青き真珠

9.この星が大好き

昴はまたピンクの子供部屋にいた。
【また会ったわね】
 この間の少女が姿を現して言った。
「君はカリスト……?」
【なんだ。もう名前を知っているんだ】
 カリストはそう言うとくすくす笑った。
「スピカから聞いたよ」
【そう。スピカから……。彼女、どんな感じに育っている?】
 首を傾げてカリストが訊いた。
「とても勇敢で強いよ。でもこちらを振り回すのはちょっとやめてほしいかな……」
【スピカらしいわ】
 そう言ってカリストは微笑んだ。
「君は十年前に死んだと聞いた。今の君はどう見ても六歳にしか見えない……。これがきみが死んだときの年齢だとしたら……。生きてたら十六歳になるんだね……?」
【ええ。そうよ。私はスピカの一つ下。姉みたいな存在だったわ……】
「仲良かったんだね……」
 昴はぽつりと呟いた。カリストがスピカのことを話す時はうれしそうだ。
【一番仲良かった……】
「そうか……」
 しばらく二人は黙った。
【あの人――お父さまに伝えて。今やろうとしていることをやめろって】
「分かった。リゲルに伝えるよ」
 昴は頷いた。
【ふふっ。ありがとう……。もう時間みたいね……】
 カリストはそう言ってほほ笑んだ。
 するとあたりが真っ白になった。
 昴はぱちりと目を開けた。
 あたりを見回すと検査室だった。どうやらうとうとと眠ってしまったらしい。
「ずいぶん眠っていたね。もう検査は終わったよ」
 黒髪の男性が声をかけてきた。
「ありがとうございます」
 ぼんやりとしながら昴は言った。
「いやいや。こちらこそありがとう。おかげで分かったことがあったよ。さあ結果をあちらで聞こう」
 そう言って男性が検査室の隣の部屋に案内してくれる。
 緑のふかふかのソファ白い机、シンクが置いてあるだけのシンプルな部屋だった。そこのソファにスピカとタイタン、カノープスがいた。
「カノープス!?どうしてここに!?」
 昴は驚いた。
「私が呼んだ」
 スピカが簡潔に言った。
「彼は君の力を見ているし説明した方がいいと思ってね」
 黒髪の男性が細くした。
「そういうことだ。さあ、はじめてくれ。カロン」
 カノープスが黒髪の男性を促す。
「ああ。そうさせてもらうよ。カノープス」
 カロンはそう言うと紙を配り始めた。
「これは……」
 スピカが呟く。
「昴君の記憶を見てその時どういう感情を抱いたのか機械を使って調べてみた。でもそれだけじゃわからないからいくつか質問させてもらうよ」
「はい」
 昴はカロンの言葉に頷いた。
「昴君の力――『ギャラクシア・ボックス』はどうやら君の気持ちに反応するみたいなんだ」
「どういうこと?」
 スピカが首を傾げる。
「昴君、君が力を発揮したときスピカを守りたいって思っただろう?」
「はい。守られるだけじゃいやだ。強くなりたいって思ったんです」
 昴は正直に答えた。
「昴……」
 スピカの顔が赤くなる。
「ほお~。やるじゃないか」
「うんうん。若いっていいね~」
 タイタンとカノープスがにやにやする。ここにフォーマルハウトとアステリオンがいたらますますからかってくることだろう。
「ごほん。続けるよ」
 カロンが咳払いをして先を促す。
 それにスピカと昴は我に返ってカロンに注目する。
「昴君の力はとてもすごいものだ。僕は感心したよ。さすがは宇宙創世からあるといわれている『ギャラクシア・ボックス』だと思ったよ」
「宇宙創世?」
「……どういうこと?」
 スピカも初耳だったらしい。
「君が知らないとは驚きだよ。スピカ。ここらへんの話はポラリス姫の方が詳しいから聞くと良い」
「ポラリス姫が!?なんで彼女が知ってんの!?」
 スピカはひどく驚いてカロンにつかみかかった。
「落ち着いてスピカ。ポラリス姫は歴史に造形が深いから知ってんだよ。それより先を続けるよ」
「カロン。先を続けろ」
 カノープスはスピカをカロンから引き離しつつ言った。
「ああ。『ギャラクシア・ボックス』の力は本人が望めばどんなことでも可能にするって言う力だと思う。現に攻撃の防御、敵の撃退、スピカの治療などなんでもできているしね。能力者はたくさんいるけどここまでなんでもできるのはいないね」
「なんでもできるか……それはリゲルが狙うな……」
 タイタンがぽつりとつぶやいた。
「だからこそ敵には渡せない……」
 それは恐ろしいことだ。それにスピカはなぜだか昴自身を敵に渡したくなかった。『ギャラクシア・ボックス』の力あるなしにかかわらず。
「……ひとついいか」
「なんだい。カノープス」
 カロンがカノープスを見た。
「その『ギャラクシア・ボックス』を昴から分離することはできないのかい?そうしたら敵の意図を挫くことができると思うんだが……」
「無理だね」
「どういうこと?」
 スピカにはカロンの言うことが分からなかった。能力を無くすことはこの星の技術でできたと思うのだが……
「能力を無くすことくらいできるだろう?それこそここには「能力を無くしたい」って言う人がやってくることもある。そういう人たちの願いをかなえてきたじゃないか。分離くらい簡単だろう?」
 タイタンも同じことを思ったのか訊いた。
「『ギャラクシア・ボックス』は昴君の魂と同化しています」
「同化?」
 カノープスが怪訝そうな顔で訊く。
「ええ。『ギャラクシア・ボックス』は昴君と一体化しています。つまり昴君が死なない限り『ギャラクシア・ボックス』は取り出せないのです」
「死……」
 そんなの嫌だとスピカは思った。
「昴を犠牲にしてまで私、『ギャラクシア・ボックス』を守りたくない」
 それは本音だった。
「私も同意見ですよ。それに私たちは少年一人を守れないほど弱くはない」
「だがカロン。奴は何度でも狙ってくるぜ」
 カノープスが頭をかいた。
「……本当に奴の目的は地球征服なのだろうか……」
 タイタンのつぶやきにみんな注目を集めた。
「いや、リゲルは十年前まで地球に関心がない男だった。なのにどうして急に地球征服と言い出したのか疑問に思ってね……」
「……あの事件で変わったからでは?」
「それで地球征服と言い出す男かい?何か裏があるような気がする……」
「それは……」
 スピカは黙り込んだ。
「リゲル氏が変わってしまった事件というとカリスト嬢の死ですね」
 親子のやり取りを黙ってみていたカロンが口をはさむ。
「ええ」
「そうだ」
 二人が頷く。
「リゲル氏の目的が地球征服かそうでないかは今はどうでもいい。それより狙いが『ギャラクシア・ボックス』だということが重要です」
「カロンの言うとおりだな。今ここで話されたことは俺たちの隊と上だけの秘密にしようぜ」
「カノープスの言うとおりだな。それでは父上に報告してくるよ」
「頼みますよ。タイタン。……それでは私も研究に戻ります」
「俺も用事があるんだ。じゃあ行くわ」
 そして部屋にはスピカと昴だけになった。
「……必ず守るから……」
 スピカがそう言って手を握ってくる。
「うん……」
 昴は赤くなりながら頷いた。
「あなたをどんな敵からも守って見せる」
「俺も強くなるよ。足手まといにならないように」
 二人は誓いのように約束したのだった。
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