ルミエーラ

8.フィエロとハーブ

「帰ったぞ――!!」
 激しい音を立ててフィエロが帰ってきた。
「おじいちゃん」
 ハーブがポットを持ったまま言った。
 フィエロは頭の毛がなく鷹のように鋭い青い目と立派な白い口髭を蓄えた老人だった。
 八十とは思えないほどきびきびとしており隙が無い。
「なんだ。グレイも来ておったのか」
 グレイを見てフィエロが言った。
「来ちゃ悪いですか」
「んや。来てくれて嬉しいぞ」
 フィエロはそう言ってルイボスとヴィクトリアを見た。
「こっちの茶色の髪の少年がルイボスか。ハーブから聞いておるぞ」
「ハーブとは初等学校で一緒で仲良くさせてもらっていました」
「そうか。孫が世話になったな」
 フィエロはにこにこと笑った。孫をアルセの学校にやっていたことがあるのだ。
「で、こっちの子がステラの娘……」
「ヴィクトリアです。会えてうれしいです。フィエロさん」
「ほほっ。本当にステラにそっくりじゃのう……。いつかそなたの弟君にも会いたいものじゃ」
「先生それは……」
 グレイがためらいがちに言った。現実的に考えて無理だろうと思ったのだ。
「知っておるわい。ただ言ってみただけじゃわい。それより茶を入れてくれ」
「はいはい」
 ハーブはお湯を沸かし、茶葉を入れて紅茶をいれた。
「南の大陸原産の紅茶よ」
 そう言って紅茶を渡してくる。
「おいしい……!」
 ヴィクトリアは感激した。こんなおいしい紅茶を飲んだのははじめてだ。
 そんなヴィクトリアをフィエロはにこにこと見つめていた。会えてうれしかったのだ。
「で、ここにどのような用件で来た?」
 紅茶を飲み終わるとフィエロが切り出した。
「この子の事なんです」
 グレイがヴィクトリアを見つめて言った。
「この子はこの国の第二王女でなおかつ光の子ルミエーラ。そうじゃろ?」
「え!? 王女様なの!?」
 ハーブが驚いて立ち上がった。
「そうじゃ。この子はヴィクトリア・ド・アルセリア王女殿下。絶対的な勝利の力を持つ光の子ルミエーラの力を持つ」
光の子ルミエーラっておとぎ話の……?」
「ええ」
 ヴィクトリアは頷いた。調べてみて分かったが戦争を止めただの、劣勢の軍を立て直しただのの逸話が残っている。
「じゃが彼女を取り巻く状況は悪い。そうじゃろ?」
 フィエロは何もかも分かっているようだった。
「どういうこと……?」
 ハーブはまだわかっていないようだった。
「この国には王は妃を二人娶る。第二王妃のステラは王の寵愛を受けて第一王妃の恨みを相当かったそうじゃ。今国政をとっているのは第一王妃の親族。そして戦争を進めようとしている……」
 ハーブは息をのんだ。大臣たちがヴィクトリアを使って何をしようとしているのか分かってしまったのだ。
「じゃあ捕まったら大変だね……」
「そうじゃ。それに今王宮には親第二王妃派は投獄されるか脅迫されているか謎の薬でいいなりにされているかと状況はよくない」
「そうか……」
 フィエロは王宮につてがある。その彼の言うことなら間違いないだろう。
「わしは戦争は嫌じゃ。戦争のせいで弟を亡くした……。じゃからわしはお前たちに協力する」
「ありがとうございます」
 グレイは頭を下げた。
「お礼は別にいいわい。それよりイーリマ婆さんのところに向かうんじゃったな。なら黒の森ノワール・フォレを通ると良い」
黒の森ノワール・フォレ!? そこって危ないんじゃ……」
 ルイボスは戸惑う。ハンディの東に王国最大の森、ユルウシャの森が黒の森ノワール・フォレが西にある。
 黒の森ノワール・フォレは昼間でも暗く、盗賊などがうようよしていることで有名だ。
 故に普通の人はそこに行きたがらない。
「じゃがそこを通るのが一番イーリマ婆さんのところへ近い」
「それはそうだけどさ……」
 ルイボスは呟く。
「危険な道だというのを承知で進めているのですね?」
「ああ。まともな王宮の近衛はあそこを通らない。少しでも敵に見つかるリスクを減らした方がいいじゃろう……」
「こちらにはヴィクトリアがいるんですよ。無鉄砲なあなたとは違う」
「わしは大丈夫じゃと言える。どうするね?」
「私通ります。早く行かなきゃいけないもの」
 ヴィクトリアはフィエロの目を見て言った。
「うむ。それでこそ光の子ルミエーラの力の持ち主じゃ」
 フィエロは満足そうだ。
「おじいちゃん」
 今まで黙っていたハーブが口を開いた。
「ハーブ。一緒に行きたいのかね?」
「うん。黒の森ノワール・フォレには何回か行っている。だからあたしが一緒に行った方が少しは安全だと思うの。それにヴィクトリアの役に立ちたいし……」
 ハーブは彼女を守りたいと思った。それに一緒に行った方が自分のためにもなると思った。
「わしゃ止めんよ。好きにすればよい」
「ありがとう! おじいちゃん!」
 ハーブは嬉しそうだ。
「で、どうするかね? 役には立つと思うがね」
「仲間はありがたい。一緒に行こうハーブ」
「一緒に旅をできてうれしいよ」
「よろしく」
「はい。よろしくお願いします」
 ハーブは頭を下げた。
 ハーブが一緒に行くことになった。
25/43ページ
スキ