エドガーの妹です。たった一人の家族のことをとても大事に思ってます。
もう一つの物語 甘い罠に気を付けて
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南向きのサロンに女性がひとりいた。エドガーとキャロラインがリディアのところに駆けつける前に話を聞いていた女性だ。
「お待たせしました、ミセス・マール。彼女がフェアリードクターの、リディア・カールトン嬢です」
エドガーがマール夫人にリディアを紹介する。
マール夫人はそれを聞いてやや表情を緩めた。
「まあ、こちらが……。魔女というと老女のイメージがあったものですから。こんな若いお嬢さんに、恐ろしい話などしてよろしいのかしら」
「ご心配なく。妖精のことでしたら、恐ろしさはよくわかっていますから」
「ええ。彼女なら大丈夫ですわ。どうぞお座りになってくださいな」
キャロラインは椅子を勧めた。
「それで、ドーリス・ウォルポール男爵令嬢が、フォグマンに連れ去られたかもしれないとのことでしたが?」
腰をおろしたマール夫人はエドガーの言葉にうなだれた。
「そうなんです。お嬢さまが、三日前から家に戻っていません。チャリティーバザーの手伝いに出かけて、その場ではぐれたというのが付き添っていたメイドの話でしたが、それきり行方が分からないのです。」
ドーリス・ウォルポール。彼女のことはキャロラインもよく知っている。十六歳で両親はいなかったはずだ。後見人の叔父と一つ年上の従姉のロザリーと共に暮らしているはずだ。地味でおとなしい子。と言うのがキャロラインの印象だ。
マール夫人は彼女の家で家庭教師をしていたらしい。結婚を機にやめたが親しくしていたらしい。遠縁ということもありドーリスの行方を気にかけているらしい。
だがこう言ったことは表ざたにすると家名に傷がつく。男爵家で内々に捜査しているが、霧男の話をしたところ笑われて終わったらしい。
悩んだマール夫人は事件を明かすのを承知でエドガーに頼ったらしい。
「あの日は、数歩先も見えなくなるほど霧の濃い日でしたからね」
エドガーの言葉にキャロラインはそう言えばそうだったと頷く。
その前の日も霧が出ていた。ダール公爵令息と共に馬車に乗って帰って来たから覚えている。
(最近、霧が多いわね……)
キャロラインはそう思った。いくら霧の都の異名を持つロンドンとはいえ、多すぎる。
「でも、どうして霧男なんですか?霧の日にいなくなったとしても、……このごろは、霧男の存在を本気にしている人はあまりいませんわ」
リディアはそこが気になったのか訊いた。
「ええ、実を言うとわたしも信じているわけでは……。すみません、ご相談にうかがっておいて。でも、霧に消えてしまったかのようにまるで手がかりがないんです。それにお嬢さまは、霧男のような妖精の存在を信じているところがありました。“妖精卵”とかいう遊びにも夢中になっておりまして。占い遊びのようなものだと聞いていますが、妖精との約束を破ったから、霧男に罰を受けるかもしれないなんて言って、怖がっていたのを思い出したので、どうしても気になって」
「妖精卵?あれね……」
キャロラインはその遊びを知っていた。
しかしリディアは知らなかったらしい。
「妖精卵?」
「知らないのか、リディア。女の子の間で流行ってるんだよ」
「アルファベットを書いた紙の上に、ガラス玉とコインを置くのよ。数人でコインの上に指を乗せるの。で、ガラス玉の中にいるという妖精に呼びかけるの」
「で、友達どうしが約束して“妖精卵”に誓うってのと、質問をして妖精が答えるってやり方がある。質問の方は、目には見えない妖精がコインを動かしてアルファベットをたどるから、意中の人と相思相愛になれるのか、自分をひそかに想っているひとがいるか、いろいろ教えてもらえるってわけさ」
エドガーとキャロラインが知らないリディアに教える。
「やったことあるのね」
「ええ」
「あるよ。おもしろいね、みんな夢中になってキャーキャー言ってた。未来の恋人は?なんて質問に自分のイニシャルの上にでも動かしておけば、すごく意識してくれるんだから、口説くよりカンタンだ」
やっぱりあの時の遊び、わざと動かしてたのね。いまさら知った事実にキャロラインは冷ややかな視線を兄に送った。
「ですからマール夫人、妖精卵は単なる遊びですよ。妖精なんかいなくても、参加者のうち誰かが故意に、あるいは無意識にコインを動かしているだけです。ただ彼女たちは、妖精の力だと信じ込んでいるから、約束を破ったり質問の途中でコインから手を離したり、妖精を怒らせることを少しばかり恐れているわけです」
「でも、妖精がいないとは言い切れないわ。彼らはいたずら好きだもの。ガラス玉に何か、妖精が興味を持つようなものがあれば、近寄ってきて占いに加わる可能性はあるわ」
リディアの言葉に夫人は不安げに身を乗り出した。
「ということは、もし妖精の機嫌をそこねたりすると、連れ去られるなんていうこともあるんでしょうか」
「そうですね……、ないとは言えませんけど、フォグマンはコインの遊びに加わるような妖精じゃありませんわ。悪意のかたまりみたいな、魔物といっていい精霊です。人と取引なんかしません」
まあ、と驚きの声を漏らし、夫人は身震いした。
「お待たせしました、ミセス・マール。彼女がフェアリードクターの、リディア・カールトン嬢です」
エドガーがマール夫人にリディアを紹介する。
マール夫人はそれを聞いてやや表情を緩めた。
「まあ、こちらが……。魔女というと老女のイメージがあったものですから。こんな若いお嬢さんに、恐ろしい話などしてよろしいのかしら」
「ご心配なく。妖精のことでしたら、恐ろしさはよくわかっていますから」
「ええ。彼女なら大丈夫ですわ。どうぞお座りになってくださいな」
キャロラインは椅子を勧めた。
「それで、ドーリス・ウォルポール男爵令嬢が、フォグマンに連れ去られたかもしれないとのことでしたが?」
腰をおろしたマール夫人はエドガーの言葉にうなだれた。
「そうなんです。お嬢さまが、三日前から家に戻っていません。チャリティーバザーの手伝いに出かけて、その場ではぐれたというのが付き添っていたメイドの話でしたが、それきり行方が分からないのです。」
ドーリス・ウォルポール。彼女のことはキャロラインもよく知っている。十六歳で両親はいなかったはずだ。後見人の叔父と一つ年上の従姉のロザリーと共に暮らしているはずだ。地味でおとなしい子。と言うのがキャロラインの印象だ。
マール夫人は彼女の家で家庭教師をしていたらしい。結婚を機にやめたが親しくしていたらしい。遠縁ということもありドーリスの行方を気にかけているらしい。
だがこう言ったことは表ざたにすると家名に傷がつく。男爵家で内々に捜査しているが、霧男の話をしたところ笑われて終わったらしい。
悩んだマール夫人は事件を明かすのを承知でエドガーに頼ったらしい。
「あの日は、数歩先も見えなくなるほど霧の濃い日でしたからね」
エドガーの言葉にキャロラインはそう言えばそうだったと頷く。
その前の日も霧が出ていた。ダール公爵令息と共に馬車に乗って帰って来たから覚えている。
(最近、霧が多いわね……)
キャロラインはそう思った。いくら霧の都の異名を持つロンドンとはいえ、多すぎる。
「でも、どうして霧男なんですか?霧の日にいなくなったとしても、……このごろは、霧男の存在を本気にしている人はあまりいませんわ」
リディアはそこが気になったのか訊いた。
「ええ、実を言うとわたしも信じているわけでは……。すみません、ご相談にうかがっておいて。でも、霧に消えてしまったかのようにまるで手がかりがないんです。それにお嬢さまは、霧男のような妖精の存在を信じているところがありました。“妖精卵”とかいう遊びにも夢中になっておりまして。占い遊びのようなものだと聞いていますが、妖精との約束を破ったから、霧男に罰を受けるかもしれないなんて言って、怖がっていたのを思い出したので、どうしても気になって」
「妖精卵?あれね……」
キャロラインはその遊びを知っていた。
しかしリディアは知らなかったらしい。
「妖精卵?」
「知らないのか、リディア。女の子の間で流行ってるんだよ」
「アルファベットを書いた紙の上に、ガラス玉とコインを置くのよ。数人でコインの上に指を乗せるの。で、ガラス玉の中にいるという妖精に呼びかけるの」
「で、友達どうしが約束して“妖精卵”に誓うってのと、質問をして妖精が答えるってやり方がある。質問の方は、目には見えない妖精がコインを動かしてアルファベットをたどるから、意中の人と相思相愛になれるのか、自分をひそかに想っているひとがいるか、いろいろ教えてもらえるってわけさ」
エドガーとキャロラインが知らないリディアに教える。
「やったことあるのね」
「ええ」
「あるよ。おもしろいね、みんな夢中になってキャーキャー言ってた。未来の恋人は?なんて質問に自分のイニシャルの上にでも動かしておけば、すごく意識してくれるんだから、口説くよりカンタンだ」
やっぱりあの時の遊び、わざと動かしてたのね。いまさら知った事実にキャロラインは冷ややかな視線を兄に送った。
「ですからマール夫人、妖精卵は単なる遊びですよ。妖精なんかいなくても、参加者のうち誰かが故意に、あるいは無意識にコインを動かしているだけです。ただ彼女たちは、妖精の力だと信じ込んでいるから、約束を破ったり質問の途中でコインから手を離したり、妖精を怒らせることを少しばかり恐れているわけです」
「でも、妖精がいないとは言い切れないわ。彼らはいたずら好きだもの。ガラス玉に何か、妖精が興味を持つようなものがあれば、近寄ってきて占いに加わる可能性はあるわ」
リディアの言葉に夫人は不安げに身を乗り出した。
「ということは、もし妖精の機嫌をそこねたりすると、連れ去られるなんていうこともあるんでしょうか」
「そうですね……、ないとは言えませんけど、フォグマンはコインの遊びに加わるような妖精じゃありませんわ。悪意のかたまりみたいな、魔物といっていい精霊です。人と取引なんかしません」
まあ、と驚きの声を漏らし、夫人は身震いした。