ルミエーラ

「これじゃない……」
 そう言ってヴィクトリアは本を積み上げられた本の山に置いた。
 彼女はビリーの家にある図書室に来ていた。ビリーは本を集めるのが趣味で百は優に超える本があると聞いてやってきたのだ。
 調べたいことがあった。どうしても。
「何を調べているんだ?」
 ルイボスが後ろから声をかけてきた。
 それにヴィクトリアはびくりと肩を揺らした。
「『世界の毒草』、『猛毒な草』、『薬草は毒草』。こんなもの調べてどうするんだ?」
 調べている本を次々と読み上げてルイボスは再び訊いた。
「それは……」
 ヴィクトリアは迷った。自分が調べていることはただの憶測なのだ。
 だがルイボスはここまで自分を守ってくれた。それに自分の中で秘めとくのも限界だった。
「お母さまは毒殺された。そう言う噂があるの」
 ルイボスはそれを聞いて驚いた。そういうのを聞いたことがなかったからだ。
「どうしてそう思ったんだい?」
「私は侍女が話しているのを聞いただけ。だけどお姉さまは青い花のついた草を第一王妃が手に取ってるのを見たことがあると言ってたわ」
「第一王女、クレア殿下が……。それに青い花のついた毒草か……」
 ルイボスは考え込んだ。
「お姉さまが青い花のついた草を見た二日後にお母さまは第一王妃のお茶会に呼ばれたわ。その一週間後に高熱を出して死んでしまったわ。目がすごく充血して吐き気を伴っていたの……。それにお母さまの親族も同時期に死んでいるのよ」
「高熱、目が充血、吐き気ね……。でも第一王妃もしくはその周辺が犯行を起こしたとしてなぜその時行動を起こしたんだ?」
 ルイボスにはヴィクトリアが言っている草の検討がついていた。ただ、なぜ十年前に起こしたかが謎なのだ。
「十年前、お母さまは王子を産んだわ。お母さまはわがままで権力にしか興味がない第一王妃より人望が高かったの。第一王妃は弟が王太子になったら困るから犯行に及んだのよ。後ろ盾がないと王にはなれないから……」
 ヴィクトリアは呟いた。
「なるほど……」
 ルイボスにはすべてが繋がった気がした。第二王子の誕生。これが第一王妃を犯行に及ばせたのだ。
「でもその青い草が何なのか分からないの。たぶん毒草なんでしょう?」
「うん。青き殺し屋の異名を持つブレベールだと思う」
 ルイボスは棚から『世界の珍しい薬草』を開くとページをぱらぱらとめくり始めた。
「あった」
 とあるページで手が止まる。
「これだよ。ブレベール」
 そこにはスズランみたいな可憐な青い花が付いた草があった。
「ブレベールは花は薬になる。花の汁を飲めばどんな病気も治る万能な薬だ。だけど根っこの方は毒草だ。ゆっくりと効く毒で一週間ぐらいで高熱、吐き気、目の充血を引き起こして死に至らせる」
「これが……」
 ヴィクトリアはこのブレベールという薬草に見覚えがあった。たしか第一王妃が持っているのを見たことがある。
「ブレベールは育つのに三~四年かかる。だから珍しいんだ。第一王妃はどこで手に入れたんだろうね?」
「分からないわ。でもあの人は本当に私とお母さまを憎んでいたのよ」
「それは分かるよ。だけどそろそろお茶にしよう。ビリーが呼んでいるんだ。僕は君を呼びに来たんだよ」
「うん。ありがとう」
 ヴィクトリアは頷いた。
「ねえ、君は王宮に戻りたいって思うことある?」
 ふとルイボスは思った。
「ないわ。お姉さまやラチカに会えないこと、弟のエルドの成長を見れなかったことは残念だけど、この生き方を後悔したことは一度もない」
「そうか……」
「それに遠く離れていても私たち繋がっているし」
 ヴィクトリアはそう言って笑った。
「そうだね。その通りだ」
 ルイボスはヴィクトリアの強さを頼もしく思った。彼女は髪を切ってから強くなった。
 肩で揺れる金色の髪を見ながらルイボスはそう思ったのだった。
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