夢のカケラ

4.あのころの夢

「最近、小織変わった?」
 久美子が訊いてきた。
「え?」
 小織は面食らった。
「なんか前より楽しそうだよ」
「うん。すごく楽しそう」
「そう?」
「うん」
 それはレヴがみんなの夢を聞かせてくれるからかもしれない。
 この時間を楽しいと小織は感じ始めていた。
 しかしどんな楽しい時間にも終わりは来るのだ。
 それを小織は思い知らされた。
「明日で終わりだな……」
レヴが呟いた。
「え……?」
 小織は戸惑った。
「力を貸せるのは一週間。トラウムがそう言った。今、この空間にお前を呼べるのは人が睡眠の時見る「夢」を司るトラウムの力があってこそ。トラウムには十分迷惑をかけた。だから明日でお前をここに呼べるのは最後だ」
「そんな……」
 小織は俯いた。
「私、どうすれば……」
「あのな~。お前逃げているだけじゃないか?」
 レヴは呆れたように言った。
「そんなことない!」
 図星をさされて小織はむきになった。
「むきになるのがその証拠だ。お前、真剣に考えてないんだ」
「うるさいうるさいうるさい!」
 小織は怒鳴った。
 もう必死だった。
「……ごめん。図星さされてむきになってた……」
一通りレヴに怒鳴ると小織は謝った。
 頭が冷えたのだ。
「自分の間違いを認めるのはえらいことだ。ご褒美に一つ昔話をしようじゃないか」
レヴはそう言って座り込んだ。
 小織も習って座る。
「ある少女がいた。その少女は教えるのが好きで先生になりたいと思っていた――。しかし、両親から反対を受けいつしか先生になる夢をあきらめて夢も何もなく惰性的に日々を生きるようになってしまった――」
 それを聞いて小織には思い出したことがある。
『私、先生になる!』
 中学のころまでそう言っていたはずだ。
 教えるのが好きで先生になりたかった……。
 それに中学の頃の担任の先生が素敵でそれに拍車をかけた。
 しかし――。
『先生なんて大変だわ。やめときなさい』
『もっといい職業に就くべきだよ』
『小織ちゃんは頭が良いから官僚になるべきだよ』
『なりたいって気持ちじゃなれないんだぞ』
 両親や親戚の反対に遭った。
 それでいつしか夢を見るのを諦めてしまった。
 先生になりたい。その気持ちを封印して日々を過ごしていく羽目になった。
「私……、私……」
 小織はすべてを思い出した。
「思い出したか?」
 レヴが訊いた。
「ええ」
 小織は頷いた。
 すべてを思い出した。
「なりたいなら誰に反対されても貫くべきだったんだ。
諦めるなんてらしくない」
 レヴが言った。
「今からでも間に合うかしら?」
「ああ。きっとな。死ぬ気で親を説得してみろ」
「うん……」
 そう頷いたところで目が覚めた。

*       *

 目が覚めると小織はキーホルダーを見つめた。
「なりたいもの……」
 あのころ夢見てた気持ちが蘇ってきていた。
「私の夢……」
 家を飛び出した。
 今日は土曜日で学校もないのに。
 家を飛び出して向かった場所は本屋だった。
 大学の入試関連の書籍がおいてあるところに行き本を手に取ってページをぱらぱらとめくった。
 手に取った本はすべて教育大に関するものだった。その他にも教師に関する本を手に取った。
(ああ……。どうして忘れてしまっていたんだろう……)
 ぽたり。
 涙が手の甲に落ちてくる。
 知らず知らずのうちに泣いていたらしい。
(決めたよ。レヴ。私――)
 小織の目が夢を見ていたあの頃のような決意で輝き始めたのだった。
(そう。私は――)
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