ルミエーラ

3.ルイボス

その家は煉瓦造りの重厚な家だった。
 グレイはあたりを見渡すと中に入った。部屋の中は居心地のいいソファ、木のテーブル、暖炉には火が通っている。きちんと整頓されていることが分かる家庭的な雰囲気な家だった。
 ヴィクトリアもあとに続く。
「おい!ローズマリー!来たぞ!」
 グレイが声を張り上げる。
「兄さん!」
 グレイと同じ茶色の髪を後ろで一つに結んでいる女の人が駆け寄ってきた。
「久しぶりだな!ローズマリー!」
 グレイはそう言って女の人の髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。
「兄さん、やめて髪が乱れる」
 女の人が笑いながら言った。兄に会えたのがうれしかったのだろう。
「あ、あなたがヴィクトリアちゃんね」
 ローズマリーがヴィクトリアに気付いた。
「ヴィクトリアです。よろしくお願いします」
 そう言って頭を下げる。
「ローズマリー・ラントーよ。よろしく。それにしてもがさつなグレイ兄さんに育てられたとは思えないほどしっかりしているわね」
「それはないぜローズマリー。俺だってちゃんと育てることができるよ」
 グレイが文句を言う。
「だって兄さんにちゃんと育てられるとは思えないんだもの。あ、そっか。ステラの教育の賜物ね」
「ローズマリー……」
 グレイがしゅんとする。
「あ、あの。グレイはちゃんと育ててくれました。感謝してます!」
 ヴィクトリアはローズマリーに言った。
「ふふっ。本当にヴィクトリアちゃんはいい子ね」
 そう言って彼女は微笑んだ。
「旅で疲れたでしょう?かぼちゃのスープはいかが?」
 そう言ってダイニングに案内してくれる。
 ダイニングに行くとヴィクトリアは木製の椅子に腰かけた。
 椅子に腰かけるとローズマリーがかぼちゃのスープを置いてくれた。
 湯気が立っていて見るからにおいしそうだ。
 まずは一口。
「おいしいです!」
 ヴィクトリアは目を輝かせた。
「そう?よかった」
 ローズマリーはにこにこと笑って言った。
 ヴィクトリアは夢中で食べた。お腹がすいていたので何倍でもおかわりできそうだ。
 やがて食べ終えると今度は牛肉のステーキを出してくれた。
 それも食べ終えるとデザートにチョコレートケーキを出してくれた。
「ふう。お腹いっぱい。本当にごちそうさまでした」
「ああ。相変わらずおいしかったぜ」
 グレイがげっぷしながら言った。
「お粗末さまでした」
 ローズマリーはそう言って食器を洗い始める。
そこへローズマリーと同じ茶色の髪の少年が帰ってきた。
「ただいま。……お客さん?」
 少年は鳶色の瞳をぱちくりさせた。歳は十七歳ぐらいに見える。
「よお。ルイボス」
 グレイは片手をあげて挨拶をした。
「グレイ伯父さん!?久しぶり」
 少年――ルイボスはグレイを見ると顔を輝かせた。
「ねえ、伯父さん剣が強いんでしょ?今度見せてよ」
 ルイボスはグレイに頼み込んだ。
「ああ、あとでな。ちょっといろいろ忙しいんだ」
 グレイはそう言って隣のヴィクトリアの肩をたたいた。
「誰……?」
 怪訝そうにルイボスはヴィクトリアを見た。
「ヴィクトリアよ。貴方は?」
「僕はルイボス。ルイボス・ラントー。十七歳。そこのローズマリーの息子」
「十七歳!?私より二つ上なの!?」
 ヴィクトリアは驚いた。
「君、綺麗だね。お姫様みたいだ」
 ヴィクトリアはぎくりとした。彼女は正真正銘のお姫様なのだ。そのことは彼は知らないはずだ。少し緊張を覚える。
「さて、食べ終わったことだし話を聞かせてもらうわよ。グレイ兄さん」
 食器を洗い終わったらしいローズマリーが言った。
「ああ。全部話すよ。ルイボスはどうする?」
「僕も聞くよ」
 ルイボスは話を聞く気のようだ。
「勝手にしろ。ただ、後戻りはできないがいいな?」
「うん。僕はもう子供じゃないんだ。それでもいいから聞く」
「分かった」
 グレイは頷くと今までのことを話しだした。ヴィクトリアが光の子(ルミエーラ)なこと。それに気付いたステラから死ぬ間際にセイロンが託されたこと。セイロンに託されてグレイが今まで育ててきたこと。そして騎士団の者に居場所がばれたこと。逃げなきゃ塔に閉じこめられる生活が待っていること。それを回避するためにそして力を何とかできないかどうか探すために旅をしていることを話した。
「そう……。大変なのね……」
 ローズマリーは深いため息をついた。
「迷惑をかけているのは承知なんだがここしか思い浮かばなくてな。すまん、ローズマリー」
 グレイは頭を下げた。
「いいのよ。頼ってくれてうれしいわ」
 ローズマリーは微笑んだ。
「……大変なのは分かったよ。で、これからどうするの?」
「とりあえずバーグル王国との境目にある魔女のイーリマ婆さんの所を訪ねてみようと思う。彼女ならなんか方法を持っているはずだ」
 ルイボスの問いにグレイは答えた。
「そう。でも、ここでゆっくりしていった方がいいわ。あ、そうだ。うちのルイボスを連れて行ってくれないかしら。これでもアルセリア騎士団学校を出ているのよ。うちの長男のセージよりは腕がたつしどうかしら?」
 ローズマリーの提案に二人は顔を見合わせた。
「アルセリア騎士団学校……」
 本当に大丈夫なのか。ヴィクトリアはそこが不安だった。
「大丈夫よ。口は堅いわ。貴方に危害を加えないから大丈夫よ」
 ローズマリーは笑って言った。
「だが大丈夫なのか?」
 グレイは十七歳のルイボスを連れて行くのに不安だった。
「なら、勝負しましょう。それで判断してください」
 ルイボスは静かに言った。
「いいだろう。俺に傷を負わせられなかったら連れて行かないからな」
 グレイはにっと笑って言った。
「望むところです!」
 二人の勝負が始まろうとしていた。
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