ルミエーラ
それから一週間が過ぎた。
ヴィクトリアとルイボスは相変わらずだった。
「そっちじゃない。こっちだ!」
「いいえ。こっちよ!地図見ればわかるでしょ!?」
二人は別れ道でどっちに行くかでもめていた。ルイボスは左をヴィクトリアは右を主張していた。
「いいや。絶対こっち!」
「絶対にこっちよ!」
二人はにらみ合う。
「はあ~」
グレイはため息をついた。
「もう。じゃんけんで決めろ……」
投げやりに言うと二人はものすごい勢いでじゃんけんをし始めた。
力を使わなかったのかじゃんけんにはルイボスが勝った。
己の力を自分の欲のために使わないところがヴィクトリアは偉いとグレイは思っていた。
「じゃあ左だな」
グレイたちは左に進んだ。
左に行くと森が見えてきた。
「ルイデンの森だな」
グレイが呟いた。
「ルイデンの森?」
ヴィクトリアは首を傾げた。
「ああ。王都、アルセから第二の都市、フルーラに行くときに通る森だ」
フルーラ。それは交易で活発な町の名前だ。王都、アルセに次いで盛んな町だ。
「ふ~ん。みんな通るんだね~」
ヴィクトリアはあっさりとしていたがルイボスは険しい顔をした。
「それってアルセリア王立騎士団の者も警備のために通るってことだろ?まずいんじゃないのか?」
「まあな。……出くわさないことを祈ろうぜ」
「うん」
のんきなヴィクトリアをよそにグレイとルイボスは気を引き締めた。
森に入ると整備されていた道があるお蔭で歩きやすかった。鬱蒼とした森ではなく光がところどころ差し込む気持ちのいい森だった。ヴィクトリアは鼻歌なんかを歌い始めてしまった。
(のんきなもんだ……)
ルイボスは苦笑した。だけどそんなところも嫌じゃなかった。絶対に本人には言わないけど。
そんなことを考えていると青い制服の連中が目の前に現れた。人数は六人。アルセリア王立騎士団の者だ。
剣を手にこちらを睨んでいる。
「その子を渡してもらおうか」
その中で最年長のひげ面の男性がそう言ってヴィクトリアを見る。
グレイとルイボスはその言葉を聞くとヴィクトリアを守るように前に出た。
「渡してくれたら無傷で返しますよ」
前に進み出た男を見てグレイとヴィクトリアは驚いた。ヴィクトリアにとってその男はこの間道を聞いてきた人。そしてグレイにとっては――。
「久しぶりだな。イアン」
「ええ。久しぶりですね。グレイ先生」
そう言ってイアンは頷いた。
「知り合い、なの?」
戸惑いがちにヴィクトリアは訊いた。
「ああ。教え子だ。昔の――」
「教え子……」
アルセリア王立騎士団にいた頃のだろうか。
「ヴァンザスはどうした?」
グレイはイアンと仲が良かった男の名を挙げた。
「ここにいますよ」
黒髪の男がイアンの横に並ぶ。
「やっぱりいたか……。お前らは仲が良くて成績も一、二を争うくらいだったけなあ……」
そう言ってグレイは遠い目をした。遠い昔のことを思い出しているのだろうか。
「だが、教え子だからと言って手加減はせんよ。彼女を……ヴィクトリアを守るためならどんなこともするさ」
「王家に逆らう気ですか」
ヴァンザスの目が鋭くなる。
「王家?今の王家を動かしているのはヴェスター伯爵を中心とした第一王妃の一族だろうが。ヴィクトリアの幽閉は陛下の意志ではない。そんな陛下を無視している奴らの言う事なんか聞くかよ」
グレイは吐き捨てた。
「そうだね。僕も第一王妃の一族には従う気にはなれない。あいつら自分のことしか考えてないもん」
ルイボスも同意する。
「なら、手加減しません。イアン!」
「ああ!」
二人は剣を抜く。
「ルイボス!」
「分かりました!」
グレイとルイボスも負けじと剣を抜く。
そこから剣戟が始まった。
数が多いのか次第にグレイとルイボスが押されてくる。
(負けないで!)
ヴィクトリアは心の中で強く祈った。
それに呼応するかのように体が光り始める。やがて胸から二筋の光が出てグレイとルイボスの中に入っていく。
「なんだ!?」
イアンは驚愕の声をあげた。
グレイとルイボスの動きが早くなっているのだ。
「いったい何が起こっている?」
グレイも負け劣らず驚愕していた。こんな力、出したことが無い。
(なんか力が湧いてくるような……はっ……! )
そこでグレイは気が付いた。
ヴィクトリアを見ると体を金色に光らせていた。
(光の子 ……!ヴィクトリアの力か……!彼女の祈りが俺たちに力を与えているんだ…。どんなピンチもチャンスに変えてしまう力……)
グレイは事態を悟るとルイボスに言った。
「ルイボス!ヴィクトリアを連れて逃げろ! 」
「伯父さんはどうするんです!?」
ルイボスは戸惑った。
今アルセリア王立騎士団の者はイアンとヴァンザスの二人だけだった。二人とも手練れだと言うのがルイボスにも分かる。二人いっぺんに相手して大丈夫なのだろうか。
「俺は後から行く。だから信じろ!」
強い茶色の瞳がルイボスを見る。ルイボスは頷くとヴィクトリアの手を引っ張って走り出した。彼女がいない方がグレイが立ち回りやすいことを悟ったのだ。
「逃がすか! 」
すかさずヴァンザスが追おうとしたがグレイが立ちはだかる。
「行かせねーよ! 」
「なら、倒すしかありませんね」
ヴァンザスとイアンは目を見かわすとグレイに向かって行った。
グレイはその様子を余裕を持って見つめていた。
グレイとヴァンザス、イアンの剣戟が始まった後ルイボスはヴィクトリアを連れて森の中を逃げていた。
「はあはあはあっ! 」
「はあはあはあっ! 」
二人は無我夢中で走り続けた。
やがて走れなくなった二人は大きな木の下にへたり込んでしまった。
「グレイ、大丈夫かしら……」
「大丈夫だよ。伯父さんは強い」
「うん……」
ヴィクトリアは頷いた。
「それに君の力もあるしね」
「力?」
ヴィクトリアは不思議そうな顔をした。
「あれ、もしかして自覚ない? 」
「うん」
自覚なかったのでヴィクトリアは正直に頷いた。
「ふ~ん。そうか。君は光の子(ルミエーラ)の力を無意識に使っていたのか……」
納得したようにルイボスが頷く。
「私、光の子(ルミエーラ)の力を無意識に使っていたの? 」
「うん。君の身体が光ったと思うと力が湧いてきた。そして普段と違う力が湧いてきた……」
「そう……」
その説明にヴィクトリアはうつむいた。
「あなたいつも私に意地悪言うのに今日は違う人みたい……」
「それは君が……」
ルイボスはそこで言葉を詰まらせた。
「君が? 」
「いや、なんでもない。行こうか……」
ヴィクトリアはルイボスが何か隠しているような気がしたが気にしないことにした。
「うん……」
「ほら」
そう言って手を差し出してくる。
ヴィクトリアはその手を取った。
「やさしいのね……」
そう呟くとルイボスは照れたように顔をぷいとそむけた。
それがおかしくてヴィクトリアは笑ってしまった。
「もう。さっさと行くぞ」
そう言ってヴィクトリアの手を握ったままスピードを速める。
(結構恥ずかしがり屋なのかも……)
ルイボスへの認識を改めた瞬間だった。
ヴィクトリアとルイボスは相変わらずだった。
「そっちじゃない。こっちだ!」
「いいえ。こっちよ!地図見ればわかるでしょ!?」
二人は別れ道でどっちに行くかでもめていた。ルイボスは左をヴィクトリアは右を主張していた。
「いいや。絶対こっち!」
「絶対にこっちよ!」
二人はにらみ合う。
「はあ~」
グレイはため息をついた。
「もう。じゃんけんで決めろ……」
投げやりに言うと二人はものすごい勢いでじゃんけんをし始めた。
力を使わなかったのかじゃんけんにはルイボスが勝った。
己の力を自分の欲のために使わないところがヴィクトリアは偉いとグレイは思っていた。
「じゃあ左だな」
グレイたちは左に進んだ。
左に行くと森が見えてきた。
「ルイデンの森だな」
グレイが呟いた。
「ルイデンの森?」
ヴィクトリアは首を傾げた。
「ああ。王都、アルセから第二の都市、フルーラに行くときに通る森だ」
フルーラ。それは交易で活発な町の名前だ。王都、アルセに次いで盛んな町だ。
「ふ~ん。みんな通るんだね~」
ヴィクトリアはあっさりとしていたがルイボスは険しい顔をした。
「それってアルセリア王立騎士団の者も警備のために通るってことだろ?まずいんじゃないのか?」
「まあな。……出くわさないことを祈ろうぜ」
「うん」
のんきなヴィクトリアをよそにグレイとルイボスは気を引き締めた。
森に入ると整備されていた道があるお蔭で歩きやすかった。鬱蒼とした森ではなく光がところどころ差し込む気持ちのいい森だった。ヴィクトリアは鼻歌なんかを歌い始めてしまった。
(のんきなもんだ……)
ルイボスは苦笑した。だけどそんなところも嫌じゃなかった。絶対に本人には言わないけど。
そんなことを考えていると青い制服の連中が目の前に現れた。人数は六人。アルセリア王立騎士団の者だ。
剣を手にこちらを睨んでいる。
「その子を渡してもらおうか」
その中で最年長のひげ面の男性がそう言ってヴィクトリアを見る。
グレイとルイボスはその言葉を聞くとヴィクトリアを守るように前に出た。
「渡してくれたら無傷で返しますよ」
前に進み出た男を見てグレイとヴィクトリアは驚いた。ヴィクトリアにとってその男はこの間道を聞いてきた人。そしてグレイにとっては――。
「久しぶりだな。イアン」
「ええ。久しぶりですね。グレイ先生」
そう言ってイアンは頷いた。
「知り合い、なの?」
戸惑いがちにヴィクトリアは訊いた。
「ああ。教え子だ。昔の――」
「教え子……」
アルセリア王立騎士団にいた頃のだろうか。
「ヴァンザスはどうした?」
グレイはイアンと仲が良かった男の名を挙げた。
「ここにいますよ」
黒髪の男がイアンの横に並ぶ。
「やっぱりいたか……。お前らは仲が良くて成績も一、二を争うくらいだったけなあ……」
そう言ってグレイは遠い目をした。遠い昔のことを思い出しているのだろうか。
「だが、教え子だからと言って手加減はせんよ。彼女を……ヴィクトリアを守るためならどんなこともするさ」
「王家に逆らう気ですか」
ヴァンザスの目が鋭くなる。
「王家?今の王家を動かしているのはヴェスター伯爵を中心とした第一王妃の一族だろうが。ヴィクトリアの幽閉は陛下の意志ではない。そんな陛下を無視している奴らの言う事なんか聞くかよ」
グレイは吐き捨てた。
「そうだね。僕も第一王妃の一族には従う気にはなれない。あいつら自分のことしか考えてないもん」
ルイボスも同意する。
「なら、手加減しません。イアン!」
「ああ!」
二人は剣を抜く。
「ルイボス!」
「分かりました!」
グレイとルイボスも負けじと剣を抜く。
そこから剣戟が始まった。
数が多いのか次第にグレイとルイボスが押されてくる。
(負けないで!)
ヴィクトリアは心の中で強く祈った。
それに呼応するかのように体が光り始める。やがて胸から二筋の光が出てグレイとルイボスの中に入っていく。
「なんだ!?」
イアンは驚愕の声をあげた。
グレイとルイボスの動きが早くなっているのだ。
「いったい何が起こっている?」
グレイも負け劣らず驚愕していた。こんな力、出したことが無い。
(なんか力が湧いてくるような……はっ……! )
そこでグレイは気が付いた。
ヴィクトリアを見ると体を金色に光らせていた。
(
グレイは事態を悟るとルイボスに言った。
「ルイボス!ヴィクトリアを連れて逃げろ! 」
「伯父さんはどうするんです!?」
ルイボスは戸惑った。
今アルセリア王立騎士団の者はイアンとヴァンザスの二人だけだった。二人とも手練れだと言うのがルイボスにも分かる。二人いっぺんに相手して大丈夫なのだろうか。
「俺は後から行く。だから信じろ!」
強い茶色の瞳がルイボスを見る。ルイボスは頷くとヴィクトリアの手を引っ張って走り出した。彼女がいない方がグレイが立ち回りやすいことを悟ったのだ。
「逃がすか! 」
すかさずヴァンザスが追おうとしたがグレイが立ちはだかる。
「行かせねーよ! 」
「なら、倒すしかありませんね」
ヴァンザスとイアンは目を見かわすとグレイに向かって行った。
グレイはその様子を余裕を持って見つめていた。
グレイとヴァンザス、イアンの剣戟が始まった後ルイボスはヴィクトリアを連れて森の中を逃げていた。
「はあはあはあっ! 」
「はあはあはあっ! 」
二人は無我夢中で走り続けた。
やがて走れなくなった二人は大きな木の下にへたり込んでしまった。
「グレイ、大丈夫かしら……」
「大丈夫だよ。伯父さんは強い」
「うん……」
ヴィクトリアは頷いた。
「それに君の力もあるしね」
「力?」
ヴィクトリアは不思議そうな顔をした。
「あれ、もしかして自覚ない? 」
「うん」
自覚なかったのでヴィクトリアは正直に頷いた。
「ふ~ん。そうか。君は光の子(ルミエーラ)の力を無意識に使っていたのか……」
納得したようにルイボスが頷く。
「私、光の子(ルミエーラ)の力を無意識に使っていたの? 」
「うん。君の身体が光ったと思うと力が湧いてきた。そして普段と違う力が湧いてきた……」
「そう……」
その説明にヴィクトリアはうつむいた。
「あなたいつも私に意地悪言うのに今日は違う人みたい……」
「それは君が……」
ルイボスはそこで言葉を詰まらせた。
「君が? 」
「いや、なんでもない。行こうか……」
ヴィクトリアはルイボスが何か隠しているような気がしたが気にしないことにした。
「うん……」
「ほら」
そう言って手を差し出してくる。
ヴィクトリアはその手を取った。
「やさしいのね……」
そう呟くとルイボスは照れたように顔をぷいとそむけた。
それがおかしくてヴィクトリアは笑ってしまった。
「もう。さっさと行くぞ」
そう言ってヴィクトリアの手を握ったままスピードを速める。
(結構恥ずかしがり屋なのかも……)
ルイボスへの認識を改めた瞬間だった。