喫茶店 ブラン

その喫茶店は特別な喫茶店。
悩みのある人にしか見えない。
あなたも悩みを解決しませんか?

夜の道を一人のセーラ服姿の少女が歩いていた。
「どうしよう……」
彼女の名は浅野あさの 凛奈りんな。黒い髪をお下げにしたどちらかと言えば地味な高校生だ。
やがて彼女は立ち止まった。
「あれ……。あんな喫茶店あったかな?」
看板に書かれていた名は「喫茶店 ブラン」
見たことのない喫茶店に興味をひかれた凛奈は中に入った。
中に入るとライトグリーンの壁紙に茶色のイスと机、カウンターの中にいる薄茶色のウェーブを一つに結んだ四十代くらいの女性と黒のストレートを一つにした同じ年くらいの女性だった。
「いらっしゃい」
薄茶色の髪の女性が笑顔で迎えてくれた。
凛奈がカウンターに座るとお水とメニューが渡される。
「あ、どうも」
メニューにはサンドウィッチやパンケーキなど様々なものが並んでいた。
「この今月のパンケーキって何ですか?」
今月のパンケーキに心ひかれた凛奈は訊いた。内容は店の人にお尋ねくださいと書いてある。
「生クリームとパッションフルーツのパンケーキよ」
「それとアイスティーをお願いします」
「はいはい~。美子みこ。今月のパンケーキとアイスティーが入りますよ~」
薄茶色の髪の女性が黒髪の女性に言った。
「分かったわ。璃子りこ!アイスティーお願いね」
美子は了解とばかりに言った。
「で、お客さんなにか悩み事でもあるの?」
アイスティーを置きながら璃子が訊いた。
「どうしてわかるんですか?」
凛奈は驚いた。
「勘、かな。この勘すごく当たるんだよね~」
璃子はそう言って笑った。
「でさ、悩み事を話してみなよ。誰かに話すとすっきりするかもよ」
凛奈は悩んだ。
悩み事を人に話していいものだろうか。
やがてパンケーキを焼く音が店に広がった。
「あの、悩みを聞いて下さいませんか」
アドバイスを貰えるかもしれない。そう思って凛奈は口を開いた。
「私、文化祭の実行委員なんです」
「へえ。すごいじゃない」
璃子は感心したように言った。
「でも、私そういうやるの初めてでどうすればいいのか分からないんです……。クラスをまとめようとすると頭が真っ白になっちゃって……」
凛奈は俯いた。もうどうすればいいのか分からないのだ。
「あなたはあなたらしくやればいいよ。変に気負ったりしないでさ。それとどういうのをやりたいのかノートに書いてみると頭がすっきりしていいかもね」
ノートに書いてみる。それはいいアイデアかもしれない。
凛奈は帰ったら実行してみようと思った。
「お待たせ。パンケーキよ。美子のパンケーキはおいしいんだから」
そう言って璃子はパンケーキを出した。
「食べればおいしいよ。悩みなんてすぐ吹き飛んじゃうんだから!」
美子も進めてくる。
凛奈はパンケーキを食べた。
「おいしい……」
パンケーキはふわっとしていてフルーツの酸味が程よく聞いている。病みつきになる。
すべて食べ終わる頃には凛奈はすっきりしていた。
「ありがとうございました」
会計をして店を出て行く。
振り返ってみると店は消えていた。
「あ、あれ?さっきまであったのに……」
凛奈は首を傾げた。
なんだか魔法にかけられたみたいだ。


喫茶店ブランの中を二人の女性が動いていた。
「悩みが一つ消えたみたいね」
璃子が言った。
「それはよかった。璃子のおかげね」
「いや、美子のパンケーキのおかげよ」
「そう?じゃあ私たち二人のおかげということで」
美子はそう言って笑った。
「さあ、美子。閉店にする?」
「そうね」
美子は頷いた。
二人は店の奥へと消えていった。


喫茶店ブラン。それは悩みのある人にしか見えない不思議な喫茶店。あなたもブランで悩みを解決しませんか。
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