いつの日か輝いていた

5.あれから

あゆがケニアに旅立って五年後。俺は六本木の交差点に立っていた。
 社会人になり、仕事も軌道に乗っている。そんな中、夏が来るとあゆの事を思い出してしまう。あいつにケニアに行くと打ち明けられた季節だからなのだろうか。
 あいつがケニアで元気でやっているのかどうか分からない。あいつから連絡はないし、あゆの両親はあゆがケニアに旅立った後、大阪の方へと引っ越して行った。
(あいつ……。元気でやっているかな……)
 俺はぼんやりとそんなことを思った。最後にあゆから連絡があったのは四年前だ。ボランティアは上手くいってアフリカの国々を飛び回っているという事だった。
 アフリカには内戦がある国がまだあるという。内戦に巻き込まれていないといいが……。
 やがてミッドタウンの芝生広場に着いた。ここで俺はあゆに告白しようとして挫折した。スキヤキとか言ってごまかして最後まで俺は冴えなかった。あの時、告白していたら……。ここ五年間、俺はそのことを何度悔やんだことだろう。だが時は戻らない。
「あゆ……。ここで見た花火……。俺は自分の事でいっぱいでその美しさを実感することができなかった……」
 あれから毎年、俺はここのイルミネーションの花火を見に来ている。だが美しいとは思わなかった。あゆがいないからだろうか。
「お前は破天荒だった。なんど振り回されてもお前について行ってしまうのはその明るさに救われていたからだろうな……」
 二人で探した秘密基地、中学校時代、寄り道禁止だったのに二人でこっそり食べたクレープ。とてもうまかった。毎年のように星を見に行った。あゆとの思い出は俺の中で輝いている。
「あゆ……。どうして連絡してくれないんだ……」
 俺は不安だった。連絡がないという事はあゆはもう……。
俺は青空をもう一度見上げた。遠い空は手が届かない、見上げては巡らす。「さて行かなきゃな……」芝生広場を去ろうとした。そんな時後ろから足音がして俺の肩を叩く奴がいた。
「ん?」
 俺は振り向き心臓が飛び出しそうな程ドキッとした。
「りょう。久しぶり」
 そこにいたのは何と幼馴染だった。
「あゆ……」
 俺は声を失った。五年前よりさらに美しくあゆは成長していたからだ。髪は伸び、女らしくなっている。
「りょうがくれたこれのおかげで私はここに戻ってくることが出来たわ」
 そう言って五年前に俺が渡した四つ葉のクローバーのしおりを取り出した。
「大事にとっておいてくれたんだな」
「ええ。うれしかったもの。私の幸運のお守り」
 あゆはひらひらとそれを揺らす。
「あゆ。もう二度と俺を心配させるな」
 俺はそう言ってあゆを抱きしめた。
「当然でしょ」
 あゆの大きな瞳には青空が映る。
「話したいことがいっぱいあるの。りょう」
「ああ」
 俺は頷くとあゆと共に芝生広場を後にした。話したいことが星の数程ある。時間は永遠に続くのだ。これからもずっと。
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