花は新たに力を得た
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魔界の空は高く、雲ひとつない晴天だった。
バビルス学園の門をくぐるノアの足取りは軽く、どこか誇らしげだった。
けれど、その内心は騒がしい。
ウォルターパークでの戦闘。
ロイヤル・ワンの解放。
それらの出来事は、ノアという名を学校に知らしめた。
「ノア様ですよね!サインください!」
「ねえねえ、あれってあのノアじゃない!?」
「写真撮ってもいい!?」
……通学路では次から次へと生徒たちが話しかけてくる。一瞬たじろぎつつも、にこりと微笑み返した。
「ありがとう。でも、遅刻しちゃうから、また今度ね」
その笑顔に、モブ生徒たちが一斉に赤面したのは言うまでもない。
教室に入ると、アブノーマルクラスの面々が既に騒がしくしていた。
「こんなに有名になっちゃった僕たちに宿題倍増とか、やっぱりあの暗黒大帝性格ひんまが……」
リードの言葉は、途中で止まった。
「……っうぇ」
彼の頭を無言で掴んでいたのは、もちろんカルエゴ。
次の瞬間、リードはロープでぐるぐる巻きにされ、天井から吊るされる始末だった。
「本日より新学期である。休みボケも大概にして、授業に備えろ」
カルエゴの声が教室中に響く。
「新学期は行事が多く、その都度、位階昇級試験があるが、それは普通の一年生の話だ。貴様らは、特例だ」
その言葉に、クラスメイトたちがどよめいた。
するとカルエゴは巨大なスピーカーを出し
ヘッドホンを装着。
爆音が教室に鳴り響く。
「バビルス特例授業指令ーー!!
アブノーマルクラスは、
全員2年生になるまでに【4】に昇給すること。
失敗した場合、即刻ロイヤル・ワンからの退去を命ず」
絶望の色がクラス中に広がる。
【4】は、本来であれば卒業ボーダーライン――普通なら何年もかかるレベルだ。
「貴様らを【4】に昇級させるため、特別講師を用意した」
その言葉と共に名が読み上げられていく。
フルフル軍曹:ジャズ、アロケル
ウェパル嬢:ゴエモン、アガレス
ライム先生:イクス、クララ
Mr.ハット:クロケル、カムイ
バラム教諭:サブノック、アスモデウス、ノア
ロビン先生:入間、リード
「え、バラム先生……!?」と、一瞬目を見開いたが、すぐに気を引き締めた。
翌日。
授業が終わると同時に、サブロ・アスモデウスと共に訓練場に呼び出された。
待っていたのは、マイペースな笑みを浮かべるバラム先生。
「訓練内容は簡単。僕に一発でも当てられれば合格。もちろん、当てるまで帰れないよ」
バラム先生の号令と共に、訓練場の空気が一変した。
最初に飛び出したのはサブロだった。筋肉質な身体をしならせ、獣のような勢いで距離を詰める。足元の魔力陣が爆ぜるたび、地面がひび割れ、轟音が響いた。
「喰らえッ!!」
豪腕から繰り出される拳が、空気を裂く。だが、その拳は――風を切っただけだった。
「惜しいね」
次の瞬間、バラムの姿が消え、視界の端に映った時には、すでにサブロの背後。脇腹に手刀が叩き込まれ、サブロは息を詰まらせながら吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
地面に転がりながらも立ち上がるが、その顔には悔しさが浮かんでいた。
「次、アスモデウス・アリス」
バラムの声に応じて、今度はアスモデウスが前に出る。構えは完璧、研ぎ澄まされた魔力が周囲の空気を熱で歪ませる。
「必ず、一撃を通してみせます」
瞬間、無数の火炎の剣が彼の周囲に顕現し、弾丸のようにバラムへと放たれる。視界を覆う紅蓮の嵐。だが、バラムはそれすら見切っていた。
「面白い……けど甘いね」
バラムが片手を掲げると、彼の周囲に巨大な風の盾が発生し、火の剣をすべて弾き返す。アスモデウスが一歩踏み出そうとした瞬間、地面から突如として伸びた木の蔓が足を絡め取った。
「しまっ……!」
その隙を逃さず、バラムの肘打ちがアスモデウスの腹部を捉える。くぐもった声を上げ、彼もまた倒れ込んだ。
「残るは、ノアちゃん」
視線がノアに向けられる。琥珀の瞳が揺れ、細い肩が緊張に震える。しかし、その背筋は伸び、恐れの代わりに覚悟が宿っていた。
「行きます、先生」
ふわりと踏み出した瞬間、ノアの姿が掻き消える。まるで黒い霧のような残像だけが残り、次の瞬間にはバラムの背後に回り込んでいた。
(速い……!)
振るわれた手刀は風を切る鋭さだったが――
「焦りすぎだよ、ノアちゃん」
バラムの腕が逆にノアの手首を掴み、そのまま地面へと叩きつける……直前、とっさに足を回し、回避行動へと転じた。バラムの手をすり抜け、後方宙返りで距離を取る。
「……!」
拳を固めて、再び突進する。攻撃を繰り出しながら、足さばきでフェイントを入れ、体勢を崩す隙を狙う。だが――バラムは動かない。むしろ、その場で微笑を浮かべている。
(誘ってる?)
一瞬の躊躇。その隙を、バラムは逃さない。
「よそ見は禁止だよ」
その手がノアの肩口を掴み――ぐるりと回転。
視界が反転する。次の瞬間には、背中から地面に叩きつけられていた。
「ぐ……!」
「でも……みんな、いい動きだったよ」
バラムが笑みを浮かべながら言う。容赦はない。だがその眼差しは、どこか優しかった。
「今のところ、全員不合格。でも、ここからが本番だね」
気絶しかけながらも、拳を握ったまま地面を見つめていた。
(悔しい……でも、絶対、当ててみせる)
拳に宿るその火は、まだ消えていなかった。