ルミエーラ

「ヴィクトリア……」
 ルイボスは冷たい彼女の手を頬に当てて涙を流していた。心がここにないのが哀しかった。
「無駄だ。彼女は私の操り人形……」
 ヴェスター伯爵が冷たく言った。
「取り戻して見せる!」
 ルイボスが言ったときピクリとヴィクトリアの手が動いたが彼は気づいてなかった。
「言ったはずだ。彼女は私の意のままだと」
 その時ヴィクトリアから出ていた光が突然止んだ。
「なんだ!?」
 ヴェスター伯爵はうろたえた。
「私はあなたの操り人形ではないわ」
 はっきりと意志を持った声が部屋に響いた。
「ヴィクトリア!」
 ルイボスが喜ぶ。
「正気に戻ったか!」
「よかった!」
 グレイとハーブが喜ぶ。
「馬鹿な……。私の薬は完璧だったはず……」
 ヴェスター伯爵は呆然としてヴィクトリアを見る。
「貴方は人と人の絆に負けたのよ。残念だったわね」
 ヴィクトリアはそう言うと再び目を閉じた。
「神秘の樹よ。私の声にこたえて……」
 再び白い光が当たりに満ちた。
 ヴィクトリアは白い光を呼びだすと意識を大きな樹の前に飛ばした。
「これが神秘の樹……」
 それは天までそびえたつ大きな樹だった。
【ようこそ。光の子ルミエーラ
 銀髪に青い瞳の女性がヴィクトリアの前に現れた。
「貴女は……?」
【私は神秘の樹の意識体。会えてうれしいわ。ステラの子よ】
「お母さまを知っているの?」
【ええ。彼女は私とコンタクトをとれました】
「どういうこと?」
 ヴィクトリアは首を傾げた。何故母は彼女とコンタクトをとれたのだろう。
【まれにですが、私と波長が合ったためコンタクトをとれる女性が生まれることがありました。光の子ルミエーラはそんな女性から何十年かに一度生まれるのです】
「お母さまがあなたとコンタクトをとれたから……」
【ええ。そうです。……その力は望めば奥深くに封印することができます。そうすれば普通に暮らせるでしょう?】
「それはよかった……!」
 ヴィクトリアにとって喜ばしいことだった。
【では貴女の強い望みを】
「戦争をやめさせたい……。私のせいで起こってしまったようなものだもの……」
【それはあなたのせいではないでしょう。でも分かりました。では波長を合わせて……】
 二人が祈ると神秘の樹が光る。
 そして樹が強い光を発するとその衝撃で元の身体にヴィクトリアは戻った。
 ヴィクトリアが目を開けるとそこはテントだった。
 相変わらず身体は白く輝いている。
「私の望みよ。叶え!」
 すると白い光の一部が羽のような形を取り始めた。さながら天使の様に。
「天使……」
 ルイボスは呆然と呟く。
 部屋に満ちていた光は戦場のすべてをやがて覆い始めた。
「あれ? なんでここにいるんだ?」
「こんなことしても意味ないよな」
「仲良くしようぜ」
 兵士たちが殺し合いをやめて引き揚げていく。それは敵味方関係なかった。
「兵を引くな! 私の命令だ!」
 ヴェスター伯爵が喚く。
「みっともないですよ。おじいさま。戦争は終わるんです」
 そこへ声が響いた。
「王太子殿下……!」
 ヴェスター伯爵が慌てて頭を低くした。
「おじいさま、あなたは国王に夢を見させる薬を使いましたね。あれはこの国では使用が禁止されていたはずですよ。それとビリアンによるとあなたの領地から不正に金が流れている形跡を見つけました。この二つだけでもあなたを逮捕できます」
「私に逆らうのか!」
「逆らう? 僕を従えさせることができるのは陛下だけです。それに僕はあなたの操り人形では、ない」
 きっぱりと王太子は言った。
「ヴェスター伯爵。好き勝手やってくれたようだな。私は私のしたことをつけるためにあなたを逮捕する」
「陛下……!」
 そこに国王が姿を現した。後ろにはビリーとイーリマがいる。
 王は厳しい顔をしていた。
「捕まえろ」
 王が命じると騎士団の人がヴェスター伯爵と伯爵に味方していた騎士団の者を捕え始めた。
「貴方の野望はこれで終わりです……」
 王太子の言葉に伯爵はうなだれたのだった。
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