エドガーの妹です。たった一人の家族のことをとても大事に思ってます。
もう一つの物語 恋人は幽霊
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7.青騎士伯爵のほどこしたもの
レイヴンが持って帰ってきたのは銅板だった。
帆船や天使のモチーフが美しかったが、重要なのは模様だという。
それらは渦巻き模様でどことなく魔術的要素を感じさせた。
「これは……!」
ミスティアが何か思い出したかのように目を見開いた。
「魔除けの護符だそうです」
「ああ、そうだった。そういうものだったわ……」
クリスティナが感慨深げに呟く。
「レイヴン、続きを」
キャロラインが続きを促す。
「この銅板は最近複製されたものです。オリジナルの年代ははっきりしませんが、青騎士伯爵の依頼で作られたものらしいのです」
青騎士伯爵。兄が引き継いだ爵位だ。
かつての青騎士伯爵の愛人のつながりで“朱い月”は青騎士伯爵について詳しいのだ。
「誰かを魔から守る必要があったのか?」
エドガーはそこを疑問に思ったらしい。
「違うわ。個人じゃない。もっと大きなもの」
ミスティアが否定する。
「はい。ミスティアさまのおっしゃる通り、もっと大きなものです。これの持ち主は先祖から本体は建造物だと聞かされていたそうです。その先祖が建築にかかわり、図面を銅板にして残したのだとか」
「では本体は?」
「ここをご覧ください」
帆船の帆に描かれた紋章だった。
「ふたつ獅子……、ウィリアム征服王?」
ウィリアム一世はヘイスティングズより上陸したノルマン人の王。戦いに勝利して現在まで続く王室の祖となった。
「ということは本体の建造物がヘイスティングズに?」
「そうだろうと」
「ということはコリンズ家を狙ったわけではなく、別荘を建てたこの土地にプリンスの狙いがあったということね……」
キャロラインは考え込んだ。
「コリンズ家はプリンスの狙いがあるときに別荘を建てていたために巻き込まれた可能性があるということですね……」
シエルが口をはさむ。
「ええ、そうでしょうね」
キャロラインは頷いた。
「しかしなぜ青騎士伯爵が征服王の上陸した土地に魔除けを?」
「この地が重要なのは征服王が成し遂げたようにイングランドを制する要となっているからだそうです。なのでその昔、青騎士伯爵が悪しきものの侵入を防ぐためにこの土地に魔除けを築いたというのが“朱い月”の見解です」
そこでレイヴンはミスティアとクリスティナを見た。
彼女たちは何かを知っているのではないかと思ったのだ。
「その見解はあっていると思う。でも私たちも百年の眠りについて詳しいわけじゃないし、すべてを打ち明けられているわけでもない」
ミスティアが言った。
「すべてを打ち明けられているわけじゃない? どういうこと?」
キャロラインは怪訝そうな顔をした。
「私は“サンスーシー”だしミスティアは“シェーンブルン”なのよ」
「……なるほど……。君たちは嫁ぐ身だから詳しいことを教えられなかったんだね?」
「ええ。貴族って長子と次子への教育に差が出るでしょう? それに嫁ぐ身で家のかなめについてあまり教えてもらえるわけないじゃない。他家に漏らしたら大変なことになるんだし……」
「まあ、そうだね……」
エドガーも貴族の教育を受けている身だ。その理論は納得できた。
「……元の話に戻ろう。悪しきものの侵入は何を指しているのだろうか?」
レイヴンは困ったように首を傾げた。
「ミスティアお姉さまとクリスティナお姉さまは分かる?」
「そりゃ……。隣国(フランス)からよ。英国に海を渡ってやってくるのは大体フランスからだし……」
「大陸からの影響はヘイスティングズにくるから……。ウィリアム征服王だってここに上陸したしね……」
「お二方のおっしゃる通りだと思います。ヘイスティングズはほぼロンドンとパリを結ぶ直線上にあります。フランスの影響を封じるというか、ロンドンを、そして英国を外敵から守る砦として有効なまじないだったのではないかということです」
「二人目の征服王が現れないように魔除けでフランス軍を撃退しようってことか?」
フランスとの戦争は昔から繰り返されてきたし、教会が魔術を禁止しても王侯貴族の中には魔術をしっかり擁護している人もいた。
青騎士伯爵が国王のために魔術を施したとしてもありえない話ではない。
「ではプリンスは青騎士伯爵のまじないをどうしたいんだ?」
「分かりません。“朱い月”の情報はここまでです」
「たぶん壊したいんだとおもう。私たちがここに来たものプリンスが青騎士伯爵のものを壊して何かするんじゃないかって不安に思ったからだし。そうでしょう?」
ミスティアはアーミンをみた。
「ええ、壊したいのです。ユリシスは壊すとおっしゃっていました」
「で、やつはフランス軍を連れて乗り込むつもりなのか?」
「それはないでしょう。女王陛下に気づかれるまねをプリンスがするものですか」
今の段階で英王室に敵対してもプリンスにとっては良くないことだ。いずれ王位を取り返そうとたくらんでいたとしてもだ。
「いくらなんでも……」
アーミンも同意見のようだった。
「しかしアメリカの裏社会で成功しているプリンスがロンドンを制したいと思っている可能性はあるな。いずれにしろイギリスに来るつもりならこの海峡を通らなければいけないし、征服王に自分をなぞらえているのかもしれない」
「でしょうね……」
キャロラインは頷いた。
レイヴンもクロウもシエルも同意見で頷いていた。
「ユリシスとプリンスの思惑を阻止するなら、青騎士伯爵の術を守らなきゃならないけど。いったいあんなものをどうやって壊すというのだろうね」
「お兄さま、どこにあるかわかるの?」
「どこにこれと同じものがあるかご存じなのですか?」
レイヴンが訊いた。
部屋の全員がエドガーに注目する。
「このあたりの海岸にない岩があそこの地面にはところどころむき出しになっているんだ。リディアが斜面から落ちかけたとき、岩に頭をぶつけやしないかとはらはらしたから妙な丘だと思っていた」
「ではあそこの丘そのものが……」
「人が運んできた岩が埋められているんだ。たぶんそうなんじゃないかな」
「なるほど……」
キャロラインは納得した。
「可能性としてはあるわね。それにそういえばそうだった気もしてきた……」
ミスティアは頭に手を当てて言った。
「そうかもしれない……」
クリスティナも頷く。
「……目の前でリディアを連れ去られるなんて男として失格だな」
エドガーが呟く。
「でしょうね」
キャロラインは冷たく言った。
「目の前で婚約者を連れ去られようとしている男の態度じゃなかったし」
「落ち着いてだなんてよく言えるわよ」
妹と義姉たちの言葉にエドガーは目をそらした。
「こうなるとやっぱり、愛想をつかされると思うかい?」
エドガーはレイヴン達に訊いた。
「そうですね」
「そうなってもおかしくないかと」
「そうだと思います」
落ち込ませようとして言ったわけではないが、兄が少し落ち込んでいるのを見てこういう時だが少しいい薬だと思った。
「逃げられないように手を打っておいた方がいいかもね」
「そういう言葉がでるから愛想つかされるのよ。馬鹿兄」
「お変わりないようで安心しました」
兄妹のやり取りを見て、アーミンは起き上がれないながらも安心したようだった。
「さて、あとは彼が殺されていなければ動きやすくなるんだが」
「彼?」
首傾げる。
そこへノックの音がした。
レイヴンが持って帰ってきたのは銅板だった。
帆船や天使のモチーフが美しかったが、重要なのは模様だという。
それらは渦巻き模様でどことなく魔術的要素を感じさせた。
「これは……!」
ミスティアが何か思い出したかのように目を見開いた。
「魔除けの護符だそうです」
「ああ、そうだった。そういうものだったわ……」
クリスティナが感慨深げに呟く。
「レイヴン、続きを」
キャロラインが続きを促す。
「この銅板は最近複製されたものです。オリジナルの年代ははっきりしませんが、青騎士伯爵の依頼で作られたものらしいのです」
青騎士伯爵。兄が引き継いだ爵位だ。
かつての青騎士伯爵の愛人のつながりで“朱い月”は青騎士伯爵について詳しいのだ。
「誰かを魔から守る必要があったのか?」
エドガーはそこを疑問に思ったらしい。
「違うわ。個人じゃない。もっと大きなもの」
ミスティアが否定する。
「はい。ミスティアさまのおっしゃる通り、もっと大きなものです。これの持ち主は先祖から本体は建造物だと聞かされていたそうです。その先祖が建築にかかわり、図面を銅板にして残したのだとか」
「では本体は?」
「ここをご覧ください」
帆船の帆に描かれた紋章だった。
「ふたつ獅子……、ウィリアム征服王?」
ウィリアム一世はヘイスティングズより上陸したノルマン人の王。戦いに勝利して現在まで続く王室の祖となった。
「ということは本体の建造物がヘイスティングズに?」
「そうだろうと」
「ということはコリンズ家を狙ったわけではなく、別荘を建てたこの土地にプリンスの狙いがあったということね……」
キャロラインは考え込んだ。
「コリンズ家はプリンスの狙いがあるときに別荘を建てていたために巻き込まれた可能性があるということですね……」
シエルが口をはさむ。
「ええ、そうでしょうね」
キャロラインは頷いた。
「しかしなぜ青騎士伯爵が征服王の上陸した土地に魔除けを?」
「この地が重要なのは征服王が成し遂げたようにイングランドを制する要となっているからだそうです。なのでその昔、青騎士伯爵が悪しきものの侵入を防ぐためにこの土地に魔除けを築いたというのが“朱い月”の見解です」
そこでレイヴンはミスティアとクリスティナを見た。
彼女たちは何かを知っているのではないかと思ったのだ。
「その見解はあっていると思う。でも私たちも百年の眠りについて詳しいわけじゃないし、すべてを打ち明けられているわけでもない」
ミスティアが言った。
「すべてを打ち明けられているわけじゃない? どういうこと?」
キャロラインは怪訝そうな顔をした。
「私は“サンスーシー”だしミスティアは“シェーンブルン”なのよ」
「……なるほど……。君たちは嫁ぐ身だから詳しいことを教えられなかったんだね?」
「ええ。貴族って長子と次子への教育に差が出るでしょう? それに嫁ぐ身で家のかなめについてあまり教えてもらえるわけないじゃない。他家に漏らしたら大変なことになるんだし……」
「まあ、そうだね……」
エドガーも貴族の教育を受けている身だ。その理論は納得できた。
「……元の話に戻ろう。悪しきものの侵入は何を指しているのだろうか?」
レイヴンは困ったように首を傾げた。
「ミスティアお姉さまとクリスティナお姉さまは分かる?」
「そりゃ……。隣国(フランス)からよ。英国に海を渡ってやってくるのは大体フランスからだし……」
「大陸からの影響はヘイスティングズにくるから……。ウィリアム征服王だってここに上陸したしね……」
「お二方のおっしゃる通りだと思います。ヘイスティングズはほぼロンドンとパリを結ぶ直線上にあります。フランスの影響を封じるというか、ロンドンを、そして英国を外敵から守る砦として有効なまじないだったのではないかということです」
「二人目の征服王が現れないように魔除けでフランス軍を撃退しようってことか?」
フランスとの戦争は昔から繰り返されてきたし、教会が魔術を禁止しても王侯貴族の中には魔術をしっかり擁護している人もいた。
青騎士伯爵が国王のために魔術を施したとしてもありえない話ではない。
「ではプリンスは青騎士伯爵のまじないをどうしたいんだ?」
「分かりません。“朱い月”の情報はここまでです」
「たぶん壊したいんだとおもう。私たちがここに来たものプリンスが青騎士伯爵のものを壊して何かするんじゃないかって不安に思ったからだし。そうでしょう?」
ミスティアはアーミンをみた。
「ええ、壊したいのです。ユリシスは壊すとおっしゃっていました」
「で、やつはフランス軍を連れて乗り込むつもりなのか?」
「それはないでしょう。女王陛下に気づかれるまねをプリンスがするものですか」
今の段階で英王室に敵対してもプリンスにとっては良くないことだ。いずれ王位を取り返そうとたくらんでいたとしてもだ。
「いくらなんでも……」
アーミンも同意見のようだった。
「しかしアメリカの裏社会で成功しているプリンスがロンドンを制したいと思っている可能性はあるな。いずれにしろイギリスに来るつもりならこの海峡を通らなければいけないし、征服王に自分をなぞらえているのかもしれない」
「でしょうね……」
キャロラインは頷いた。
レイヴンもクロウもシエルも同意見で頷いていた。
「ユリシスとプリンスの思惑を阻止するなら、青騎士伯爵の術を守らなきゃならないけど。いったいあんなものをどうやって壊すというのだろうね」
「お兄さま、どこにあるかわかるの?」
「どこにこれと同じものがあるかご存じなのですか?」
レイヴンが訊いた。
部屋の全員がエドガーに注目する。
「このあたりの海岸にない岩があそこの地面にはところどころむき出しになっているんだ。リディアが斜面から落ちかけたとき、岩に頭をぶつけやしないかとはらはらしたから妙な丘だと思っていた」
「ではあそこの丘そのものが……」
「人が運んできた岩が埋められているんだ。たぶんそうなんじゃないかな」
「なるほど……」
キャロラインは納得した。
「可能性としてはあるわね。それにそういえばそうだった気もしてきた……」
ミスティアは頭に手を当てて言った。
「そうかもしれない……」
クリスティナも頷く。
「……目の前でリディアを連れ去られるなんて男として失格だな」
エドガーが呟く。
「でしょうね」
キャロラインは冷たく言った。
「目の前で婚約者を連れ去られようとしている男の態度じゃなかったし」
「落ち着いてだなんてよく言えるわよ」
妹と義姉たちの言葉にエドガーは目をそらした。
「こうなるとやっぱり、愛想をつかされると思うかい?」
エドガーはレイヴン達に訊いた。
「そうですね」
「そうなってもおかしくないかと」
「そうだと思います」
落ち込ませようとして言ったわけではないが、兄が少し落ち込んでいるのを見てこういう時だが少しいい薬だと思った。
「逃げられないように手を打っておいた方がいいかもね」
「そういう言葉がでるから愛想つかされるのよ。馬鹿兄」
「お変わりないようで安心しました」
兄妹のやり取りを見て、アーミンは起き上がれないながらも安心したようだった。
「さて、あとは彼が殺されていなければ動きやすくなるんだが」
「彼?」
首傾げる。
そこへノックの音がした。
