青き真珠

二人はどこかのカフェにいた。赤いチェックのテーブルクロスのおしゃれなお店だ。
スピカがお腹がすいたと言ったからだ。
まああれだけの戦闘をすれば当然だろう。
「ん~。おいしい」
スピカはパンケーキをほおばってニコニコだ。
「一人で出かけてゴメン……」
昴は謝った。
「別にいいわよ。それにしても誰と会っていたの?」
「母さんだよ」
「え?お母さん?何の用事だったの?」
「別に大したことない。家に戻って来いって」
昴はそう言って黙り込んだ。
しばらく沈黙を二人が襲った。
「……どうして家族と暮らしていないの?」
「家に居たくないからだよ」
「どうして?」
母親と仲が悪いとはいえスピカは家に居たくないと思ったことはない。昴はなぜ家に居たくないのだろう。それをスピカは不思議に思った。
「……俺は父さんが許せないんだ……」
「許せない?」
穏やかではない言葉だ。
「うん。俺が小学校に上がった年だった……」
ぽつりぽつりと昴は語り始めた。
昴が小学校に上がった年の七月。
ちょうどいまくらいの時期のことだった。父の愛人が亡くなった。
そして父との間の子供がいることが分かり引き取ることになった。弟ができた瞬間だった。
「その愛人との付き合いは母さんが体調を一時期崩していた時期からだったらしい。母さんはあんまり体が強くなくてよく体調を崩すんだ。それでショックを受けてしばらく寝込んじゃったんだ。俺はそんな母さんを見て来たから父さんが許せなくて……」
もちろん幼かったこともあっただろう。と昴は思った。だからと言って体調を崩した妻を放っておいて他の女と遊んでいいのか。と昴は思う。
だからなおさら父親が許せないのだ。
「そんなことがあったの……」
スピカはそんな過去が昴に会ったなんて知らなかった。
スピカが母親と仲が悪いのはスピカが「COSMOS(コスモス)」に入ったからだ。それが気に入らない母親と大喧嘩になってそれっきりだ。
でも昴の父親嫌いはそれとは違う。裏切られたことが発端なのだ。
「だから父親のことは今でも許せない。なのに帰れだなんて……」
昴は憤ったようにそう言った。
「話してくれてありがとう」
スピカはそう言って昴の手を握った。
「いや……、こちらこそ聞いてくれてありがとう」
昴はそう言って手を握り返した。
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