花は新たに力を得た
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訓練の日々から数日が経った頃、ノアはバラムに呼び出された。
「君の能力について、調べがついたよ」
そう切り出した彼の声は、いつになく真剣だった。
「恐らく、君の力は《黒翳(こくえい)》という家系能力だと思う」
「……黒翳?」
「影を介して移動したり、身を潜めたりする隠密系の能力だ。君が悪周期時に“沈んだ影”も、暴走状態で発動した《黒翳》の一部だろう」
思わず自分の手を見つめた。影が、静かに指先に絡みついているような錯覚を覚える。
「ただし今の君が扱える範囲では、せいぜい“君自身を含めて二人まで”が限界だね。だから今後は、家系能力としての《黒翳》を制御・発展させるための訓練を行う」
バラムがホワイトボードを出して、影の性質と訓練項目を簡潔に示した。
【訓練内容】
1ノア単体で影から影への移動(短、中距離)
2ノアのみで影の中に潜み外部情報を探知する
3ノア+他者(1名)の同時移動訓練
4ノア抜きの他者2名の移動(ノアの“影渡し”操作)
「これらを順にやっていこう」
「でも……誰と?」
「当然、生徒相手にはまだリスクが高い。だから今回は——」
背後の扉が音もなく開いた。
「僕と、カルエゴくんがついていく。安心して」
バラムが肩越しに笑い、そこに立っていたカルエゴは、静かにノアを見下ろして頷いた。
「……付き合ってやる。すぐ暴走するようなら容赦なく叩き潰すがな」
「うっ……よろしくお願いします」
一瞬だけ怯えつつ、気を引き締めた。
1日目:影から影への短距離移動
「まずは、影から影へ。2メートルの距離、できるね?」
バラムの言葉に、ノアは深呼吸をして影へと意識を集中した。
(……見える、行き先の影。そこへ、自分を流し込むように)
「行きます」
影がざわめく。ノアの足元がぐにゃりと沈み、次の瞬間
ズンッ!
「う、わっ……!!」
ノアは目的地より半メートル手前にずしゃあっと滑り込んだ。バランスを崩し、派手に尻もちをつく。
「イテ……」
「影の“出口”をイメージしきれてなかったね。悪くないが、制御が甘い」
「は、はい……」
(想像より難しい……)
何度か挑戦し、最終的にはきちんと2メートルの移動に成功したものの、移動後にぐらつくこともしばしばだった。
2日目:影に潜み、外界を探知する訓練
「次は、影の中に身を隠しつつ、外の音や気配を察知する訓練。五感じゃなく、影を通した“感覚”で捉えるんだ」
ノアは静かに影へと沈む。
影の中は、やはり冷たい。
音も光も鈍く、感覚は曖昧になる。
(……外の音……先生たちの気配……)
「ノア、何か感じるか?」
「……誰かが……うーん、たぶんカルエゴ先生が、椅子を引いた?」
「違う、俺じゃない。俺は立っている」
「うっ……」
集中が乱れ、影から身体が弾かれるように浮上する。
「反応しすぎだ。影の“振動”をそのまま音と誤認してる。落ち着いて、波の中から正しい“揺れ”だけを拾い出せ」
「は、はい……もう一度!」
何度も失敗しながら、最後には、バラムが立ち上がる動作を正確に言い当てた。
「……よし。今のは正確だったよ」
3日目:ノア+1名の影移動(バラム)
「じゃあ、次は僕と一緒に移動してみよう」
ノアは不安そうにバラムの腕に手を添える。
影が広がり、彼女は一気に意識を集中させた。
「行きます!」
……が、次の瞬間。
バシュッ!
二人は確かに影の出口から現れたが——
「うあっ!」
バランスを崩し、ノアがそのままバラムの上に倒れ込んだ。
「ぐふっ……ノアちゃん、方向が少しズレたね。力を分散させすぎた」
「ご、ごめんなさいっ!」
「気にしない気にしない。物理的に潰されたのは初めてだけどね」
4日目:ノアが影を操作し、他者2名を移動させる
「ラストは最大難度。ノアちゃんはその場に残って、僕とカルエゴくんの2人を、君の影で移動させるんだ」
ノアの額にはすでに汗が滲んでいた。
彼女は静かに、床一面に影を広げる。
(……意識を、伸ばして。触れて、繋げて……動かす!)
影が二人を飲み込む。
……しかし。
「あっ…」
次の瞬間、影から現れたバラムは正しい位置に出たが
カルエゴは天井に逆さまに出現しかけていた。
ドゴッ!!
「がっ……!!」
「きゃああ!? ごめんなさいっ!!」
「……次にやったら、容赦しない」
ノアは文字通り、死を覚悟した。
それでも、訓練を重ねるごとに、影の流れは滑らかになり、制御の成功率も格段に上がっていった。