ルミエーラ

 ヴィクトリアたちは村のはずれにある誰も使っていない廃屋を見つけてそこで寝ることにした。
(眠れない……)
 ヴィクトリアはベッドの中で何度も寝返りをうった。
 みんな寝ていた。
 やがてドアを叩く音が聞こえた。
「こんな夜中に誰……?」
 眠そうな顔でルイボスが起きてくる。
「無礼な奴だな……」
 ぶつぶつ言いながらもルイボスはドアを開けようとする。
「開けるな!」
 グレイが何かを感じて叫ぶが遅かった。
 ルイボスはドアを開けてしまった。
 ドアを開けるとそこにはセージがいた。
「兄さん!」
 ルイボスが顔を輝かせる。
「ルイボス。君がここにいるのを知ってね。……仲間を連れて会いに来たんだ……」
 セージの後ろから人がどかどかと入ってくる。
「どうして……」
 ルイボスが茫然としながら呟く。
 入ってきたのは青の軍服。アルセリア王立騎士団の服装だった。
部屋に何人もの男たちが入ってくる。
「見つけましたよ。ヴィクトリア王女殿下」
 黒髪の男、イアンがにっこりと笑って言った。
 ヴィクトリアには悪魔のほほ笑みにしか見えなかった。
 後ろにはヴァンザス、フレイドルとイドルスの双子も見える。
 敵に見つかってしまったのだ。
「兄さん! 裏切ったな!」
 ルイボスが後ろ手に捕えられながら言った。
「ごめんね……」
 セージは寂しそうな顔で言った。
「そう簡単に捕まるか!」
 グレイが剣をとる。
 ハーブも続こうとするが男と女の力の差で騎士団のものに捕えられてしまった。
 その間ヴァンザスはぱちぱちと燃える暖炉に緑色の粉と黄色の粉を入れた。
 暖炉が強く燃え上がる。
「離して! 離してよ!」
 ヴィクトリアはフレイドルに手を後ろに捕えられ抵抗した。
「あたしたちを離せ!」
 ハーブも抵抗した。
 それを見てイラッと来たのかイドルスがハーブを力いっぱい殴った。おかげでハーブは気絶してしまった。
「こら、レディになんてことを」
 イアンが顔をしかめて注意する。
「分かったよ。俺が悪かった」
 素直にイドルスが謝る。
「珍しく素直ですね。そんなにラチカ王女殿下が怖かったですか?」
「滅茶苦茶怖かった」
 イドルスが体を震わせた。ラチカ第三王女殿下。彼女は怒らせると怖いのだ。
 ヴィクトリアはそれを横目にルイボスを見た。
「兄さんどうして……」
 兄に裏切られたのがショックだったのかルイボスはうわごとのように呟いていた。
「ぐっ……」
 その時騎士団のものとやりあっていたグレイが片膝をついた。
「効いてきたようだ」
 ヴァンザスが呟く。
「何を……した……?」
 額に汗を浮かべながらグレイが呟く。
「しびれ薬と眠り薬ですよ。まもなくあなたは眠くなりますよ」
 イアンがこともなげに言った。
「薬草術か……!」
 グレイがひらめく。
 アルセリア王国には薬草術という薬草を活用するすべがある。
 薬草で病気とかを治す術だが悪用されたりもしている術である。
「くそっ……!」
 悪態をつきながらグレイは眠りについた。
「伯父さん! ハーブ!」
 ルイボスが叫ぶ。
 その口にセージが丸いものを放り込む。
「兄さん! どうしてこんなことをし…た…」
 ルイボスは飲んでしまった後、兄をなじろうとしたが言葉が途切れる。
 そして眠りについてしまった。
「みんな! 離してよ!」
 ヴィクトリアは仲間たちが眠りについたのを見ると再び暴れだした。
「おとなしくしてくれればよかったんですけどねえ……」
 そう言ってイアンは懐から深緑の液体の瓶を取り出す。
 コルクを抜くとヴィクトリアの口元に持っていく。
 するとヴィクトリアの意識が眠くなった。
(茶色の髪の男に気をつけな)
 眠りにつく直前にイーリマの声が響く。
 茶髪の男ってセージの事かと思った瞬間に意識が途切れた。
「さて、これで撤収です。ご苦労様でした。セージ」
「あ、ああ……」
 セージはイアンの言葉に戸惑いがちに頷いた。
 彼は弟の怒りと悲しみのこもった顔、グレイの怒りの顔が頭から離れなかった。
(これでいいんだよな……?)
 セージはそう自分に言い聞かせた。これで弟を越えられる。
「では行きますよ」
 イアンの言葉でみんな廃屋を出て行った。
 廃屋を出ると馬車が二台あった。
 一台は普通の馬車で二台目は檻が付いた馬車だった。
 イアンとヴァンザスはヴィクトリアを連れて一台目の馬車にイドルスとフレイドルは二台目の馬車に。セージとその他の団員は馬に乗った。
 やがて馬車が動き出す。
「いい報告ができそうです」
 イアンは満足げな笑みを浮かべた。
 隣でヴァンザスも同じ顔をしていた。
 彼の向かい側でヴィクトリアがすやすやと眠っていた。
「我々の手足となっていただきますよ。王女殿下」
 イアンの声が走る馬車の中に響いたのだった。
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