ルミエーラ

「ヴィクトリア!?」
「君どうしたんだい!?」
 夕食を食べに下に降りるとグレイとルイボスが驚いた顔でヴィクトリアを見た。
「何? どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ! 君……」
 ルイボスが叫ぶ。
「ああ。この髪のこと? いいでしょ?」
 そう言って肩までになった金色の髪をいじる。ヴィクトリアは腰まであった豊かな金髪を肩まで切ってしまったのだ。
「髪が……」
 ショックを受けたのかグレイは固まっている。
「切られちゃったしいいかなって……。それにうじうじ悩む私とおさらばするために切ったんだ。ある意味の決意ってやつかな」
「それにしたって……」
 ルイボスは納得がいかないようだった。
「まあいいじゃないですか」
 ビリーがなだめる。
「ビリー! ヴィクトリアの髪が短くなっちゃったんだよ!」
 グレイが食って掛かる。
「本人が納得しているのならいいでしょう」
 そう言ってグレイをあしらうと豆のスープを飲んだ。
「うん。いい味です」
 そう言って笑顔になる。
 それに毒気を抜かれたのかグレイは黙った。
「私が納得しているならいいじゃない」
 ヴィクトリアはそう言って席に着くとステーキを切って口に入れた。
「うん。美味しい! 今まで食べた中で一番おいしいかも」
「ええ。そうでしょう。畜産業が盛んなバーグル王国から取り寄せた牛肉です。味は保証しますよ」
「へえ……。バーグル王国から……」
 アルセリア王国の西隣の強大な大国を思い描いた。
「でも、食べられなくなっちゃうかもしれないんですよね……」
 ビリーはシュンとした。
「どうしてですか?」
 ヴィクトリアはびっくりした。
「戦争だよ」
 黙っていたグレイが口を挟む。
「戦争?」
 ヴィクトリアはフォークを取り落とした。
「近々バーグル王国と戦争になるとのうわさだ。今の宮廷を牛耳っている奴らは戦争をして領土を広げたいのさ」
 しかめっ面でグレイが言う。
「だから私を追っているんだ……」
 それですべてが繋がったような気がする。
「あそこまで躍起になるのはそうだろうな。光の子(ルミエーラ)がいれば勝利は確定だものな……」
「バーグルとの戦争の次はコールラですか……」
 西隣が終われば次は東だ。ビリーはそう推測した。
「たぶん……。それが終われば北のワルサ、南のドーゴ。そしてドーゴの隣のキュールバといった風にこのウェスト大陸制覇を狙うと思うぜ」
「ウェスト大陸が終わったら次はイースト、ノース、サウスって大陸を制覇していくと思いますね。ですがそんな計画いつか破たんが来ると思いますが……」
「だろうな。イースト大陸のターキルド帝国はイースト大陸のほとんどを制覇している強国だ。今のアルセリアがかなう相手じゃねえわな」
「だけどヴィクトリアがいたら?」
「……勝てるかもしれない……」
 ルイボスの問いにしばし考えた後グレイは答えた。
「じゃあヴィクトリアを守らないとね。彼女を渡したら大変なことになる……」
「そうだな」
 グレイは頷いた。
「私も捕まるわけにはいかないわ。この国を戦争に導かないために」
 ヴィクトリアは強く強く決意したのだった。
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