ルミエーラ

11.戦場へ

崩れ落ちたヴィクトリアを見てヴェスター伯爵は満足げに笑った。
「起きるんだ」
 そして無理に起こす。
「ん……」
 ヴィクトリアは目を開けた。
「明後日には戦争を始める。協力してくれますね?」
「はい……」
 抑揚のない声でヴィクトリアは言った。
 その瞳には生気がなかった。
「よし。では部屋に帰って休んでください」
「はい、そうします……」
 ヴェスター伯爵はイアンとセージを呼ぶと部屋まで送るように言った。
 イアンはすぐに頷いたがセージはヴィクトリアの生気のない瞳を痛ましげに見つめた。
 ヴィクトリアは部屋に戻るとすぐさま着替えようとした。
 チリン
 白いドレスのポケットから何かが落ちる。
(何かしら……?)
 ヴィクトリアはそれを拾った。
 それは天使の形をした鈴だった。
 ルイボスがヴィクトリアに贈ったものだった。
 知らず知らずのうちに涙が流れていく。
 それが大切なものなような気がするのだ。
(私、何か大切なものを忘れているような気がする……)
 用意された青のドレスを着るとそれをポケットにしまう。
 そうしなければいけない気がしたのだ。
 チリン
 ヴィクトリアに何かを思い出させるように鈴がまたなった。
 それから数日後――。
「どうしておじいさまは……」
 おじいさまは自分の部屋で俯いていた。
 心を無くしたヴィクトリアは見てて痛々しい。
 感情豊かで意思の強い瞳が今は見る影もない。
「僕に何ができるのだろうか……?」
「分かりません。でもできることはあると思います」
 王太子の護衛についていたセージが言った。
「できること……。母上もおじいさまもおかしい。あの状態のヴィクトリアを喜んでいる……」
 王太子は周りの人間の反応が我慢がならなかった。
 心を無くした状況がいいわけないだろうに。
「セージ」
「はい。殿下」
「僕のすることについてくるかい? 僕はおじいさまと母上に反旗を翻す」
「はい。俺も俺のしたことを償いたいですから」
 セージはルイボスを裏切ったことを後悔していた。だからこそ王太子を手伝いたいのだ。
「そうか。では行くぞ」
 そう言って王太子は部屋を出た。セージは慌てて後を追ったのだった。
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