蕾は黒に見守られ花開く
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「……はい、わかりました」
まるで機械のような声だった。
ただ短く答え、静かに任務地へと足を向けた。
監視は解かれている。だが、盗聴は続いている。
今は“自由な振る舞い”を許されているにすぎない。
逃げ出せば、リリィが消される。
「養護施設の子供たち。始末してくれ」
その命令に、ノアは瞬きひとつせず頷いた。
心を殺し、感情を押し込めた“かつて”のように。
だが、その歩みの中で心臓だけは騒がしかった。
胸の奥で、確かに何かが拒絶している。
けれど、それを表に出すことはできない。
「私は、兵器だ。組織にとっての便利な道具。それだけ……」
***
夕暮れの空は、どこか血のように染まっていた。
その色に呼応するかのように、養護施設の壁も地面も、真っ赤に塗り替えられていた。
しかしその中心に、流れる血とは不釣り合いなほど静かに佇む影ノアの姿があった。
足元には転がる人形。血ではない“何か”で染まったシーツ。
演出されたそれらが、まるで真実のように現場を飾っていた。
そして、その空間に、現れた。
「ノアッ!!」
怒声。
顔を上げると、視界に映るのはカルエゴの怒りに満ちた瞳。
「貴様……これは……!」
現場の惨状に、カルエゴの拳が震える。
魔力が空気を震わせるほどに高まる。
だが、ノアはその中心にいてなお、まるで動じなかった。
「これが、私の仕事だよ」
凍りついたような冷たい声。
表情はまるで人形のように無機質。
かつてバビルスで見せた、あの優しい面影はどこにもない。
「……お前、本気で言ってるのか?」
「ええ。私はもう、あなたの知っている“ノア”じゃない」
カルエゴは歯を食いしばる。
何かに取り込まれたような瞳をしている。
心の奥が叫んでいるような、それでも助けを拒むような
「それとも今、ここで止めてみる?」
言葉と同時に、ノアの周囲に殺気が漂う。
カルエゴの返答を待たずして、彼女は動いた。
戦闘が始まった。
瞬間移動のように鋭く踏み込み、鋭利な魔力の刃を繰り出すノア
カルエゴも応戦する。防御の魔法を展開し、攻撃をいなしていく。
「お前がこんなことをするはずがないッ!」
「……それは、ただの願望。私はもう違う」
激しくぶつかり合うふたりの魔力。
瓦礫が砕け、地面が裂ける。
幾度も交差する攻防の中で、カルエゴは隙を突いてノアの肩を掴んだ。
「ノア!本当にこれでいいのか!?」
その瞬間だった。
ノアの手がカルエゴの胸元を掴み、間髪入れずに膝蹴り。
苦悶の表情で吹き飛ぶカルエゴを見下ろしながら、言い放った。
「私は、もう貴方の知っている私じゃない」
言いながらも、どこか不安定だった。
目の奥には、言葉と裏腹に揺れるものが確かにあった。
カルエゴが顔を上げる頃には、ノアの姿はもうなかった。
魔法ではない。ただ逃げるように、その場を去っていた。
魔力の痕跡すらも残さず、影のように。
風が吹いた。瓦礫の舞う中に、ぬいぐるみの切れ端が転がる。
カルエゴはただ、こぶしを握りしめた。
「ノア……!」
呼びかけは空に消えた。
その名を呼ばれても、もうノアは振り返らなかった。