夢のカケラ

5.私の夢

「決まったのか?」
 いつもの空間にいるとレヴが唐突に言った。
 レヴが言いたいことはわかっていた。だから小織は自分で決めた夢を言った。昔、夢見ていたからという安易な理由でなく考えた末の夢を。
「うん。やっぱり私、教師になりたい。いろいろ大変だろうけどそれ以外考えられないの」
「昔の夢、再びってか……」
 レヴが呟く。
「確かにそうだけど、それでも私考えたんだよ? 」
「知ってる。見てたから」
「え?」
 小織は面食らった。
「あ――、なんか気になってな。悪いと思ったがちょっと観察させてもらった」
 照れ臭そうに頭をかいてレヴが言った。
「現実世界に干渉できるんだ……」
 小織は感心した。
「まあな。ものすごく力を使うけどな」
「でも嬉しいな。そこまで気にしてくれてたなんて」
「別にあんたのためじゃねえよ」
 それが照れ隠しだということはすぐにわかった。
「さて、今夜で最後だ」
「うん……。ちょっと寂しいな……」
 小織は俯いた。
レヴと出会う前の時間に戻るだけだ。だけどそれがすごく寂しいと感じてしまうくらいにはレヴと触れ合ってきた。
「俯くな。確かにキーホルダーを通じてできた道は途絶える。だけど二度と会えないって決まったわけじゃないだろ?」
「うん」
 小織は頷いた。それと同時にキーホルダーを通してこの世界に呼び込んでいたのか。と感心した。
「また会える?」
「ああ。キーホルダーが約束の証だ」
 レヴが頷いた。
「なら私、それまで夢に向かって頑張るよ」
「ああ。頑張れ」
 優しいまなざしでレヴが言った。
「さあ、夢に向かって頑張ろうとするあんたに素晴らしいショーを見せてあげるぜ」
 レヴが指をパチンと鳴らすと空間に星みたいな輝きが現れた。言わずもがな人々の夢だ。
「覚えておけ。夢は星の輝きと同じだ。夢をあきらめてしまうとこの輝きは消えてしまう。だけど夢を抱き続ければ強く光り輝くんだ」
 レヴの言葉とともに人々の夢が輝き始めて動き出した。
「綺麗……。流星みたい……」
 小織は思わず呟いた。
 夢が流星みたいに流れていく。
「今度こそ夢を守るんだ。……小織」
「え!?」
 後ろを振り向くと誰もいない。
 いつの間にかレヴの姿が消えていた。
「約束だ。小織。また会えると」
 レヴの声がどこからともなく聞こえた。
「うん! また会えるよね!」
「ああ! 絶対だ。それまでじゃあな」
「レヴ―――!! ありがとう―――!!」
 小織は力いっぱい叫んだ。
 そして小織は下へと落ちていった。
 いろいろな人の夢が小織の目の前に浮かんでくる。
 みんな頑張っているのだ。
 そして目の前が真っ白になった。
「はっ!」
 小織は目を覚ました。
 キーホルダーを見るとわずかに光っていたがその光も消えてしまった。
 それで分かった。もうあの世界には行けないのだということを。
 それが寂しくて寂しくて寂しくて
 小織はキーホルダーを胸に抱きしめると泣いた。
 レヴの名前をとめどなく呟きながら。
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