夢のカケラ

3.レヴ

小織は空色の瞳を持つ男からもらったキーホルダーを枕元のタンスに置いて眠った。
 小織は真っ暗な空間の中を歩いていた。
(ここはどこ?)
「よお」
 しばらく歩いていると男が現れた。銀髪の男で小織にキーホルダーをくれた男だ。
「あなた……」
「また会ったな」
 小織は混乱した。一体彼は何者なのだ?
「混乱しているな」
 男の言葉に小織ははっとして一つだけわかっていることを訊いた
「ここは夢の中なの?」
「ああ。俺はレヴ。「夢」を司るもの。おっと「夢」って言っても寝る時に見るものじゃないぜ。将来の「夢」の方だ」
 そう言ってレヴと名乗った男は首をすくめた。
「夢……」
 小織は呟いた。
「ふ~ん」
 レヴは小織の呟きを聞いて小織をじっとみた。
 空色の瞳にじっと見られて小織は居心地が悪くなった。
「あんた美人だ。だけど将来の夢もない。ただ惰性的に生きてるな」
 小織はぎくりとした。図星だったからだ。
「あんたこのままでいいと思っているのか?」
 それは思ってはいない。
「それは……。私は……このままではいいとは思っていない……」
 消えそうな声で小織は言った。
「なら変わるんだな」
「どうやって……?」
「俺が見つけられるようにサポートする。そうだな……。ほかの人の夢を紹介するっていうのはどうだ? あんたに会うのも見つかるかもしれない」
「分かった」
 小織は頷いた。
「なら決まりだ」
 レヴは指をパチンと鳴らした。
 すると暗闇が小さな星みたいな輝きでいっぱいになった。ちょっとしたプラネタリウムみたいだ。
「これは……?」
 小織はあたりを見回した。
「人々の将来の夢さ」
 レヴはそう言って一つの輝きを指す。それは今にも消えそうなほど弱弱しく輝いていた。
「これがあんたの。夢を忘れると輝きが弱くなる」
「私の……」
 小織は呟いた。
「そうだ。あんたにもあったはずなんだ。だけど忘れてしまった。そういうことさ」
「夢……」
 思い出せない。
「思い出せないならいい。まずはこれからだ」
 そう言って小織の輝きの横にある輝きを指す。
 それは小織のと違って夜空に輝く星のごとく輝いていた。
「これはあんたの住む町に住む少女の夢」
 レヴの言葉とともに一人の少女の顔が浮かび上がる。
 肩までの茶色のウェーブにぱっちりとした黒い瞳。いつも穏やかで優しい親友、佐々山(ささやま) 可南子(かなこ)だ。
「可南子……」
「なんだ。知りあいか? 」
 レヴが訊いてくる。
「うん」
 小織は頷いた。
「なら話は早い。彼女の夢は看護師になることだ。幼いころ風邪をこじらせて入院したときにあった看護師に感銘を受けたのが切欠だ」
「そうだったの……」
 可南子の夢は知っていたがその切欠までは知らなかった。
「それじゃあ次に行くぞ」
 レヴはそう言って歩いていってしまう。
「あ、待ってよ~!」
 慌てて小織は後を追った。
 その晩、小織はたくさんの夢を聞かされたのだった。

*      *

 小織は飛び起きた。
「夢か……」
(だけど夢にしちゃリアルだったな……)
 そう思って昨日男からもらったキーホルダーを見つめたのだった。
「小織。あんたいい加減に大学を決めなさいよ」
 朝食を用意しながら母親が言う。
「分かってるよ」
「いや。分かっておらん。そうしていつまでもダラダラしているのがその証拠だ」
 今度は父親が言ってくる。
「分かっているってば!!」
 小織の怒鳴り声とともに机が揺れる。
「……」
「……」
 それからの空気は最悪だった。
(今のままじゃダメだってことくらいわかってるよ! でもあんなにうるさく言わなくていいじゃん!)
 小織は学校に向かいながら胸中で愚痴る。
「小織~!」
 ぷんすかしながら教室に向かうと久美子が駆け寄ってくる。
「おはよう。久美子」
 それまでのいらいらした気持ちが久美子に会っただけで吹き飛んでいく。やっぱり久美子はすごい。
「宿題やってない~。教えて~!」
「うん。いいよ」
 教えるのもいつものことだ。別に苦労でも何でもない。
「ありがとう~。恩に着る!」
 そう久美子が言うのもいつものことだった。

*        *

「小織ちゃんはすごいよね」
「え?」
 可南子の言葉に小織は首を傾げた。
「何が?」
「久美子ちゃんとか私とかほかのクラスのみんなに勉強教えることができるじゃない?」
「うんうん。さすが学年でもトップテンに入る頭の持ち主」
 久美子が頷く。
「私、教えるのとか無理だし……」
「でも可南子。私は可南子と久美子が羨ましい」
「羨ましい……?」
 可南子が首を傾げる。
「うん。可南子は料理が上手で看護師になりたいっていう夢も持っている……。久美子は運動神経がよくてキャビンアテンダントになりたいって言う夢がある……」
 そこで言葉を切った。可南子と久美子は聞き入っていた、
「私は料理が上手じゃないし、運動神経もよくない。夢もないし……」
「小織」
 久美子が名前を呼ぶ
「焦んなくていいよ。夢は焦って探すものじゃない。それに私たちまだ高3なんだから将来の夢とかまだ決まらなくても大丈夫だよ。ね、可南子?」
「ええ。小織ちゃんは悔いのないようにしたいから大学を決められないんだと思う。それってすごくいいことじゃない?」
「久美子……。 可南子……」
 小織は二人の名前を呟く。
「私たちは小織の味方だよ」
「ええ。小織ちゃんの味方よ」
「久美子、可南子……ありがとう……」
 そうお礼を言うのが小織には精一杯だった。
 味方がいるだけで心強いものだ。

*      *

夜、小織はまたもやあの暗い空間にいた。
「あれ? 夢じゃなかったの?」
 小織は呟いた。
「夢と言えば夢だし現実と言えば現実だ」
 レヴが姿を現していった。
「どういうこと?」
「あ~。つまりだな。あんたの夢を通じて俺が司る空間に呼び込んでいるわけだ。だからあんたの夢だけど起こっていることは現実なわけだ」
「ここで起こっていることは現実なの?」
「ああ」
「だけど私の夢?」
「ああ。そうだよ」
 レヴは頷いた。
「そうなんだ」
 小織は納得した。
「納得したよ。あとここに呼べるのは一週間だ。今日を入れてあと6日だな」
「一週間? どうして?」
「あ~。あいつに協力してもらっているからな~」
「あいつ?」
 小織は首を傾げた。
「それは僕だよ~」
 その声とともに金髪に翡翠の瞳の青年が現れた。レヴと同じ年に見える。なんだか楽しそうな顔をしている。
「はあ……」
 レヴはため息をついた。
「あなたは?」
 この無邪気そうな青年は誰だろう。
「僕はトラウム。人が眠るときに見る「夢」を司る」
 青年はお辞儀していった。
「この馬鹿の面倒を見てくれたんだって――? ありがとね~」
 トラウムの言葉にレヴの眉間にしわを寄せる。
「そう言えばどうしてレヴは怪我をしていたの?」
「あ~」
 それを聞いてトラウムがくくっと笑った。
 ますますレヴの眉間のしわが深くなる。
「ちょっとイライラしててね~。八つ当たりとしてレヴにあたったんだけどちょっと当たり所が悪くて怪我をした上に人間界に逃げ込んだんだよね。そこへ現れて手当をしたのがきみってわけ」
「八つ当たり……」
 やっぱりこの二人って不思議だ。
「それにしても驚いたよ~。力を貸してほしいって普段気に食わない僕のところまで来るからどんな子のためかな~。と思ったらこんなかわいい子のためだなんて~」
 トラウムは翡翠の瞳を三日月型に細めた。
「出て行けっ!」
 レヴは空色の瞳を険しくして言った。
 空間に電撃がはじける。
「お~。怖い怖い」
 トラウムは茶化すようにそう言って空間に穴をあけて去って行った。
「まったくあいつは……!」
 レヴはため息をついて言った。
 それがおかしくて笑った。
「何がおかしい?」
「いや。二人って仲良いんだなって思って……」
「ふん! そんなわけなかろう。行くぞ」
 レヴは不機嫌そうに言ってさっさと歩いていった。
「もう待って~。一人で先に行かないでよ~」
 そう言って小織は慌てて後を追った。
 それからというもの小織の夢を通して色々な将来の夢を知ることができた。
 いろいろな将来の夢を知ることは小織にとって楽しかった。
 その時間に終わりが来ることには無視をして
3/7ページ
スキ