青き真珠

「準備はいいか」
カノープスが訊いてくる。
「いいわよ」
「いつでもいい」
二人は答えた。
青い旅行鞄には着替えや歯ブラシなど生活に必要だと思われるものが入っている。
「それじゃあ行こう。星隆湖だっけ。そこに行こう」
カノープスが促してくる。
昴は最後に一度だけ家を振り返った。これから長らく留守にする。あまり好きではない家だが最後に見ておきたかったのだ。
星隆湖まであるいて三十分くらいかかる。
もくもくと歩き続けた。
しばらくすると森が見えた。その中ほどに星隆湖はあるのだ。
「都会なのに森があるのね」
 スピカが昴に言った。
「ああ。都会の中に森があるってことで有名なんだ。たくさん人がくるよ。……ところでそこに宇宙船を停めているっていったけど見られたりしないのか?」
 昴は星隆湖がたくさんの人が集まる憩いの場というのを思い出して宇宙船がみられていないか気になった。
「大丈夫よ。ステルスが施してあるもの」
「ステルスって?」
 聞きなれない言葉が出てきた。
「他人に見られたりしないように施す防御壁みたいなものだな」
 カノープスが説明する。
「なら大丈夫かな」
 昴はそれを聞いてほっとした。
「ほら見えてきた」
 カノープスが示す方向にはぽっかりと空間が開いている。そこだけ木がなくきらきらとした水面が向こうに見える。
「星隆湖ね。よし!」
 スピカはそう言うと小さなジェル状のものを取り出した。
「タイム・ジェル!」
そう言って湖に向かって投げた。
すると夏休みを利用してここに来ていた人々がみんな固まった。
「何をしたんだ!?」
 昴はうろたえた。いきなり人が止まってびっくりしたのだ。
「あの人たちの時間を止めたのよ。宇宙船に乗り込むところを見られたらことだからね」
「ああ。そうだな。乗り込むときにはステルスを解除しなければならないしな。それになるべく地球人に我々の存在を知られたくない」
 スピカとカノープスはそう言って宇宙船に乗り込む。
スピカの機体は青い二人乗りの戦闘機みたいなものでカノープスの機体は赤い一人乗りの戦闘機みたいなものだった。
円盤状の宇宙船を想像していた昴はこれにはびっくりした。軍の戦闘機と変わらないではないか。
「ほら、昴」
 スピカがそう言って昴に手を貸す。
「うん」
昴はその手を取って後部座席に乗り込んだ。
「それじゃあ行くわよ」
 スピカがそう言って宇宙船を動かす。
「カノープスもちゃんとついてきてね」
「おう。俺を誰だと思っている?」
「カノープス・ルイス大佐よ」
 スピカがそう答えると同時に宇宙船が動き出す。ガタガタと激しい音とともに浮かび上がる。
「ちゃんとシートベルト閉めてね」
 その言葉に昴は慌ててシートベルトを締めた。
 だんだん高度が上がっていく。外をみると宙圃町が点だ。
「すごい……」
 昴は感嘆の声をあげた。
「すごいでしょ。でも今は飛行機と変わらない高度のはずよ」
 スピカが言った。
『どんどん上がっていくからな。お楽しみはこれからだ。しばらくこの高度で飛ぶぞ』
 無線機からカノープスが言う。
 そのままその高度を飛ぶとまただんだんと上がっていく。
 やがて青い膜みたいなものが見えた。
「地球の大気ね……」
 スピカが呟く。
「うわあ!宇宙飛行士でもないのに見れるなんて……!」
昴は己の運命に始めて感謝した。
「もうすぐ地球を出るわ」
 スピカがそう言った時だった。
 戦闘機が二機近づいてきた。
「やばっ!奴らだわ!カノープス!」
 スピカは叫んだ。
『分かってる。とっとと地球を出るぞ』
 カノープスが言ったと同時に弾が飛んでくる。
 スピカとカノープスはそれをかわした。
『逃がさないわよ!』
 無線が飛んでくる。その言葉で昴はようやく理解した。エルナトたちが追ってきたのだ。
「しっかり捕まってて!」
 昴はスピカの座る椅子にしっかりと捕まった。それとともにスピードが上がる。
「カノープス!ワープしよう」
『分かった。その前に奴らを蹴散らそう。それっ!』
 カノープスがエルナト機とアルデバラン機に向かって攻撃した。光の弾がカノープスの機体から出る。
 その間にスピカはワープ装置を起動させた。
「転移座標入力。カノープス!ワープ開始まであと十秒よ!」
『了解!』
 カノープスが返事してこっちにやってくる。
 カノープスがやってくると目の前に緑色の穴が現れた。
「あれなんだ!?」
 昴は驚いた。
「ワープホールよ。ワープ開始!」
 スピカたちの機体はワープホールに吸い込まれた。
後にはうろうろする二機の機体が残された。


昴は外を見ていた。さっきから緑色しか見えない。
「大丈夫?」
 初めてワープする昴をスピカが気遣う。
「ああ。でもすごいね。これがワープなんだ」
 昴は感心した。
「外は何もなくてつまらないかもしれないけどもうすぐだから」
「大丈夫だよ。退屈じゃないから」
『もうすぐ出口だぞ』
 カノープスが言った。それとともにまた濃紺があたりを包んだ。ワープホールから出たのだ。
「あ。見えてきたわ」
 スピカが言った。目の前には碧色に輝く美しい星があった。
「シェイル星よ。私の故郷」
「美しい星だ」
 素直な感想だった。
「地球には負けるわ」
 スピカはそう言うと操縦席のボタンを押した。
「スピカ・コルベール、カノープス・ルイスの両名は保護した地球人を連れて「COSMOS(コスモス)」本部にやってきました。着陸許可をお願いします」
『了解。着陸許可』
「着陸許可ありがとう」
 管制塔とやり取りするとスピカはシェイル星に向かって行った。
 大気圏に到達するとがたがたと激しく揺れた。
「うわあ!」
 昴は悲鳴をあげた。
 それに構わずにどんどん高度を下げていく。
 そして高度が一定になった。
 昴は外を見る余裕が出てきた。
「すげえ……」
 昴は感心した。
 下を見下ろすと高層ビルが並び立っていたのだ。ビルとビルの間にはチューブみたいなものがたくさん通っており外には空飛ぶ車やオートバイが飛んでいた。
「すごいでしょ?」
「ああ。こんなの地球にもないよ」
『それはそうだ。ここは地球よりかなり発展しているからな』
 話を聞いていたのかカノープスが無線で割り込んでくる。心なしかおかしそうだ。
 やがてひときわ高いビルが見えた。
『「COSMOS(コスモス)」本部だ』
 カノープスが言った。
昴は緊張した。
二機の飛行機はそこを目指して飛んでいったのだった。
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