蕾は黒に見守られ花開く
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「これで、任務完了」
ノアは静かに封筒を差し出した。
その中には、淡い金糸の髪――ほんの数本だが、それで十分だった。
「……これは、確かにあの子のものだ。ご苦労だったな」
依頼主の男魔界上層に通じる政治屋は、満足げに笑った。
その笑みのすぐあとに、もう一つの“報酬”が告げられる。
「では予定通り、君をレオナルドの婚約者として迎える。
君の“素晴らしい能力”は、我が組織の宝になる」
その言葉に、ただ一つ頷いただけだった。
抵抗も、肯定も、怒りすら浮かばない。すべてが、もう鈍くなっていた。
***
ノアはレオナルドの私室にいた。
レオナルドはどこか獣じみた欲を隠そうともしない目。
ノアの手を取る仕草も、丁寧に見えて指先が妙にねっとりと動く。
「嬉しいな。…君が、俺のものになるなんて」
ノアは笑わない。表情を変えず、手を引こうともしない。
レオナルドの手が彼女の頬に触れ、顎を持ち上げた。
「なあ、ちょっとくらい、反応してくれてもいいだろ?」
ノアは何も言わなかった。目も逸らさない。ただ、受け入れていた。
レオナルドが身を屈め、唇を重ねてきても
それを拒まない。
そのキスに情熱があろうと、唾液が混ざろうと
ノアの目だけは、氷のように冷たく、乾いていた。
それが一層、レオナルドの支配欲を刺激した。
「……最高だな。どこまで従順なんだよ、君は」
笑う声。
けれどその手が胸元に触れても、呼吸一つ変えなかった。
まるで自分の体が、他人のもののように。
心を閉ざし、魂をどこかに置き去りにして、ただ肉体だけがそこにいた。
***
夜、屋敷のバルコニー。
風に揺れる髪を押さえながら、ノアは一人立っていた。
指には、婚約を示す指輪。
だがその輝きは、彼女にとって何の意味も持たなかった。
「私はもう、“使い道のある人形”。それ以上でも以下でもない」
彼女の瞳には、未来のどこにも“自分”がいなかった。
レオナルドとの関係も、結婚も、触れられることも、キスされることも
すべて“任務”の延長。
感情のない許容。
それは、壊れぬために築かれた鋼鉄の檻だった。
だが。
風が吹いた時、ほんのわずかに目を伏せた。
ペンダントを返した夜カルエゴの声が
まだ耳に残っていた。
「……」
ノアはそれを振り払うように、手すりを握りしめる。
心は動かさない。動けば、崩れてしまう。
これは契約。
生きるために、自分で選んだ道だったはずだ。