ルミエーラ

「失礼します」
 ヴィクトリアがぼーっと外を眺めているとドアが開いた。
 ヴィクトリアはそのまま外を見続ける。どうせドアが開いても自分はここから出られないのだ。
「殿下。こちらに昼食を置いておきますね」
 その声にヴィクトリアははっとした。
「セージ……!」
 それはルイボスの兄、セージだった。
「なんであなたがここにいるのよ……!」
 驚いて立ち上がった。
 そして思いっきりにらみつける。この男のせいで自分は捕まったのだ。
「イアン先輩に言われたからです。俺は小隊長に任命されるんですよ」
「家族を売って出世してそれの何がすごいのよ!」
 ヴィクトリアの言葉にセージの動きが止まる。
「ルイボスはあなたを慕っていたのよ! 頑張っているお兄さんだって言ってた! なのになんで弟を裏切るような真似をするのよ! 虚しくないの!?」
 ヴィクトリアは感情が高ぶってくるのを感じた。
「すごいと認められたいならそれに伴う努力をすべきよ! 実力を伴わない出世をしても誰もあなたについてこないわ!」
「し、失礼します……!」
 セージは耐えきれなくなったのか逃げ出した。
「ふん!」
 ヴィクトリアは荒々しくソファに座った。
 それから十分後、新たな来客を迎えた。
「ヴィクトリア。久しぶりだね」
「お兄さま!?」
 ヴィクトリアは驚いた。
 ヴィクトリアと同じ金色の髪に菫色の瞳。この国の王太子である彼はヴィクトリアの異母兄でもある。
「ごめんね……」
 悲痛な顔をして王太子はヴィクトリアをみた。
「なんで謝るの……?」
 首を傾げる。謝られる意味が分からない。
「君をこんな目に会わせるのは間違いだと思うけど僕は従うしかない。母上の言うことは絶対だからね……」
 それにヴィクトリアは少しムカッと来た。
「母上、母上って……。あなたの意思はどこにあるのよ」
「王になるものに意思など必要ないだろう?」
「オブリス・ド・アルセリア!」
 ヴィクトリアは彼の名前を呼んで怒鳴った。
「王になるものにも意思は必要よ! 臣下の言うこと全部聞いていたらこの国がめちゃくちゃになるじゃない! お父さまは臣下に任せっきりでこの国を戦争に導いてしまったわ!」
「確かにそうだ……」
 王太子は俯く。
「人間は意思があるから輝くのよ。自分の意思を大事にした方がいいわ。そうじゃないとあなたの心は壊れてしまう……」
 ヴィクトリアはそれが心配だった。
 気弱な兄。彼は優しすぎた。母を失望させたくないがゆえにいつも言うことを聞いていた。このままだとやりたくないことをして壊れてしまう気がした。
「だけど母上が……」
「一度くらい反抗したって大丈夫だと思うわ。失望させたくないのは分かります。でも、自分の意思を貫き倒した方があなたのためにもいいと思う。第一王妃さまのやっていることが間違っているのは分かっているのでしょう?」
「僕は……」
 王太子はふらふらとしながら部屋を出て行った。
「世話の焼けるお兄さまだこと……」
 ヴィクトリアはそう呟いたのだった。
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