青き真珠

「よお!星川!」
星川ほしかわ すばるは学校へ向かう途中に親友の大川おおかわ ひさしに声をかけられて振り向いた。
「おはよう。大川……」
「なんだよ。朝からテンション低いな。」
「俺が朝弱いってこと知っているだろ?」
「ああ。お前本当に朝弱いものな。まあそれはいいや。ところで昨日の流星群みたか?」
「ああ。もちろん」
昴は大川の言葉に頷いた。
「だよな。天文マニアのお前が昨日の流星群を逃すわけないものな。しかしすごかったな」
「たしかにマジですごかった。たぶんあれはうしかい座流星群だと思う。たしか昨日が観測日だったと思う。」
「はあ~。さすが天文マニア」
大川が感心したように言った。
天文マニア。昴はこう呼ばれている。昔から天文に関心を持っており調べるうちに天文に関する知識が並大抵じゃなくなってきており友人たちに披露していくうちについた仇名みたいなものだ。
天文マニアと呼ばれることは嫌ではない。実際に通っている宙峰そらみね学院でも天文部に所属しておりそう呼ばれることに誇らしささえ感じる。
「ところで、大川。お前テスト勉は大丈夫なのか?期末テスト明後日だぞ」
昴は予想はつくが一応大川に訊いてみた。
「げ、してない。やばい。どうしよう!」
「まあ俺が教えてやるよ」
「恩に着るよ!星川!学年一の秀才の力を借りれば大丈夫だ!」
大川はそう言って昴の肩を強い力で叩いた。
「痛いぞ!大川!力加減考えろよ」
「まあまあ。親愛の現れさ」
そう言っているうちに宙峰学院についた。
宙峰学院は高台にある宙圃町一の中高一貫のエリート進学校だ。男子は冬はネクタイに黒いズボンとブレザーで女子はリボンに黒のスカートとブレザー、夏は男子は灰色のズボンにネクタイ、女子は黒いスカートにリボンという格好だ。中高でリボンおよびネクタイの色が違っており中学は赤、高校は青と決まっている。
校舎は地下一階から七階まである。学年が上がるごとに教室の位置も上がる。
「あ~あ。中学の時は楽だったのによ~。」
大川は階段を上がりながらぼやく。
「ああ。エレベーターくらいつけてくれればいいのにな。」
昴もそれには同意した。彼らは高校二年なので五階まで上がらなければいけないのだ。
やっとのことで彼らは二年二組の教室についた。

「おはよう。大川君、星川君」
教室に入るとまず声をかけてきたのは川瀬かわせ 菜々美ななみだ。茶色に染めた髪を持つ彼女は昴とはる才女だ。昴と同じ天文部でもある。
「おはよう。川瀬」
「ちわっす。川瀬」
「大川君は朝から元気ね。それにしても星川君はその低血圧を何とかしたら?」
「俺は朝弱いんだよ……。」
昴はぼやいた。
「ふ~ん。まあいいわ。ところで星川君はもちろん昨日の流星群を見たでしょ?」
「もちろんだ。」
「やっぱりね。天文マニアと呼ばれる星川君が見逃すはずないものね。ところでそれに関連する面白い話を姉から聞いたの。聞く?」
「聞こう」
昴が頷いたのを確認すると川瀬は話しはじめた。
星降湖せいりゅうこって知ってるでしょ。宙圃の森にある湖。」
「知ってる。俺小さいころじいちゃんと遊びに行った。」
大川が懐かしそうに言った。
星降湖はその名の通り流れ星が湖に降ってくるように見えることから名付けられた湖だ。
昴も星降湖に中学の頃行ったことがある。とはいえ川瀬や大川と違って地元出身ではないので名前の由来しか知らないのだが。
「俺も星降湖には行ったことがある。で、続きは?」
「ええ。お姉ちゃんは昨日、星降湖に行こうと宙圃の森に行ったの。で、湖に宇宙船らしき物体が浮かんでいたんだって!」
昴は面白い話だと思ったが大川は違ったらしい。
「……なあ、それって何かと勘違いしたんじゃないよな?」
「お姉ちゃんは暗くてよくわかんなかったけど宇宙船みたいだったって言ってたよ」
宇宙船みたいだっただろ?不法投棄の車を宇宙船と勘違いしたに違ってる!だいたい宇宙人何ていてたまるか!」
「大川君頭固い!宇宙人は絶対にいるもの!」
「いつまでガキみたいなこと言ってんだよ!」
「いないって言いきれないじゃない!」
昴はため息をついた。
宇宙人をいるって信じている川瀬といないと言い切る大川はよくこうやって言い合いをするのだ。
ちなみに昴はいると信じている方だ。宇宙には太陽みたいな恒星が何百万とあるのだ。地球の環境に似た星もたくさんあるだろう。そのうちのどれかに宇宙人はいるだろうと昴は考えているのだ。
だが、昴はいないという人を川瀬みたいに非難したりしない。だから大川ともうまくやっているのだろう。
結局、大川と川瀬の言い合いは先生が教室に入ってくるまで続いたのだった。
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