エドガーの妹です。たった一人の家族のことをとても大事に思ってます。
もう一つの物語 甘い罠に気を付けて
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「そういえばカールトン教授、先日、あなたの新しい論文を拝見しましたよ」
エドガーは話題をさっと変えた。
「ほう、博物学に興味がおありですか」
「自然は突き詰めるほど奥が深い。まさに驚異という言葉は博物学のためにあると驚かせることばかりです。結晶構造についての分析など、非常に興味深く拝見しました」
「たしかに博物学は面白いですよね。知れば知るほどのめり込んでいく」
ライアンが頷く。彼はケンブリッジで博物学を学んでいるのだった。
「そういえば教授、古い文献で見かけたのですが、“妖精の卵”と呼ばれる石があるとか」
その言葉にリディアは惹きつけられたようだった。
「ええ、そういう呼び方をする石がありますね」
「父さま、その妖精の卵って本物なの?」
「鉱物の話だよ。ロマンティックな呼び名だが、ちょっとめずらしい瑪瑙のことだ」
「瑪瑙って、あれ?」
キャロラインがリディアの指す方をみると瑪瑙の原石がキャビネットに飾ってあった。
カールトンがそれを出して机の上に置く。
「こうしてみると瑪瑙そのものが、石の卵に閉じこめられているかのようですね。殻を割ってはじめて、中身が見える」
「本当……。神秘的ね……」
キャロラインとエドガーは興味深げに覗き込んだ。原石の外側は黒っぽいが内側に色鮮やかな縞模様が見える。
「でも、妖精の卵って呼ばれる瑪瑙は、こういうものではないんでしょう?」
「その呼び名は、ある瑪瑙につけられた固有名詞だからね。種類のことではないんだ。文献によると、乳白色にグリーンの模様が入った美しい石だそうだ。ペパーミントリーフというこの種の色合い自体がめずらしいが、“妖精の卵”は加えて水入り瑪瑙だという」
「水入り瑪瑙って?」
リディアは興味を持ったのか訊いてきた。キャロラインは水入り瑪瑙の存在を知っていた。昔、家で見たことがあるからだ。
「この瑪瑙の原石で見ても、石の中央に空洞があるのがわかるだろう?ここに、水が閉じこめられていることがあるんだ。ただしこのように割ってしまっては、水は確認できない。一瞬で蒸発してしまうからね」
「ではどうすれば、水があるとわかるんですか?」
エドガーが訊いた。
「振ったときに中で水の音がします。そういう石を見つけたら、外側から少しずつ削っていくわけです。薄く薄く、中心に近づいていったときに、中身がかすかに透けて見えます。大地の奥で眠り続けていた、太古の水のゆらめきです」
「すごいわ……」
想像してキャロラインはため息をついた。長い年月をかけて妖精の卵はできたのだ。
「おそらく妖精の卵という呼び名のイメージは、ペパーミントの葉脈で包んだような色合いと、水を不思議な生き物に見立てたためではないでしょうか」
「でも父さま、その珍しい瑪瑙なら、本当に妖精が入り込んでしまうことがあるかもしれないわ」
リディアの発言にラングレーだけがきょとんと顔をあげた。彼女の突飛な発言に慣れていないのだろう。
「妖精は美しいものが好きだし、瑪瑙の中の水は天地創造の六日間に閉じこめられた神秘の水だってことでしょう?妖精を引き寄せて、とりこにするにはじゅうぶんだわ。それに宝石は、光を取り込んで閉じこめる石よ。魔力も閉じこめる力があるもの。妖精も、入ってしまったら出られなくなるわね」
「たしかに、そのような使われ方をしたという記録はあるね。ほかの水入り瑪瑙は知らないが、“妖精の卵”に限って言えば、悪さをする悪魔を封じ込めたという逸話を持っているよ」
「ではその、妖精の卵と呼ばれる石は、今もどこかにあるんでしょうか?」
「あるんじゃないんですかな。十六世紀初頭にはカンタベリーの修道院にあったようです。以降のことは記録がないのですけど」
「でもエドガー、キャロライン、女の子たちの間で流行ってる妖精卵占いは瑪瑙じゃなくてガラス玉を使うんでしょう?」
「当たり前よ。本物の妖精卵を使うわけにはいかないもの」
キャロラインは即答した。貴重な妖精卵を遊びに使うわけにはいかない。
「ああそう、ここまでは僕の興味の話」
妖精に興味ないくせに。キャロラインはそう思った。
「そっちの妖精卵なんだけどね、売ってる場所がわかったよ。見に行かないか?」
「え、これから?」
「ごめんね~。お兄さまが急に」
キャロラインは謝った。兄に振り回されるリディアが気の毒になったのだ。
「それできみを誘いに来たんだ。クリモーンガーデンズの、日曜だけのイベントらしい」
そしてエドガーはカールトンを見た。
「カールトン教授、これからリディアさんと出かける許可をいただけますか?彼女にお願いしているフェアリードクターとしての仕事のことなんです」
「仕事なら、リディアが行くというのを止めるわけにもいかないが、もう夕刻だよ。遅くなりそうなのかな」
「遅くなると危ないからね。大丈夫なのか?」
「あの手のプレジャーガーデンズは、最近風紀が乱れていると聞きますからね」
ライアンとラングレーが心配そうにリディアを見た。
「用が済めば、きちんとお宅までお送りします。それに僕がついていますから、ご心配には及びませんよ」
「ええ。責任を持ってお送りしますわ」
「行きます。ちょっと待っててくれます?用意をしてくるわ」
立ち上がりかけたリディアにラングレーが声をかけた。
「あのー、リディアさん、忘れてました。よかったらこれ」
リボンで束ねた数本のマーガレットだった。
「いつも手ぶらでおじゃましてばかりなので。ああそうだ、今日はビスケットをごちそうさまでした」
「まあ、ありがとうございます」
リディアはにっこりとほほ笑んだ。
こんな顔をできるんだな。キャロラインはそう思ったのだった。
エドガーは話題をさっと変えた。
「ほう、博物学に興味がおありですか」
「自然は突き詰めるほど奥が深い。まさに驚異という言葉は博物学のためにあると驚かせることばかりです。結晶構造についての分析など、非常に興味深く拝見しました」
「たしかに博物学は面白いですよね。知れば知るほどのめり込んでいく」
ライアンが頷く。彼はケンブリッジで博物学を学んでいるのだった。
「そういえば教授、古い文献で見かけたのですが、“妖精の卵”と呼ばれる石があるとか」
その言葉にリディアは惹きつけられたようだった。
「ええ、そういう呼び方をする石がありますね」
「父さま、その妖精の卵って本物なの?」
「鉱物の話だよ。ロマンティックな呼び名だが、ちょっとめずらしい瑪瑙のことだ」
「瑪瑙って、あれ?」
キャロラインがリディアの指す方をみると瑪瑙の原石がキャビネットに飾ってあった。
カールトンがそれを出して机の上に置く。
「こうしてみると瑪瑙そのものが、石の卵に閉じこめられているかのようですね。殻を割ってはじめて、中身が見える」
「本当……。神秘的ね……」
キャロラインとエドガーは興味深げに覗き込んだ。原石の外側は黒っぽいが内側に色鮮やかな縞模様が見える。
「でも、妖精の卵って呼ばれる瑪瑙は、こういうものではないんでしょう?」
「その呼び名は、ある瑪瑙につけられた固有名詞だからね。種類のことではないんだ。文献によると、乳白色にグリーンの模様が入った美しい石だそうだ。ペパーミントリーフというこの種の色合い自体がめずらしいが、“妖精の卵”は加えて水入り瑪瑙だという」
「水入り瑪瑙って?」
リディアは興味を持ったのか訊いてきた。キャロラインは水入り瑪瑙の存在を知っていた。昔、家で見たことがあるからだ。
「この瑪瑙の原石で見ても、石の中央に空洞があるのがわかるだろう?ここに、水が閉じこめられていることがあるんだ。ただしこのように割ってしまっては、水は確認できない。一瞬で蒸発してしまうからね」
「ではどうすれば、水があるとわかるんですか?」
エドガーが訊いた。
「振ったときに中で水の音がします。そういう石を見つけたら、外側から少しずつ削っていくわけです。薄く薄く、中心に近づいていったときに、中身がかすかに透けて見えます。大地の奥で眠り続けていた、太古の水のゆらめきです」
「すごいわ……」
想像してキャロラインはため息をついた。長い年月をかけて妖精の卵はできたのだ。
「おそらく妖精の卵という呼び名のイメージは、ペパーミントの葉脈で包んだような色合いと、水を不思議な生き物に見立てたためではないでしょうか」
「でも父さま、その珍しい瑪瑙なら、本当に妖精が入り込んでしまうことがあるかもしれないわ」
リディアの発言にラングレーだけがきょとんと顔をあげた。彼女の突飛な発言に慣れていないのだろう。
「妖精は美しいものが好きだし、瑪瑙の中の水は天地創造の六日間に閉じこめられた神秘の水だってことでしょう?妖精を引き寄せて、とりこにするにはじゅうぶんだわ。それに宝石は、光を取り込んで閉じこめる石よ。魔力も閉じこめる力があるもの。妖精も、入ってしまったら出られなくなるわね」
「たしかに、そのような使われ方をしたという記録はあるね。ほかの水入り瑪瑙は知らないが、“妖精の卵”に限って言えば、悪さをする悪魔を封じ込めたという逸話を持っているよ」
「ではその、妖精の卵と呼ばれる石は、今もどこかにあるんでしょうか?」
「あるんじゃないんですかな。十六世紀初頭にはカンタベリーの修道院にあったようです。以降のことは記録がないのですけど」
「でもエドガー、キャロライン、女の子たちの間で流行ってる妖精卵占いは瑪瑙じゃなくてガラス玉を使うんでしょう?」
「当たり前よ。本物の妖精卵を使うわけにはいかないもの」
キャロラインは即答した。貴重な妖精卵を遊びに使うわけにはいかない。
「ああそう、ここまでは僕の興味の話」
妖精に興味ないくせに。キャロラインはそう思った。
「そっちの妖精卵なんだけどね、売ってる場所がわかったよ。見に行かないか?」
「え、これから?」
「ごめんね~。お兄さまが急に」
キャロラインは謝った。兄に振り回されるリディアが気の毒になったのだ。
「それできみを誘いに来たんだ。クリモーンガーデンズの、日曜だけのイベントらしい」
そしてエドガーはカールトンを見た。
「カールトン教授、これからリディアさんと出かける許可をいただけますか?彼女にお願いしているフェアリードクターとしての仕事のことなんです」
「仕事なら、リディアが行くというのを止めるわけにもいかないが、もう夕刻だよ。遅くなりそうなのかな」
「遅くなると危ないからね。大丈夫なのか?」
「あの手のプレジャーガーデンズは、最近風紀が乱れていると聞きますからね」
ライアンとラングレーが心配そうにリディアを見た。
「用が済めば、きちんとお宅までお送りします。それに僕がついていますから、ご心配には及びませんよ」
「ええ。責任を持ってお送りしますわ」
「行きます。ちょっと待っててくれます?用意をしてくるわ」
立ち上がりかけたリディアにラングレーが声をかけた。
「あのー、リディアさん、忘れてました。よかったらこれ」
リボンで束ねた数本のマーガレットだった。
「いつも手ぶらでおじゃましてばかりなので。ああそうだ、今日はビスケットをごちそうさまでした」
「まあ、ありがとうございます」
リディアはにっこりとほほ笑んだ。
こんな顔をできるんだな。キャロラインはそう思ったのだった。