青き真珠

5.消えない傷

先の戦闘から一週間近くたったある日のこと。
昴はスピカにも内緒で近くのカフェに来ていた。
「昴……」
黒髪に黒い瞳の女性が昴に声をかけた。
「久しぶりだね。母さん。」
昴は母の節子せつこと待ち合わせをしていたのだ。
「ねえ。家に帰ってくる気はない?」
昴が席に座ると節子は言った。
「ないね。父さんにもそう伝えてよ。」
「あの人のこと許してあげて、昴。あなたが傷ついたのはよくわかるわ。」
「……して……」
「え?」
節子は怪訝そうな顔をした。
「どうしてそんなに笑顔でいられるんだ!一番傷ついたのは母さんだろ!?」
昴は叫んだ。
「それは……」
節子は視線を逸らした。
「とにかく俺は絶対に父さんを許さない!俺や母さんを裏切った父さんを!」
「昴……」
「……とにかく俺はまだ帰る気はないから……」
昴はそう言うと席を立った。
「昴。母さんは待っているからね。」
節子は立ち去る昴の背にそれだけを言ったのだった。
カフェを立ち去った昴は一人歩いていた。
(俺は父さんを許さない……。俺と母さんがどれだけ傷ついたと思っているんだ……。あんな風に母さんを泣かせて……)
そう言う風に考え事をしていた昴だったから忍び寄る影に気付かなかった。
「一人で歩くとは不用心だな。『ギャラクシア・ボックス』を持つ地球人よ。」
「誰だ!」
昴は後ろを振り向いた。
「おまえは……。アルデバラン!」
そこにいたのはアルデバランだった。
「やっと捕まえたぜ。」
そう言って昴の手首をつかむ。
「離せ!」
昴は暴れた。
「暴れるな。」
アルデバランは銃を昴の額に突きつけた。
昴は抵抗をやめた。身の危険を感じたのだ。冷や汗が出る。
「恨むなら。一人で歩いていた自分を恨むんだな。」
昴は歯ぎしりした。せめてスピカに一言言っとくべきだった……!
「さて。行きますか。」
アルデバランが昴に銃を突きつけながら歩き出そうとした時だった。
「ぐはっ!」
アルデバランは背後から強烈な一撃を喰らって昴を離した。
昴は地面に投げ出された。
「スピカ!」
昴はスピカを認めて歓声を上げた。
「馬鹿!どうして一人で歩いたりしたの!?狙われているって自覚ある!?」
スピカは昴を見るなり怒鳴った。
「ゴメン……」
昴は自分の非を認めた。
「まあいいわ。今はこいつらの相手をしなくちゃいけないから」
スピカはそう言って目の前を睨んだ。
昴は気が付いた。アルデバランの側にエルナトがいつの間にかいる。
スピカはアルデバランに向けて空気銃を発射した。
そしてひるんでいるすきに手首をつかんで投げ飛ばした。しかもエルナトのいる方向に。
「ぐはっ!」
「きゃっ!」
二人は悲鳴を上げた。
「二度と昴にこんな真似をしないで!」
そう言ってもう一度二人に蹴りを入れた。
二人は気絶した。
「逃げるわよ!」
スピカはそういうと昴の手をつかんで逃げた。
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