ルミエーラ

「ほらよっと!」
 グレイは剣をヴァンザスに向かって振り下ろす。
「……っ! 」
 ヴァンザスは慌ててよけたが左腕をかすってしまう。
 切り裂かれた青い上着から血がじわりと出てくる。
「さすがグレイ先生ですね」
 左腕を右手でおさえながらヴァンザスが言った。
「そう言ってもらえるとうれしいぜ! 」
 今度はイアンに向かって行く。剣先がイアンの頬をかすった。
 顔に一本線の傷ができる。頬の傷から血がたらりと出てくる。
 それを手で拭うとイアンは上着から青い玉とマッチを取り出した。
「何をする気だ? 」
 グレイは怪訝そうな顔をした。
 それには答えずにイアンはマッチをすると青い玉に火をつけた。そして空中に向かって投げた。
 ボン!
 青い玉は木々の上に到達すると爆発した。青い閃光が出てくる。
 イアンはまたもや赤い玉を取り出すと青い玉と同じようにした。赤い閃光が出てくる。
「信号弾か……? 」
 アルセリア王立騎士団にいたグレイはそれが信号弾と言う事を見破った。
「ご名答」
 イアンが答えた。
 その声に嫌な予感がグレイにはした。
「何を、何を知らせた……? 」
 喉がからからに乾いてきた。
「……今ごろあの二人の所に仲間が向かっているでしょうね……」
 ヴァンザスのつぶやきにグレイははっとした。
「フレイドルとイドルスか……」
 教え子で仲のいい双子の名前をグレイは呟いた。
「ええ。青の信号弾は私たちの居場所を。赤の信号弾は光の子ルミエーラが先に進んでしまったことを意味します。万が一の場合を想定していたのですよ」
 イアンの言葉にグレイは歯ぎしりした。
「くそっ!」
 グレイはヴァンザスとイアンの足を剣で払い二人を倒すと先へと駆け出して行った。
(ヴィクトリア、ルイボス。無事でいてくれよ……! )
 グレイは二人の無事を祈りながら先へと急いだ。
「どうします? 」
 その後ろ姿を見送りながらヴァンザスが訊いた。
「彼女、ヴィクトリア王女が光の子ルミエーラだと言うのは確認できた。我々は撤退しよう」
「そうですね……」
 ヴァンザスは頷くと立ち上がった。
「それにしても俺たち無様にやられちゃったな」
 土を払いながらイアンが言った。
「グレイ先生が相手なら仕方ありませんよ。昔から私たち二人がかりで向かって行っても勝てなかったじゃないですか」
「まあそうだけどさ。……あとはフレイドルとイドルスに任せるかね」
「フレイドル・ルーヴァー中尉、イドルス・ルーヴァー中尉と呼びなさい。彼らは一応私たちより階級が上ですよ」
 ヴァンザスが注意する。
「いいじゃねえか。同じ先生に習った仲だろ? 」
「あなたと言う人は……」
 ヴァンザスはイアンの言葉に額をおさえた。
「さあ、行くか」
 そんなヴァンザスの様子を無視してイアンは言った。
「ええ」
 二人は倒れた部下たちを起こすともと来た道を戻って行くのだった。
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