青き真珠

部屋の中で一人の男が紅茶を飲んでいた。ピシッとスーツを決め、好々爺と言ったふうな男性だ。彼はアステリオン。歳はなんとフォーマルハウトと同い年だという。
 その対面に昴は座っていた。ちなみに右にスピカ、左はスピカの父親のタイタンだ。
 昴はスピカの父親をちらりと見た。スピカと同じ金髪に灰色の瞳。全体的に優しい印象を受ける顔立ちをしている。昴はスピカは絶対に母親似に違いないと思った。
「会えてうれしいよ。昴君」
 昴は対面の男性に声をかけられてはっと意識を戻す。
「私の名前はアステリオン。アステリオン・シェーザ。この星の代表をやっている」
「星川 昴です。よろしくお願いします……」
「硬くならないでいいよ」
 がちがちに固まっている昴にアステリオンは苦笑した。
「はあ……」
「どうかね?この星は?」
「すごくいい星だと思います」
 昴は正直に答えた。
「君の星と比べてどうかね?」
「……外から見て緑に見えるっていうのがなんか新鮮で……。あと海がないというのが」
「ほう!地球は本当に青く見えるのか!それに海もあるんだね?」
 アステリオンは感心したように言った。
「ええ。七割が海ですから。それに俺の育った国は島国なんです」
「島国……。周りが海で囲まれているんだね?」
「ええ」
 昴は頷いた。
「野生の動物がいるって本当かね?」
「野生の動物?ええ。いますよ。いくつか絶滅危惧種とかいますけどね」
 なんでそんなこと聞くんだろう昴は疑問に思った。
「うらやましいことだ……」
 アステリオンは呟いた。
「シェイル星に限らずほとんどの星で野生の動物がいないのよ」
 顔に出ていたのかスピカが教えてくれた。
「ペットはいるんだが野生ははるか昔にいなくなった」
 タイタンも教えてくれる。
「へえ~」
 昴は感心した。地球には猫とかカラスとか普通にいたのに。ここでは野良猫とかいないのか。
「で、もっと地球について教えてくれないか?」
 それを皮切りに昴はいろいろ質問され、くたくたになる羽目になった。どうやらアステリオンは好奇心が旺盛らしい。元気なことだ。
それから三時間後――。
「もう時間だね。会えてよかったよ。おかげで有意義な時間を過ごすことができた。お礼を言うよ」
 アステリオンが言った。
「こちらこそ会えてうれしかったです」
 二人は握手した。
 と、そこへ炎が通りかかった。
「……!?」
「……!?」
「……!」
「……!」
 昴とアステリオンが驚き、スピカとタイタンが戦闘態勢に入る。
 そこへ炎をまとった青年が現れた。赤い髪に赤い目。耳はとんがっており一目で異質だとわかる。
「アンタレス……」
 スピカがその名を呟く。
 ミラと並んだ異能力者、アンタレスだ。
「何しに来たんだね?」
 険しい顔でアステリオンが言った。その姿には威厳がある。
「『ギャラクシア・ボックス』を奪いに来たのさ」
 アンタレスが答えた。
 それを聞いてスピカとタイタンが前に出る。構える仕草が同じだ。さすが親子だと思った。
 すぐさま戦闘が始まった。
 アンタレスは炎でタイタンとスピカの攻撃を防いでしまう。異能力者というのは厄介だ。
 それでもスピカとタイタンは攻撃を続ける。
「マズイな……」
 アステリオンが呟く。
「何がですか?」
 その呟きが気になって昴は訊いた。
「暑さでスピカとタイタンの体力が奪われているんだよ」
 そこで昴はようやく部屋の中が暑いことに気が付いた。アンタレスの炎の攻撃で部屋の温度が上がったのだ!
「かはっ!」
 スピカが壁に叩きつけられる。その腕を見るとやけどしている。美しい金髪もところどころ焦げている。
「……!」
 それを見て昴は何もできない自分を歯がゆく思った。自分は彼女に守られるばかりで何もできない。
(力がほしい……)
 昴は心底そう思った。
 すると昴の身体が光った。この間みたいな白い光ではなく青い光が昴の身体を覆っている。
 それと同時に昴には不思議な感覚が襲った。宇宙と一体化したみたいな感覚。感覚がさえわたり誰が何をしているのかがわかる。
 目を閉じてみるとアンタレスがスピカに攻撃しようと力を練っているのを感じ取ることができた。
スピカが危ない。そう思った途端昴の身体は動いた。スピカを突き飛ばしたのだ。
「昴!?」
 スピカはぎょっとした。昴に向かって炎が向かってくるではないか。
「昴!」
「昴君!」
 タイタンとアステリオンが声をあげる。
 もうだめだと思ったときだった。昴の身体が光って炎が消えた。
「何!?」
 アンタレスが驚きの声をあげる。
「どっか行け!」
 昴が叫ぶと光の光線がアンタレスを直撃、アンタレスは気絶した。
「奴は気絶したの……?」
 スピカが呟く。
「みたいだね……」
 タイタンが呟く。
「捕まえよう」
 アステリオンの言葉に二人は頷くとアンタレスを運ぼうと彼の方に近づいていった。
 しかし二人は立ち止まることになる。
 黒い髪に青い瞳のスーツ姿の男がアンタレスのそばにいた。すぐ近くには青い髪の青年がいる。
「リゲル……!プロキオン……!」
 タイタンが驚きの声をあげる。
 その言葉に昴はスーツ姿の男を見た。なんとなく瞳がスピカに似ているような気がする。
(こいつがリゲル……)
 自分を狙っている張本人……。
「アンタレスは回収させてもらう。それにしても先ほどの力……。ますます欲しくなったよ。次からは逃がさないよ」
 リゲルは暗い笑みを浮かべて昴を見た。
 それに思わず昴はぞくっと背筋が寒くなってしまった。スピカと同じ瞳なのにどうしてここまで違うのか。
(なんだ。こいつ……。今までの奴らと違う……。『ダークマター』の親玉だからなのか……)
 どうしようもないことに巻き込まれていくような感じがした。
「さて、私は失礼させてもらうよ。プロキオン!」
 リゲルはアンタレスを背負うと水色の髪の青年に命じた。
 プロキオンは頷くと身体を光らせた。
「待って!リゲル叔父さん!」
 スピカが姿を消す直前のリゲルに向かって言った。
「次会うときは手加減しない。たとえそれが姪だとしてもな」
 リゲルはそう言ってそこから姿を消したのだった。
「お、叔父さん……?」
 昴は愕然とした。スピカとリゲルには血縁関係があるというのか。
「ええ……。あの人は私の叔父さん……なの……」
 スピカは消え入りそうな声で言った。
「話は後だ。まずは手当てをしよう」
 アステリオンがスピカと昴に向かって言った。
「分かったわ」
 スピカは頷く。
「あとで話してくれるんだろ?」
 昴は訊いた。スピカなら話してくれると思って。
「ええ。約束するわ」
 スピカはあっさりと言った。
 それにタイタンとアステリオンは驚いた顔をした。それに昴は首を傾げた。なにをそんなに驚いているんだろう……。
「さあ、行きましょう」
 スピカに促されて昴たちは救護室に行くことになった。


二人は昴の部屋のベッドに並んで腰かけていた。スピカは腕をところどころ包帯でまいており痛々しい。
「あの人……リゲルは……母の弟なの……」
 スピカがためらいながらぽつりぽつりと話しはじめる。
 スピカたちとリゲルは仲良く交流していたが十年前を境にリゲルは変わってしまったこと。それで母が心を痛めていること。『COSMOS(コスモス)』に入りたいというと危ないことをしないでいいと猛烈に母が怒ったこと。それにきれて家を飛び出してしまったこと。
「それでお母さまとケンカしたまま……。お母さまは女の子は女の子らしくっていう考えの持ち主だから私とカペラが『COSMOS(コスモス)』に入っていること気に食わないみたいなのよね……。あの人」
「そうか……。話してくれてありがとう。で、リゲルが変わってしまった事件ってなんだ?」
 そこが重要だと昴は思った。
「娘の死よ……。リゲル叔父さんの娘、カリストは事故で死んだの。宇宙船同士の衝突の事故だったわ……。それリゲル叔父さんはかなりショックを受けたの。奥さんも娘の後を追うように死んでしまったしね……」
「娘……」
 昴は銀髪に青い瞳の少女を思い浮かべた。あの人を助けてと夢で言ってきた少女。
(もしかして、彼女がカリスト。なのかな……。だとしたらリゲルがしようとしていることって……)
 昴は考え込んでしまった。
 そこへタイタンが扉を叩いて入ってくる。
「昴。君の力について調べたいんだ。どういうメカニズムで力が出るのか分かれば守りやすくなると思うんだ。どうだ?」
「どうするの?お父さまに言われたからではなく自分の意志で決めるといいわ」
 スピカが言った。
「分かりました。俺も力について調べたいと思っていましたし。よろしくお願いします」
「なら、ついてきたまえ」
「はい」
 昴は頷くとタイタンについていった。
(俺の力っていったいなんなんだ……?どうして宇宙と一体化したような感覚がしたんだ……?わからない……)
 昴は検査室に着くまで悶々となやむことになった。
 やがて検査室についた。検査室は様々な機会が置いてあって興味をひかれた。
「ここに寝てくれるかい?」
 黒髪に眼鏡の男性がベッドを示した。
 昴は頷くとベッドに横になった。
 昴が横になるとさまざまな光線が昴を包み込む。
 昴は検査が終わるまでと目を閉じた。
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