ルミエーラ

 ラントー家の庭に二人の男がいた。
 ルイボスとグレイだ。
 二人とも木の棒をかまえている。剣だと危ないという理由で木の棒での戦いになった。
「はあっ!」
 ルイボスがグレイに襲いかかる。
 グレイは難なく受け止める。
「筋は悪くない」
 グレイはにやりと笑って言った。
「やあっ!」
 ルイボスは次から次へと攻撃を仕掛ける。グレイはそれをすべて受け止めるかかわすかしてしまう。
「やっぱり強い……」
 ルイボスがうめく。
「まだまだだな。今度はこっちから行くぞ」
 そう言ってグレイは攻撃を仕掛ける。
「うわっ!」
 ルイボスは攻撃をやっとのことで受け止めた。
「受け止めるとは大したものだ」
 グレイは感心した。
「さてこれはどうかな」
 攻守が逆転した。ルイボスはグレイと違ってかわすのがやっとだった。
 やがて攻撃が当たってしまう。
「うっ!」
 ルイボスがうめく。
 次々と攻撃が当たり地面に転がる。
「どうだ?これくらいで降参か?」
 グレイが挑発してくる。
 それをきっとルイボスが睨む。
「習ったことを思い出せ」
 グレイが言った。
 その言葉にルイボスは思い出すものがあった。
『いいか。相手の動きをよく見ろ。そして次の攻撃を予測するんだ。それができれば攻撃にも移れる』
 白い歯を見せて彼の剣の先生は言った。
(動きを見る……)
 ルイボスは立ち上がるとグレイの動きをよく見ようとした。
 かわしていくうちに動きが読めてきた。
(ここだ!)
 思いっきり振りかぶる。棒がグレイの肩にあたる。
「ふっ。よくやったな。分かった。連れて行こう」
 そう言ってグレイは肩をおさえながら言った。
「ありがとう。伯父さん!」
 ルイボスははしゃいだ。
「出発は一週間後だからいろいろ準備しとけよ~」
「うん!」
 ルイボスはこれからの日々を思ってわくわくした。


夜中にヴィクトリアは目が覚めた。
 ベッドから起き上がり足をおろすと木の床がぎしりと音をたてる。
 茶色の木製の扉を抜けると広々とした廊下に出る。
 廊下に出ると自分の部屋からみて右側の部屋のドアを見た。そこはグレイの部屋だった。
「私、迷惑かけてばかりなのかな……」
 思わず呟いた。
 それは何度も考えたことだった。自分が光の子ルミエーラじゃなければグレイは今でも騎士団で教えてそれなりの地位について幸せだっただろう。それにここまで一緒に逃亡していらぬ苦労を掛けることもなかった。自分の存在自体が彼の迷惑になっている。ヴィクトリアはそう思った。
 だがこうも思うのだ。
「きっと光の子ルミエーラじゃなければここまで親切にしてくれないよね……」
 グレイが聞いたら怒りそうな言葉である。グレイはヴィクトリアがヴィクトリアだから親切にするのだ。ステラの子だとか光の子ルミエーラだとかいう理由ではないのだ。ヴィクトリアはそこのところを理解していなかった。
「まあいいわ。光の子ルミエーラとしてしか価値がなくても」
 そう呟いてヴィクトリアは部屋に戻った。
 しばらくしてヴィクトリアの部屋の左側の部屋のドアが開いた。
「………」
 茶色の髪の少年はヴィクトリアがいたあたりを厳しい顔で見つめていた。
 やがてドアがぱたんと閉まる。
 後には静寂だけが残された。
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