ルミエーラ

 カツン、カツン
 牢に通じる階段を下りる音がした。
 グレイは顔をあげた。
 靴音からして見張りではないと感じたのだ。
 姿を現したのは二人の少女だった。ともに黒髪で青い瞳をしていた。年上らしき少女は男装していた。
「君は……?」
 グレイはその少女たちを知らなかった。
「あなたたちを助けに来ました」
 年下らしき少女が言った。
「どうやって?」
 ルイボスが訊く。
 彼は突然現れた少女たちを警戒しているのだ。
「これでです」
 年上の少女が鍵を見せる。グレイたちの牢の鍵だ。
「だが……」
 グレイは戸惑った。罠かもしれないのだ。
「私はクレア・ド・アルセリア。こっちは……」
「ラチカ・ド・アルセリアです」
 二人はグレイたちが警戒しているのをみて名乗った。
「ヴィクトリアの……」
 ルイボスは表情を緩めた。
「あんたたちはヴィクトリアの姉妹だな?」
 グレイも気づいたようだ。
「ええ。あの子を助けて欲しいんです」
「お姉さまは薬で心を失くしてて……。こんなこと頼むのは図々しいと思うのですが心を取り戻して欲しいんです。貴方達の方が一緒にいた時間は長いんだもの。呼びかければ心を取り戻すはずだわ」
 ラチカは必死で訴えた。
「ヴィクトリアが……」
 ルイボスは仰天した。
「あの伯爵そこまでするか……」
「腐ってるわね……」
 グレイとハーブは伯爵の所業に怒っていた。
 カチャン
 牢の鍵が開く音がした。
「今ならここから見張りに見つからずに出られます。早く」
 ラチカが急かす。
「ああ。助かる」
 グレイは感謝して牢から出た。ルイボスとハーブもあとに続く。
 そこへ一人の侍女が駆け込んできてクレアに耳打ちした。
「なんですって!?」
 クレアが叫ぶ。
 それほど驚いたのだ。
 やがて焦った顔でグレイたちを振り向いて言った。
「ヴィクトリアはヴェスター伯爵と共に戦場となる予定の地に向かったそうです」
「そんな!」
 戦争になると言う事だ。
「ここから出てヴィクトリアたちを追ってください。馬は準備させます」
 そう言って牢の壁を押した。
 激しい音がして人一人が通れる穴が空いた。
「ここから外に出られます」
「何から何までありがとう」
 ルイボスたちはお礼を言ってその穴の中に入った。
 早くヴィクトリアを助けねば……!
「無事で……」
 クレアとラチカはルイボスたちを見送ると逃げたことを知られない為穴を元の壁に戻したのだった。


 ルイボスたちは長い秘密の通路を通ると外に出た。
「出れた!」
 ルイボスは出るとあたりをきょろきょろした。
「どっちに向かえばいいんだろう……」
「知らん」
「分からないわ」
 グレイもハーブも知らなかった。
「あ……」
 ルイボスは何かを見つけて動きが止まった。
「兄さん……」
 そこにいたのはルイボスの兄のセージだった。
「ルイボス、ごめんな……」
 開口一番セージは頭を下げて謝った。
「俺はただお前が羨ましかっただけなんだ。剣も勉強も俺より上の弟……。母さんも父さんもお前ばっかりほめて……。だから俺は出世してやる。というイアン先輩の言葉に乗ってしまったんだ。でもお前の売るのは間違っているよな……。あの子――ヴィクトリア殿下に言われて初めて気が付いたんだ……。本当にゴメン……」
「確かに裏切られたのはショックだったけど,謝ってくれたならもういいよ。それに僕も兄さんの気持ち考えてなかったし……」
「ルイボス……。ありがとう。……馬はこっちだ……」
 セージはそう言ってさっさと歩きだした。
 ルイボスたちは顔を見合わせると後を追った。
 セージの向かった先には馬が三頭いた。
「これに今から乗れば明日の昼ごろにはつける。一番早い馬を選んだんだ」
「ありがとな。セージ」
 グレイがセージの頭をなでる。
 セージはうれしそうだった。
「さあ、早く行きましょう」
 ハーブが急かす。
 三人は馬にそれぞれ乗った。
「荷物はくくりつけてあるからね」
「それは助かる」
「それにしてもヴィクトリアがあなたをなじるなんてね」
 ハーブがクスリと笑った。
「らしいと言えばらしいよ。彼女ならしそうだ」
 ルイボスはヴィクトリアのことをハーブより知っていた。
「ああ。そうだな」
 グレイも頷く。彼が一番彼女のことを知っていた。
「では行くぞ」
 そして三人は馬を操って駆け去っていった。
 セージは見えなくなるまで見送ったのだった。
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