青き真珠

7.COSMOS

「すごいな……」
 昴は何度目か分からない感嘆の息を漏らした。
 あれからスピカとカノープスは「COSMOS」本部敷地内にある飛行場に着陸した。
「ルイス大尉、コルベール中尉。任務ご苦労様でした」
 そう言って声をかけてきたのはこげ茶の少年と言ってもいいくらいの年齢の男だった。青い制服をピシッと着込み、いかにも真面目といった風だ。
「ドゥーベ」
スピカは彼の名前を呼んだ。
「こちらが例の彼ですか」
 ドゥーベは昴の方に視線をよこした。
「ええ。そうよ」
 スピアが頷く。
「ドゥーベ・ヴィグル軍曹です。よろしくお願いします」
「星川 昴です。よろしくお願いします」
 二人は握手した。
「で、ドゥーベがここに来た理由は?案内なら俺たちだけで足りるし……」
 カノープスの疑問にドゥーベは頷いた。
「ええ。司令がお呼びです」
「おじいさまが?……なるほど」
 スピカは理由に思い当たったらしい。
「昴に会いたいわけか。それで俺たちの部下をわざわざここによこしたのか」
「ドゥーベ。案内して」
「分かりました。ついてきてください」
 ドゥーベの案内で建物に向かった。
 建物の中は明るかった。地球にある高層ビルの中によく似ていた。
「こちらです」
 ガラス張りのエレベーターに乗り込む。
エレベーターは最上階までいったと思うと横に動き出した。
「横に動いている!」
「地球では縦にしか動かないのですか?」
 ドゥーベが興味深そうに訊いてきた。
「普通そうだろう?」
「へえ。興味深いですね。もっとお話を聞きたいです」
「機会があったら話してあげる」
「約束ですよ」
「ああ」
 昴は頷いた。
「着いたわ」
 スピカが言うと同時にエレベーターの扉が開いた。
 エレベーターを降りると司令室と書かれた札が見える。
スピカがドアの前に立つとドアが開いた。自動ドアらしい。
「よく来たね。スピカ、ルイス大尉。そして星川 昴君」
 出迎えてくれたのは七十代後半の男性だった。灰色の瞳は鋭く頬に傷跡がある。
「私はフォーマルハウト・コルベール。遠いところからよく来たね。ここでゆっくりしていくといい」
「はあ、どうも……」
 昴は緊張した。
「スピカ、ルイス大尉、ヴィグル軍曹。席を外してくれないか。昴君と二人で話をしたい」
 いきなりフォーマルハウトは言った。
「でも、おじい様……」
 スピカは戸惑った。
「できるね?」
 有無を言わせない態度だ。
「分かったわ……」
 スピカはしぶしぶ頷くとカノープスとドゥーベと共に部屋を後にした。
「お礼を言おう昴君」
 スピカが出ていくとフォーマルハウトは言った。
「え?」
 昴はお礼を言われる理由がわからず戸惑った。
「ミラ・グリンダの攻撃からスピカを守ってくれた。そしてあの子は君と出会ってからいい方向に変わった」
「変わった?」
 昴は首を傾げた。出会ったときからスピカは変わっていないのに。
「あの子は所長の孫という立場からやっかみや期待を受けていてね。それが重圧になったのだろうね……。心を人になかなか開かなくなってしまった……」
 昴は驚いた。スピカからそんなこと想像できない。
「あの子の家庭事情は聞いているかね?」
「母親と仲が悪いとだけ……」
 昴が家庭事情を話した数日後にこっそりスピカが教えてくれたことだった。
「ほう……。そんなことまで話してくれたのかね」
フォーマルハウトは感心したように言った。
「あの子はなかなかそのことを話さないがね。よっぽど心を開いてもらっているのだね。これからもスピカをよろしく頼むよ」
「そのつもりです」
「そう。なら君の部屋を用意しよう。コープ伍長たち、彼を部屋に案内頼む」
 そう言って二人の少年を呼んだ。
 少年たちは鏡を写し出したようにそっくりで茶色の髪に翡翠の瞳を持っていた。しかし片方は右頬にほくろがありもう片方は左頬にほくろがあった。
「分かりました」
「ついてきてください」
 二人はそれぞれ言って昴を案内した。
 昴は後を追った。
「名前なんて言うんだ?」
 昴は二人に興味を持って訊いた。
「僕たちはある星から名前を付けられています。星に詳しいあなたならわかるでしょう。ヒントは双子です」
エレベーターに乗り込みながら右頬にほくろがある方が言った。
「双子ね……」
 昴は双子で分かった。なるほどふたご座のあれだ。
「カストルとポルックス。ふたご座にある星だな」
「さすがです。僕がポルックス。こっちがカストルです」
 どうやら左にほくろがあるのがポルックスで右にほくろがあるのがカストルらしい。
「「どうぞよろしく」」
 二人は声をそろえて言った・
「こちらこそよろしく」
 昴は微笑んだ。
「さて、部屋に着きましたよ」
 カストルが言った。
 部屋は箪笥とクローゼットとベッド、テレビが置いてあった。テレビの横にガラス張りのドアがあり目の前に立つと開いた。中はシャワールームだった。
「結構いい部屋じゃん……」
 昴は呟いた。
「これが部屋の鍵です」
 ポルックスが緑のカードを差し出した。カードには星に二枚の羽が生えたものが描かれていた。「COSMOS(コスモス)」の紋章だ。
「ありがとう」
昴はお礼を言って受け取った。
「では用があったら呼んで下さい」
「僕たちかコルベール中尉が駆けつけるので」
 カストルとポルックスはそう言うと一礼して部屋を出た。
「ふう……」
 昴はため息をつくとベッドに横になった。
 いろいろ疲れていたのだろうか。横になるとうとうとと眠ってしまった。
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