青き真珠

スピカは自分の青い機体を整備していた。
「スピカ!」
 スピカは声をした方を振り向いた。
 肩より少し長い黒髪に青い瞳の女性がそこにいた。
「お母さま!」
 スピカは驚いた。滅多に『COSMOS(コスモス)』に来ない母のミランダだったのだ。
「何?連れ戻しに来たの?」
 前に連れ戻されようとしたことを思いだし警戒してしまう。
「ううん。違うの」
 しかし母は首を横に振った。
「ごめんね私が間違っていたわ……」
「え?」
 スピカは驚いた。
「私はあなたが『COSMOS(コスモス)』に所属していることが気に入らなかった。女の子なんだから危ないことはしてほしくなかったの。でも……」
 そう言ってミランダは語り始めた。
 その日、スピカが『ギャラクシア・ボックス』の担当になったことを聞き抗議しにミランダは『COSMOS(コスモス)』本部にやってきていた。
 その本部のロビーでミランダは黒髪の少年を見かけた。黒い瞳との組み合わせが珍しくミランダは思わずその少年をじっと見てしまった。
『あの、何か?』
 少年が戸惑いがちにこちらに声をかけてくる。
『私はミランダ・コルベールです。フォーマルハウト・コルベールはここにいますか?』
『コルベール……。あなたスピカの……』
 少年はスピカを知っているようだった。
『スピカを知っているの?』
『ええ。お世話になっています。俺は星川 昴です。』
『スバル……。もしかして『ギャラクシア・ボックス』の力の……』
『ええ』
 それを聞いてミランダのまなざしがきつくなった。
『俺が気に食わないようですね』
 昴がそれを見て言った。
『……あの子には安全なところにいてほしいのよ……。女の子だし』
 ミランダは呟いた。
『それはあなたのエゴでは?』
『エゴ?』
 そんなこと言われたことがなかった。
『あいつが『COSMOS』にいるのはあいつの意志です。それに女だから安全なところにいてほしい。それはあいつを侮辱していると思いますよ』
『あなたに何がわかるのよ!』
『あいつのことはあなたよりは知らないでしょう。ただ、この仕事を誇りに思っているのはわかります。それにあいつの心はあいつのものだ。あなたのものではない。……あなたはあなたの理想を押し付けすぎている』
 昴はきっぱりと言った。
『………』
 ミランダは黙り込んだ。
『だからあいつの誰かの役に立ちたいという心を否定してほしくないんです。あいつの親なら』
 昴はそれだけ言うとミランダの前から去っていった。
 後に残されたミランダはフォーマルハウトに今しがたの出来事を話すと昴の言葉を肯定された。
『少し力みすぎているようだね。それにあの子は強い。だから大丈夫だよ。それにあなたの言葉であの子は少し傷ついているようだ』
 自分の言葉であの子が傷つく。それは衝撃的だった。
 やがてミランダはスピカを応援しようと決めたのだった。
「……昴がそんなことを……」
 スピカは衝撃を受けた。
「だから今までごめんね。そして頑張って私にチャンスをくれた昴君を救出してきなさい」
「うん!」
 スピカは頷いた。
「必ず昴を助けて見せる。だから待ってて!」
「がんばってね」
 ミランダの声を背にスピカは愛機に乗り込んだ。カードをスラッシュし機体がうなりをあげて動き出す。
 母が手を振るのが見える。
 スピカは手を振りかえすと操縦桿を握って弾丸のように飛行場から飛び出したのだった。
 やがてスピカの星、シェイル星の大気圏を突破して宇宙に飛び出す。
『スピカ。準備は良いか!』
 デネブが声をかけてくる。
『準備は良いわよ。隊長!』
『よし。全員ワープ装置起動だ!』
『了解!』
 みんな一斉にワープ装置を起動させる。転移座標を入力する。
『全員ワープだ!』
 目の前に極彩色のホールが現れる。スピカたちは次々とそのホールへと飛び込んでいく。
(待ってて昴!)
 スピカは昴の無事を祈るのだった。
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