうしたら ”マイキー“ になる?
名前の万次郎の ”マ“ しか共通していないが?
まあ、どうでもいいことだろう。とりあえず食事をしたら、さっさと帰ろう。今度こそ何が何でも帰るのだ!
そこで雪花はあることに気付いた。
「……あれ、佐野……?」
佐野エマと、佐野万次郎。たしかにそう言った。家族か親類なのか。
エマを見ると答えが返ってきた。
「うん。ウチとマイキーはね、
「へえ。えーと、どっちが」
「ウチが下」
エマが言ったところで、店員がお水とメニューを持ってきた。
小さな喫茶店だったが、軽食の種類も多く、ケーキも豊富だった。メニューは二つのため、雪花はエマと一緒にメニューのページをめくった。
「私、スパゲティーにしようかな。ミートソース」
「あ、ウチもそれにする。……ね、雪花ちゃん、ケーキは? おいしそうだよ」
そう言われて一瞬迷った。ケーキは写真でメニューに載っており、どれも魅力的だった。
さっさと食べて、早く帰りたいのだが。
だが。
「うん。食べようかな」
言ってしまった。ケーキの誘惑には勝てない。
エマと二人でどれにするか悩みに悩む。
けっきょく別々のものを注文して半分ずつ、分け合おうという話になった。
店員が注文を取りに来て、自分とエマはスパゲティーとケーキを頼む。
「クラブハウスサンド」
龍宮寺堅がそう言い、
「オレ、お子様ランチ」
目の前の男がそう言った。
お子様ランチ? 思わず視線を向けそうになったが、