ルミエーラ

王太子が訪問してから三日経った。
 ヴィクトリアは日課として窓の外を見つめていた。
「ふんっ! 相変わらず憎たらしい顔ね」
 憎々し気な声が聞こえた。
「第一王妃さま……」
 ヴィクトリアは顔をしかめた。
 彼女の事が好きではないのだ。母親の死に関わっているから当然と言えば当然だが、この世のすべてが自分のものという態度が気に食わなかったのだ。
「何の用ですか?」
 ヴィクトリアは出て行けという思いを込めて訊いた。
「別に捕らわれの身はどうかなって思って身に来ただけよ」
「そうですか」
 ヴィクトリアのそっけない返事に第一王妃は顔をしかめた。
「私はおまえが嫌いだ」
「知ってます。私だってあなたが嫌いです」
「おまえとおまえの母親がいなければ陛下は私を見てくれた……」
「だから母を殺したんですか?」
 ヴィクトリアは冷めた目で第一王妃を見た。
「そうよ。あの女が憎くて命じて薬を盛った」
 ついに認めた。
「そう……」
 ヴィクトリアは感情が高ぶるのを感じた。
「そんな自分勝手な理由で母を殺すなんて……」
 体の中から光が出てくる。
「あんた……」
 王妃がぎょっとした目でヴィクトリアを見る。
 ヴィクトリアの体は今や光っていた。
「出て行って! 顔も見たくないわ!」
 その言葉とともに部屋が広い光でみちる。
 第一王妃はそれを見て慌てて部屋を出て行った。
「悔しい……!」
 残されたヴィクトリアは涙を流した。
 あんな自分勝手な女に母を殺されたのが悔しいのだ。
 しかしそんな涙を流すヴィクトリアの体は依然として光り輝いていたのだった。


【目覚めてしまった……】
 とある場所で銀色の髪の女性が悲しそうにつぶやいた。
 彼女がいる場所は緑生い茂る場所で下を見下ろすと雲が見えた。
 高いところにあるらしい。
 女性は白いシンプルなドレスを着ており、髪は地面に届くほど長かった。
【あんな場所で目覚めてほしくはなかったのに……】
 女性は歩き出した。
 女性が向かった方向には大きな樹があった。
 天までに届くかと思うほど大きな樹で大人十人がぐるりと余裕で囲めるくらいの幹の太さがあった。
【もう少しだけあの力は眠って欲しかった……。目覚めてしまうと奴らは心を無くそうとする……。心を無くしたあの子を見たくないのに……】
 青い瞳が悲しそうに揺れた。
 いつの間にか歩みも止まっていた。
 そんな彼女に同調するように樹がわさわさと揺れる。
 それを見つめると彼女は再び歩き出した。
 樹の下に来ると再び口を開いた。
【あの子に守護を……。暗闇に迷い込んでも出られる力を……】
 その言葉とともに樹が一瞬だけ白く光った。
【あとはあの子次第……。私はあの子を今の境遇から救うことができない……。だけど守護を与えることはできる……】
 ふと女性は優し気な瞳になった。
【それにステラと約束したしね……】
 ステラは彼女とコンタクトが取れる数少ない人間だった。
 それを思い出して彼女はクスリと笑ったのだった。
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