青き真珠

それから五日後……
 昴はスピカとともに『COSMOS』の最上階に来ていた、机が丸く並んでいる様子は圧巻だった。まるでアーサー王の円卓の騎士のようだと昴は思った。
 その机に一人、二人と次から次へと人が座っていく。
 その様子をみて昴は緊張した。これから地球を助けてと星々のお偉方の前で言うのだ。地球の命運は昴の肩に乗っかっているのだ。緊張するなという方が無理な話だ。
「昴。大丈夫だから」
 スピカが昴の手を握る。
 昴は少しほほ笑んでスピカの手を握り返した。
「がんばるよ」
 昴は呟いた。
「頑張って……」
 スピカが励ます。
 やがて円卓のなかから一人の男が立ち上がった。フォーマルハウトだ。
「みなさんに今回お集まりいただいたのはリゲル氏率いる『ダークマター』が計画していることです」
 フォーマルハウトは話し始めた。
「リゲル氏は『ギャラクシア・ボックス』を狙っています。この力がリゲル氏の手に渡ると大変なことになると思われます」
 みんな神妙な顔で聞いている。大変な事柄だとわかっているのかもしれない。
「リゲル氏は『ギャラクシア・ボックス』を狙うとともに『青き真珠』地球を征服しようと企んでいるのです。我々は彼らから地球を守るべきだと思います」
「地球を守ることで我々に利益が来るのですか?」
碧の髪の男性が訊いた。
「地球は遅れている星なはずだ。守る意味はあるのかね?」
「兵士を地球に送り込む意味は?」
 みんなざわざわし始める。
「ちょっと待ってください!」
 昴はたまらず叫んだ。
「確かに地球は皆さんの星と比べても遅れているかもしれません。でもそれでも俺にとっては故郷なんだ!豊かな自然、人の繋がり。地球にしかないものだってある!それに俺はこの星が大好きなんだ!」
 あたりがシーンとなった。
「昴君の言うとおりだ」
 アステリオンが立ち上がって言った。
「地球が遅れていると蔑むのではなくいいところを見るべきだ。我々だって自分の星が好きだろう?それを馬鹿にされたら腹がたつ」
「確かにな。それに私の故郷、フィン星はポロニア星に征服されてしまった。その時に誰も助けてくれなかったのが悲しかった。この子にそんな思いはさせたくない!」
 アステリオンに横にいた歴戦の勇士といった風情の八〇代の男性が言った。
「皆さん、ガニメデ代表の言葉を聞きましたか?皆さんは悲劇を繰り返さないためにいるのではないのですか?このまま放っておいたらあの人たち好き勝手やりますよ。それでもいいのですか?それを止めるためにここにいるんでしょう!」
 銀髪の少女の気迫にみんなたじたじだ。
「ポラリス姫……」
 昴はスピカの言葉に少女をまじまじと見てしまった。自分より年下に見える少女が代表をやっているというのか。
 そのままじっと見ていると少女がウインクした。
「それでは地球を守るということでいいかな?」
 フォーマルハウトが問うとみんな頷いた。
「ありがとうございます!」
 昴は頭を下げたのだった。これで少しは安全だと思ったからだ。


「昴様、スピカ様」
 会議が終わって通路を歩いているとクリーム色の髪を二つのシニヨンにした女性が声をかけてきた。
「ツバーンじゃない。ポラリス姫のお使い?」
「はい。お二人に部屋に来てほしいとのことです」
「たしか。特別客室だったわよね?」
 スピカの言葉にツバーンは頷いた。
「分かったわ。案内して」
 ツバーンの案内で昴たちはポラリス姫のところに向かった。
 特別客室はその名の通り重要な客が泊りがけで来た時に使われる。ポラリス姫は一つの星の姫なので使われるのだ。
 中は最高品質の緑のビロードのソファ、ガラスの机、天蓋付きのベッド、大きなテレビ、隣室には人が三人ゆっくりと這入れるくらいのお風呂までついている。
 昴は自分が借りている部屋の十倍は豪華だと思った。
「よく来てくれたわね。昴さん、スピカ」
 ポラリス姫が姿を現した。
 彼女は昴より頭一つ小さい。銀色の髪は床に届くほど長く肌は雪のように白い。菫色の瞳は鋭い輝きを放っている。どこか老成した雰囲気をもつ少女だと昴は思った。
「久しぶりです。ポラリス姫」
 スピカがお辞儀をしたので昴も慌ててお辞儀をした。
「あなたたちを呼んだのは『ギャラクシア・ボックス』について話したかったからなの」
「何か知っているんですか?」
「ええ。たしか五〇年前に訊いたと思うわ」
「は?」
 昴は面食らった。五〇年前?どう見ても彼女の外見年齢の一五、六歳とあっていないような気がするのだが……。
 昴の表情を読み取ったのかポラリス姫はくすくす笑った。
「ごめんなさい。説明してなかったわね。私たちコールラ星の住民の特徴は耳がとんがっていることと寿命が長く体の成長が遅いことにあるの。ゆっくりと成長して外見年齢がある時期に達すると成長が止まるの。だから一五、六歳の外見をしているけど歳はスピカのおじいさんと同じくらいなのよ」
「…………。」
 昴が初めて目の前の人物を宇宙人だと思った瞬間だった。
「ちなみに寿命は千年よ」
「……千年……」
 それは長いと思った。彼女は寂しくないのだろうか。
「さて、本題に入りましょうか」
 昴が立ち直ったところでポラリス姫が口を開いた。
「『ギャラクシア・ボックス』が宇宙創世のころからあるのは訊いた?」
「カロンが言っていたような気がする」
 スピカが思い出しながら言った。
「『ギャラクシア・ボックス』は宇宙創世――ビッグバンと同時に誕生したとされているの」
「そんな前から!?」
 昴は驚いた。ビッグバンと同時に宇宙が誕生したのは有名だ。そんな前からある『ギャラクシア・ボックス』とはなんだろう。
「本当にそうなのかは分からない。星々が誕生して間もないころにものすごい爆発があったことは分かっているの」
「それは本当に『ギャラクシア・ボックス』の力なの?」
「ええ。後に観測された『ギャラクシア・ボックス』の力と同じだったみたいよ」
「なるほど……。それが根拠になるわけか……」
 スピカは感心したように言った。
「話をつづけるわね。『ギャラクシア・ボックス』はいつのころからか『宿主』を選ぶようになったの。で『宿主』は『ギャラクシア・ボックス』と波長があう人間が選ばれるようなの」
「え!?じゃあ俺は……」
「『ギャラクシア・ボックス』と波長があったんじゃないかしら?」
「ええええええ!?俺普通の高校生なのに!?」
 昴は驚いた。
「まああきらめなさいな。『ギャラクシア・ボックス』の『宿主』は死ぬまでその力と一緒なのだから」
「じゃあ昴はこれからも『ギャラクシア・ボックス』の力を宿すわけよね?……いったい何ができるの?星ひとつを征服できるくらいの力を持つことしか知らないんだけど……」
 スピカが気になるのか身を乗り出して訊いた。
「あと『宿主』の意のままに力を揮える事かしら。タイタンから聞いたけど昴さんが敵をはじいたのは出ていってほしいと願ったからじゃないかしら?」
「それでか……」
 たしかにあの時出ていってほしいと願った。
「……リゲルはどうして『ギャラクシア・ボックス』がほしいのかしら……」
 スピカが呟く。
「分かりません。あの人は地球征服なんて言い出す人ではなかったでしょう?……何か他の目的があるのではないの?」
「そうかも……。でも待って……。リゲルは昴の力だけが欲しいのよね……。『ギャラクシア・ボックス』が『宿主』の意のままになるってことは彼のしていることって無駄じゃない?昴がそんなことに手を貸すとは思えないもの」
「ですが、力をコピーする機械があるわ」
「それは……」
 スピカは凍りついた。『サークレッド一七七』。対能力者用に開発された機械で力をコピーし自分のものに一時的にする機械だ。
「で、でも『ギャラクシア・ボックス』を自分のものに出来る?下手したら自滅するんじゃない?」
 そんなこと考えたくなくてスピカは反論した。
「それでもいいという決意があればすると思うよ?」
「じゃあ、リゲルの目的って何なのよ……。地球征服に命までかけようと思わないはずだもの……」
「それがわかれば苦労しないわ」
 その会話を聞きながら昴はリゲルの目的はカリストが関係しているのではと思ったが黙っていることにした。後でしとけばよかったと後悔することも知らずに……。
27/46ページ
スキ