青き真珠

3.事の発端

「なあ……。」
昴は空中飛行を続けるスクーターの後方から金髪の少女に声をかけた。
「何。」
「助けてくれてありがたいんだけど、あんた誰だ?」
少女はその言葉にまだ名のっていないことに気付いたらしい。
「スピカ。スピカ・コルベールよ。あなたは?」
「星川 昴だ。しかし、スピカね…。おとめ座で最も明るい星と同じ名前だな。」
「ええ。確かに私の名前はそこから取られたの。でもあなたの名前も星の名前からとられているでしょ?違う?」
「ああ。確かに昴はプレアデス星団の和名だ。」
スピカの言葉に昴は頷いた。
「いい名前ね。」
「まあな。」
昴はそう言ったが関係のよろしくない父親のことを思いだして顔をしかめた。
「どこに向かっているんだ?」
昴はスクーターがどこに向かっているのか気になった。
それにいろいろ知っているだろうこの少女にはききたいことがたくさんあった。
「これから決めるところ」
「これからって適当だな……。」
昴は呆れた。それでいいのか。
「家はどこ?そこであなたが訊きたいであろうことを聞くわ。」
スピカの言葉に昴は頷いて家を教えた。
もはや同い年の少女を一人暮らしの少年の家に入れるのはどうなのかという疑問ははなから頭にない。
「分かった。しっかりつかまってて」
スピカはそう言うとスクーターのスピードを上げた。

「すてきな家ね。すごく広いわ」
これが昴の家に入ったスピカの第一声であった。
なにせ昴の家は一人で住むのには広すぎるくらいの大きさなのだから。
なぜこんな家賃が高そうな家に一人で住めるかというと昴の実家が『星川コーポレーション』という大きな会社だからだ。
「で、訊きたいことが幾つかある。」
昴は紅茶とケーキをスピカに出して言った。
「答えられる範囲なら答えるわよ」
スピカはそう言って紅茶に口をつけた。
「あんたたちは何者だ?地球ではありえないものばかり使っているが……。」
「宇宙人。」
「はあ!?」
昴は面食らった。たしかに宇宙人の存在は信じている。が、宇宙人が実際に目の前にいるということは想定してなかった。
「驚いているみたいね。当然ね。地球人は宇宙人の存在を認識していないものね。でも、そうとしか言いようがないわ。だって地球人から見たら別の星に住んでいる人たちは宇宙人でしょ?」
「ま、まあな……。じゃああんたどこの星から来たんだ?」
昴はスピカがどこの星から来たのか気になった。スピカ=宇宙人を昴はあっさりと信じてしまった。
「シェイル星。地球より文明が発達している星よ。」
「シェイル星?聞いたことねえぞ?」
昴は聞いたことの無い星の名前に首を傾げる。
「まだ地球では見つかっていない星ね。恒星ソーレを中心に回っているオルティナ星系の第3惑星よ。」
「へえ……。」
昴は感心した。世の中には自分が知らないことばかりだ。
だが感心している場合じゃない。ほかにも訊きたいことはあるのだ。
「あんたたちが何者かは分かった。じゃあ、俺を攫おうとした二人組は誰だ?そしてなぜ俺を狙った?」
「あなたを狙ったのはアコール星からきたアルデバランとエルナトという男女の二人組よ。奴らはリゲルというアコール星の代表の男の命令で『ギャラクシア・ボックス』という箱を狙っているの。だからそれを取り込んでしまったあなたは奴らにさらわれようとしていたの。」
昴は手のひらサイズの自身が取り込んでしまった箱が『ギャラクシア・ボックス』だと理解した。
確かに奴らはあれを体に取り込んだ瞬間昴に狙いを定めていたような気がする。
「そもそも『ギャラクシア・ボックス』ってなんなんだ?」
昴はあの小さな箱にどんな価値があるのか不思議に思ったのだ。
「『ギャラクシア・ボックス』は手に入れれば星ひとつをあっという間に征服できるほどの力をもつ箱よ。」
「それを手に入れて奴らはどうするつもりなんだ?」
昴は嫌な予感がしたが訊いてみた。
「……地球を征服するためよ」
嫌な予感が的中した。
「地球を征服する意味は?」
「あまりいい話じゃないんだけど……。」

スピカがそう言ってこんな話を始めた。
宇宙歴2060年、地球の時間で西暦1860年にあたる年にスピカの故郷の惑星シェイルにあるノボルト国でワープ航法が開発された。
ワープ航法が開発されたおかげで星から星への移動が簡単にできるようになった。星々は技術を他の星から取り入れたり貿易をしたりしてますます発展した。
宇宙歴2090年(地球の時間の西暦1890年)、ポロニア星という星がばらばらだった自分の星を統一し内乱が激しいドゥーム星を征服した。このことは大きな波紋を呼び慌てて他の星々は自らの星を統一しポロニア星に対抗したりした。星同士の戦いの勃発だ。
そして宇宙歴2110年(地球の西暦1910年)、第54次宇宙調査隊が青く輝く美しい星を見つけた。文明があまり発達していないその星は征服するにはあまりにも美しく、宇宙人の存在を認識していない彼らを刺激するのはどうかというのも懸念された。そこで第54次宇宙調査隊はオルネラ星で一つの案を提案した。
それはこの星――地球を何者も征服してはならないという提案だ。
その提案に多くの星が賛同しオルネラ協定として結ばれることになる。
しかし宇宙歴2204年(地球の西暦2004年)頃から各星々で資源が枯渇し始めてきた。文明を発達されること優先で資源のことを考えていなかったからだ。
各星の代表は困った。どうすれば資源の問題を解決できるのだろうと。
それから10年後の宇宙歴2214年(地球の西暦2014年)の5月28日にアコール星代表のリゲルがとんでもないことを思いついた。
地球を征服して資源を奪ってしまおうと。
それに地球には『ギャラクシア・ボックス』があると言う。これを使えば地球などあっと言う間に征服できる。手始めに『ギャラクシア・ボックス』を探そうと考えたのだ。
リゲルは自らに賛成しそうな者を集めてこの話をし協力を取り付けたのだった。
その話を盗み聞きしたスピカは自らの所属する組織、『COSMOS(コスモス)』にこのことを話しバックアップを任せて地球に向かったのだった。
「地球は『青き真珠』と呼ばれるくらい美しい星で有名なの。私はそんな地球を征服するのが許せなくてリゲルたちの計画を阻止しようと決めてここに来たの。」
昴はバツが悪かった。その美しい地球を自分たちは壊そうとしている。環境破壊、地球温暖化。このまま暮らしていていいのだろうか
昴はそう考えたがふと疑問がわいてきた。
「だが待て。今地球でも資源が枯渇しそうだぞ?本当に地球に資源がたくさんあるのか?」
「う~ん。たぶんあなたが思っている石油とか石炭とかの資源ではないのよ。私たちはコズミックマクロンと呼ばれる資源を使用しているの。それが地球にたくさんあるのよ。」
「へえ……」
昴はそう言うしかなかった。ずいぶん発達しているようである。
「で、あんたの所属する組織って言うのはどういう組織なんだ?」
「Universe Nations(宇宙連合、略称UN)に認定された民間組織。ボランティアとか軍の届かない宙域の警戒、宙賊の掃討などを仕事とするわ」
「軍隊みたいだな……」
昴は仕事内容を聞いて思わずそう呟いた。
「まあやってることは変わらないからね。」
スピカはそう言って肩をすくめた。
「これからどうするんだ?」
「とりあえずあなたのそばにいるわ。だからここに泊めて」
「はあああああああ!?」
昴はその言葉に思わず叫び声を上げてしまったのは仕方ないだろう。
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