力をふるうたびに悲鳴が聞こえる。
死にたくない。生きたいと願う人間たちの声が。
リリナは黙ってそれを受け止める。
彼らの命を奪っているのはリリナでそうさせるだけの力を持っているからだ。
───化け物！　俺たちの命を奪いに来たんだ！
───うわああああ！　死にたくない！　死にたくない！
───お母さん！　助けて！
「泣く資格なんて私にはない……」
化け物と呼ばれようと彼らの命を実際に奪っているのだから。それがたとえ自分や仲間たちの命を守るための戦いとはいえ、そんなことは人間たちにはわからない。
《リリナ》
ふわりと優しい声が聞こえた。
「セレーネ？」
それはいつも優しく自分の包み込んで導いてくれた存在。ミュウの前副長、セレーネの声だった。
《来なさい。リリナ》
その声に導かれてリリナはセレーネの部屋へとやってきた。
「そんなに自分を責めないでよ……。貴女とジョミーが居なければ私たちは全滅していたわ……」
「それは分かっています。ただ悲鳴が頭から離れないんです……」
「死にゆく人間たちの声が聞こえたのね？」
「はい……。不思議ですよね……。彼らは記憶を消されたはずなのに最後に求めるのはお母さんなんです……」
「ええ、そうね……。でも彼らの声にとらわれすぎてはダメ。命を奪っていることには変わりないけれど、躊躇していたら大切なものを失ってしまうから……」
セレーネは優しく言った。
心をとらわれすぎるな。そう忠告しているのだ。
「はい、わかっています……」
「でも何も感じずに攻撃するのはだめよ。それこそ本当に機械のようになってしまう……」
「セレーネ」
「なあに？」
「励ましてくれてありがとうございます。もう大丈夫です」
「どういたしまして」
セレーネはリリナに微笑んだ。
リリナはきっと人類と戦うことになるだろう。それは予知などなくても分かる。
だから忠告したのだ。これからの彼女の道行きが曇らないように。戦うときに心を痛めて躊躇しないように。
そんなセレーネだが一つだけ願っていることがある。
（せめてこれから地球（テラ）の地を踏むであろうあなたに幸せがあるように……）
それは心の底からの願いだった。
せめてあなたが地球（テラ）で笑えるように。