蕾は黒に見守られ花開く
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
キリヲと共に馬車に乗り込み
ノアは自分の過去が這い寄る音を聞いた
静かに目を閉じ昔のことを思い出す
***
物心ついたとき、私はすでにひとりだった。
名前も、家も、家族も知らない。
覚えているのは、暗く、湿った路地裏と、
空腹と、震える夜の寒さだけ。
雨の夜。
ゴミ箱をあさっていた私を、一人の男が拾った。
「お前、運が良かったな。今日から飯にありつけるぞ」
男の声は低く、冷たかった。
けれど、腹を満たせるならなんでも良かった。
そうして私は、“組織”に拾われた。
最初の仕事は、動物の喉をかき切ること。
次は、薬の調合。
そして、標的の尾行。
いつの間にか、手に血が染み付いていた。
私にとって「殺すこと」は、生きる手段だった。
命令に逆らえば、私が消されるだけ。
だから私は、生きるために人を殺した。
それが「当たり前」だった。
けれど、ある日。
任務の途中で、一人の子どもと出会った。
その子は、私と同じくらいの年。
いや、少し幼かったかもしれない。
手足を縄で縛られ、目を腫らして泣いていた。
私は思わず、その子の目を覗き込んだ。
そこで、見たのだ。
震える瞳の奥に、過去の自分を。
その瞬間、胸の奥がチリ、と痛んだ。
感情なんて、とうに捨てたはずだった。
でも、その痛みは、確かに「私自身」の声だった。
(私は……なにをしている?)
その日から、違和感が芽生えた。
自分が殺すことで、生き延びている命。
その背後に、無数の「昔の私」がいたことに、気づいてしまった。
そして、私は決めた。
この組織を、終わらせる。
表では従順を装い、
裏では少しずつ証拠と情報を集めた。
仕事の中で学んだ毒を、少しずつ、仲間の食事に混ぜた。
疑われないように、時間をかけて。
私を“便利な道具”としか見ない彼らに、疑うという発想はなかった。
疑われないように、時間をかけて。
私を“便利な道具”としか見ない彼らに、
疑うという発想はなかった。
私は、従順な手駒を演じ続けた。
まず観察した。
誰が誰に命令を出しているのか。
誰が拠点を出入りし、誰が毒に敏感で、誰が暴力を振るいやすいのか。
言葉は交わさずとも、視線で、仕草で、人の本性は見える。
「お前は殺すのが上手いな。よし、次は貴族の屋敷をやってみろ」
嬉しそうに言う幹部の目を見て、私は心の奥を冷やす。
その声を、どうやって掻き消すかを考える。
次に、毒の準備。
一度に全てをやれば、気づかれる。
だから私は、少しずつ、時間をかけた。
訓練場の水桶に、極わずかずつ毒を垂らす。
微熱と吐き気が出る程度。
誰も死なない。ただ、体調が悪くなる。
それを何日も繰り返し、誰がどんな反応を見せるのか、慎重に観察した。
反応が鈍い。ならもっと強くしても、いける。
信頼されていたから、私は食事係を任されていた。
これが決め手だった。
幹部連中が揃う晩餐の日。
私は、決行した。
最も毒に強い者には、違う経路を用意した。
酒の中に仕込んだ。氷が溶けてから効くように。
自分の皿は、もちろん別。
「味見もしておけ」と言われるのも見越していた。
私は自分の命を守るためなら、いくらでも騙せる。
一人、また一人と、男たちが苦悶の声を上げて倒れる。
その光景に、私は何の感情も湧かなかった。
叫び、のたうち、血を吐く。
あれが今まで、私に命令してきた“上”の人間たちの最期だった。
最も警戒していた幹部――“狐”と呼ばれていた男が最後に残った。
毒に耐えたのか、それとも手をつけなかったのか。
私はその男の前に立ち、無言でナイフを抜いた。
「……お前か。お前が全部……」
そう言いかけたその瞬間、私は心臓を狙ってナイフを投げた。
音もなく、男の身体が崩れる。
もう誰も立ってはいなかった。
沈黙。
あの場所に響いていた喧騒も、怒号も、命令も、
やっと、終わったのだ。
私は、静かに外へ出た。
夜の風が頬を撫でる。
月が高く、青白く輝いていた。
建物に火をつけ全てを消し去った…
「これで、いい」
そう呟いた声は、震えていなかった。
組織は壊滅した。
けれど、私の人生は空っぽだった。
私の手には“自由”がある。でも“居場所”は、まだどこにもなかった。
私は再び、孤独の中を歩き出した。
だけど違う。
今度は、自分の意志で、歩いている。
それだけが、私の確かな誇りだった
ノアは自分の過去が這い寄る音を聞いた
静かに目を閉じ昔のことを思い出す
***
物心ついたとき、私はすでにひとりだった。
名前も、家も、家族も知らない。
覚えているのは、暗く、湿った路地裏と、
空腹と、震える夜の寒さだけ。
雨の夜。
ゴミ箱をあさっていた私を、一人の男が拾った。
「お前、運が良かったな。今日から飯にありつけるぞ」
男の声は低く、冷たかった。
けれど、腹を満たせるならなんでも良かった。
そうして私は、“組織”に拾われた。
最初の仕事は、動物の喉をかき切ること。
次は、薬の調合。
そして、標的の尾行。
いつの間にか、手に血が染み付いていた。
私にとって「殺すこと」は、生きる手段だった。
命令に逆らえば、私が消されるだけ。
だから私は、生きるために人を殺した。
それが「当たり前」だった。
けれど、ある日。
任務の途中で、一人の子どもと出会った。
その子は、私と同じくらいの年。
いや、少し幼かったかもしれない。
手足を縄で縛られ、目を腫らして泣いていた。
私は思わず、その子の目を覗き込んだ。
そこで、見たのだ。
震える瞳の奥に、過去の自分を。
その瞬間、胸の奥がチリ、と痛んだ。
感情なんて、とうに捨てたはずだった。
でも、その痛みは、確かに「私自身」の声だった。
(私は……なにをしている?)
その日から、違和感が芽生えた。
自分が殺すことで、生き延びている命。
その背後に、無数の「昔の私」がいたことに、気づいてしまった。
そして、私は決めた。
この組織を、終わらせる。
表では従順を装い、
裏では少しずつ証拠と情報を集めた。
仕事の中で学んだ毒を、少しずつ、仲間の食事に混ぜた。
疑われないように、時間をかけて。
私を“便利な道具”としか見ない彼らに、疑うという発想はなかった。
疑われないように、時間をかけて。
私を“便利な道具”としか見ない彼らに、
疑うという発想はなかった。
私は、従順な手駒を演じ続けた。
まず観察した。
誰が誰に命令を出しているのか。
誰が拠点を出入りし、誰が毒に敏感で、誰が暴力を振るいやすいのか。
言葉は交わさずとも、視線で、仕草で、人の本性は見える。
「お前は殺すのが上手いな。よし、次は貴族の屋敷をやってみろ」
嬉しそうに言う幹部の目を見て、私は心の奥を冷やす。
その声を、どうやって掻き消すかを考える。
次に、毒の準備。
一度に全てをやれば、気づかれる。
だから私は、少しずつ、時間をかけた。
訓練場の水桶に、極わずかずつ毒を垂らす。
微熱と吐き気が出る程度。
誰も死なない。ただ、体調が悪くなる。
それを何日も繰り返し、誰がどんな反応を見せるのか、慎重に観察した。
反応が鈍い。ならもっと強くしても、いける。
信頼されていたから、私は食事係を任されていた。
これが決め手だった。
幹部連中が揃う晩餐の日。
私は、決行した。
最も毒に強い者には、違う経路を用意した。
酒の中に仕込んだ。氷が溶けてから効くように。
自分の皿は、もちろん別。
「味見もしておけ」と言われるのも見越していた。
私は自分の命を守るためなら、いくらでも騙せる。
一人、また一人と、男たちが苦悶の声を上げて倒れる。
その光景に、私は何の感情も湧かなかった。
叫び、のたうち、血を吐く。
あれが今まで、私に命令してきた“上”の人間たちの最期だった。
最も警戒していた幹部――“狐”と呼ばれていた男が最後に残った。
毒に耐えたのか、それとも手をつけなかったのか。
私はその男の前に立ち、無言でナイフを抜いた。
「……お前か。お前が全部……」
そう言いかけたその瞬間、私は心臓を狙ってナイフを投げた。
音もなく、男の身体が崩れる。
もう誰も立ってはいなかった。
沈黙。
あの場所に響いていた喧騒も、怒号も、命令も、
やっと、終わったのだ。
私は、静かに外へ出た。
夜の風が頬を撫でる。
月が高く、青白く輝いていた。
建物に火をつけ全てを消し去った…
「これで、いい」
そう呟いた声は、震えていなかった。
組織は壊滅した。
けれど、私の人生は空っぽだった。
私の手には“自由”がある。でも“居場所”は、まだどこにもなかった。
私は再び、孤独の中を歩き出した。
だけど違う。
今度は、自分の意志で、歩いている。
それだけが、私の確かな誇りだった