青き真珠

「なんて言った?」
朝食の席で言われたことに思わず昴は訊き返した。
「買い物に付き合えって言ってるの。地球で暮らすには洋服とかの日常品が必要でしょ」
スピカはそう言って朝食のベーコンを一切れ食べた。
「まあそうだけどさ……。すでにあるじゃねえか。」
昴は昨日のスピカのジーンズに水色のTシャツという恰好を思い出しながら言った。
それに今のスピカはピンクのフリルがついたワンピースという恰好をしている。
「あれは故郷から持ってきたものなのよ。でもそんなに多くは持っていけなくて…。それに服はいくつあったっていいじゃない。」
別に買い物に付き合うのは昴とて嫌じゃない。だが同級生に出くわしたときになんて言われるかと思うと憂鬱になるのだ。
「なんで俺なんだよ。一人で行って来い」
「私地球のデパートのこと詳しくないもの。ね、お願い。」
手を合わせてスピカがお願いした。
「仕方ねえな……。」
それに昴はため息をついて渋々と同行をすることを認めた。
友人にあったら母の知り合いの娘とでもごまかしておこう。
そう昴は考えたのだった。
それから三〇分後、昴とスピカは宙圃町一のデパート、「ミルキーウェイ」にいた。
「結構品揃えあるのね!」
スピカが感心したように言った。
「まあな。これでも宙圃町一だから。」
昴はそう言った。
「ミルキーウェイ」は宙圃町の中心部にある。
この宙圃町は北部に昴が通う学校があり、南部は宙圃の森、西部に住宅地、東部に商店街、中心部に駅やデパートなどがある。すぐ隣に都内有数の都市、有野があることからかなり人が集まる町でもある。そのためデパートの品ぞろえは豊富なのは当然なのである。
「で、何を最初に買うんだ?」
「まずは歯ブラシとかの日常品。」
「了解。じゃあ三階だな。」
昴はそう言ってスピカを連れて三階に上がっていったのだった。
スピカが歯ブラシや櫛、シャンプーなどの日常品を買い終わった時には時計の針が一時になろうというところだった。
「なんかお腹すいたね。」
「そうだな。じゃあなんか食べよう。」
「いいわね。それ」
二人はそう言って洋食屋に入った。
昼食にスピカはエビフライ、昴はオムライスを頼んだ。
「なんか地球っていいところね。自然もあるし」
スピカがエビフライを食べながら言った。
「そうか?」
昴は首を傾げた。
「そうよ。シェイル星なんて自然があまりないところなのよ。だから湖なんて見たの初めてで」
「湖って……。川瀬の姉さんがみたっていう宇宙船はあんたのだったのか」
昴は川瀬の話に出てきた宇宙船の正体をいま初めて知ったのだった。
そのあと二人はスピカの洋服を選びに行った。
「いろいろな洋服があるわね。迷っちゃうわ」
スピカはそう言って悩んだ。
「はあ……。」
昴はため息をついた。長時間待たされ、荷物持ちされるこっちの身にもなってほしい。
ようやくスピカが洋服を決め二人がデパートを出ようとエレベーターに行こうとした時だった。
「来る!」
スピカはそう言うと昴を突き飛ばした。
それと同時に昴がいた所にビームが飛んできた。
「奴らが来たわ。ここじゃまともに戦えない!人気のないところへ行きましょう」
スピカは昴の手を引いて人気のないところへと連れて行った。
「さあ、出てきなさい!エルナト、アルデバラン!」
屋上に来るとスピカは叫んだ。
「さすがスピカね」
「ああ、優秀な『COSMOS(コスモス)』隊員なだけある。」
二人が姿を現した。
「昴は隠れていて!」
「あ、ああ。」
昴はスピカの言葉に頷くと屋上の壁際の方に向かった。自分は邪魔になるだけだと思ったからだ。
「さあ、くたばりなさい!」
エルナトがそう言ってビームを撃ってくる。
スピカはそれをかわすと腕時計をかざし、そこから銃を出した。
「くらえっ!」
そう言うと銃からビームが出た。レーザー銃だ。
「うわっ!」
エルナトはかわしたがアルデバランの裾をかすった。
「よくもっ!」
アルデバランがレーザーを連射する。
スピカはそれをすべてかわすと空気銃を二発撃ち、エルナトとアルデバランに当てた。
「うぎゃっ!」
「ぎゃあっ!」
二人は悲鳴を上げた。
「さてと。私たちはこれでお暇するわ」
スピカはそう言うと玉のようなものを取り出して投げつけた。
一面が煙で真っ白になった。
「けほっけほっけほっ。奴らは?」
「けほっけほっ。煙で前が見えない。」
エルナトの疑問にアルデバランは咳き込みながら答えた。
やがて煙が晴れた。
「いない!?」
エルナトは驚いた。
「逃げたか……。」
アルデバランはそう言うと舌打ちをした。
そこから数百メートル離れた場所の上空にスピカと昴はいた。
「はあ……。やっと逃げ出すことが出来た。」
スピカはため息をついた。
「また奴ら追ってくるんじゃないのか?」
「そうね。でも、私は戦争中ならともかくなるべく人は殺したくないの。だから奴らに怪我を負わせただけに止めたの。」
「そうか……」
昴はスピカの言葉にそれだけを言った。
なるべく人は殺したくない。
その気持ちに共感できたからだ。
「あ~あ。疲れた。昴。夕飯よろしく。」
「はいはい。」
スピカの態度に苦笑しながらこんなのも悪くないと昴は思ったのだった。
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