ルミエーラ

12.霧が晴れたら

 ヴィクトリアはいつの間にか緑あふれる庭園みたいなところにいた。
「ヴィクトリア」
「お母さま」
 ヴィクトリアは亡き母に抱きついた。
 ずっと会いたかったのだ。
「お茶をしましょう。みんないるのよ」
 母はそう言って笑った。
 母の後をついていくとそこには父や兄弟姉妹、グレイやルイボス、ハーブ、フィエロにビリーにイーリマ、ローズマリー、セイロンやヴィクトリアの祖父母や親戚がいた。
 親しい人たちや亡くなった人もそこにはいた。
「さあ、ヴィクトリア……」
「うん」
 ヴィクトリアは頷いて席に座った。
 その時鈴がチリンとなる音がした。
「ん……? 何だろう……?」
 それは天使の形をした鈴だった。
「不思議……」
 ヴィクトリアはそれを見つめて鳴らしてみた。
 鳴らすと涼やかな音がした。
「ヴィクトリア」
「あ、はい」
 ヴィクトリアは促されてお茶を飲んだりお菓子を食べたりした。
 そこは楽しい時間だった。
(でも何か忘れている気がする……)
 ヴィクトリアはさっきの鈴にそっと触れたのだった。
「楽しいわね」
 何日か経ってヴィクトリアは母と散歩していた。
「お母さま……。私、何か忘れている気がするの……」
「気のせいじゃない? このままでいいじゃない」
「それじゃ駄目なの。帰らなきゃいけない場所があるの」
 ヴィクトリアは必死だった。
 鈴がまたなる。
 二人はしばらく黙った。
「これは、夢だよね……? お母さまもセイロンも死んでいる……」
 セイロンと過ごしたのは短かったが、彼は優しくて必死でヴィクトリアを守ってくれた人だった。
「夢でもいいじゃない。このままここにいたら逃げ隠れする辛い運命からは解放されるわよ?」
「それじゃあ駄目。このままここにいても現実は変わらない」
 チリーン
『目を覚ませ! ヴィクトリア――!!』
 上からルイボスの声が聞こえた。
「ルイボス――!!」
 ヴィクトリアは叫んだ。
「行きなさい。その鈴に願えば帰れるわ」
 母は静かな顔でヴィクトリアを見ていた。
「貴女はどんなに辛くてもその道を行くのね。いいわ。可愛い私の子。貴女の道行きに幸せがありますように……」
「ありがとう……。お母さま」
 ヴィクトリアは涙を流す。
「幸せに、なって――」
 最後にそう言って母は消えた。
「私は私の帰る場所に帰る!」
 鈴から七色の光が溢れだし、ヴィクトリアの視界が光で覆い尽くされた。
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