賑やかな音に蕾は揺れる
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ウォルターパークでの戦いを終えた一行は、用意されたホテルに一時滞在することになった。
「ねぇノアちゃん!カルエゴ先生の部屋って豪華らしいよ!」
リードがいたずらっぽく笑いながら肩を叩く。
「一緒に見に行こうぜ!部屋見学ってことで!」
「え、でも……」
「だいじょーぶだいじょーぶ!ちょっと覗くだけ!」
リードとジャズに手を引かれ、ノアはそのままカルエゴたちが宿泊している上階の部屋へと連れていかれた。
扉をそっと開けると、そこには確かに高級なソファや調度品が並び、まるで王族の部屋のような空間が広がっていた。
「わ〜……すごい……!」
「でしょ!でしょ!」
ベッドに飛び込んだジャズとゴエモンがはしゃぎながら、
「“及第点だな”」
「“ケルベリオン!”」
と、あの戦闘時のカルエゴの決め台詞を真似しながらベッドの上でポーズを決める。
それに思わず、くすくすと笑ってしまった。
「もう、先生に聞かれたら怒られちゃうよ……」
「聞こえとるぞ」
不意に部屋の奥から低い声が響いた。
振り返ると、扉の向こうにカルエゴが立っていた。眉をしかめ、静かに歩み寄る。
「貴様ら……何やっとるんだ。お前たちの部屋は下だろうが。帰れ!」
「ひえっ!」「す、すいませんっ!」
カムイとゴエモンがぴしっと立ち上がり、笑いながらもバタバタと逃げ出す。
「上の部屋の方が豪華と聞いて…つい……」
「いや〜その、遊びに行きたい気持ちが勝って……」
リードとジャズもそそくさと後に続き、あっという間に部屋の中は静けさを取り戻した。
「……まったく、ガキどもめ」
カルエゴが溜息をついたその時、背後のソファからバラムが穏やかに声をかけた。
「ふふ、でも楽しそうだったね。君の真似までされるとは、先生冥利に尽きるんじゃないかい?」
「冥利も何も……どこで教育を間違えたのやら」
カルエゴは小さく頭を振りながらも、ほんの少しだけ唇の端が緩んでいた。
その光景を見ていたノアは、小さく笑いながら口を開いた。
「……でも、先生。怒ってるふりして、ちょっと嬉しそうに見えたよ」
その言葉に、カルエゴの動きが止まる。
彼の視線がそっとノアに向けられ、視線がぶつかる。
「…そんなことはない。あるわけがない」
「そっか」
静かに微笑みながら呟くと、バラムはゆるやかに頷いた。
「さて、私は少し部屋に戻るよ。カルエゴくん、ノアちゃん、少し休んでおいで」
にこりと微笑んだバラムは、湯気の立つティーカップを片付け、静かに部屋を後にした。
重くもなく、軽すぎることもない扉の閉まる音が、部屋にふたりきりの静寂をもたらす。
ノアはその場にぽつんと立ち、少し頬を赤くして口を開いた。
「……カルエゴ、さっきの戦いのとき、私、少しは成長してたかな?」
カルエゴはちらりと横目でノアを見る。
「少しどころか、今までの中では一番まともだった。ま、まだまだ粗は多いがな」
「ふふ……ありがと」
照れたように笑い、カルエゴの隣に静かに腰を下ろした。
近すぎず、でも前よりは確かに、少しだけ距離が近い。
「……あのね」
「なんだ」
「カルエゴが……そばにいてくれて、嬉しかった」
不意に真っ直ぐな瞳を向けられ、カルエゴは一瞬、言葉に詰まった。
その顔に宿る表情が、いつもの無表情ではない。どこか、優しい温もりを含んでいた。
「……はしゃぎすぎてケガでもされたらたまらん。護衛の役目を果たしただけだ」
「でも、皆の前に立ってくれたでしょ?」
「……あれは、反射だ。教師として当然の反応だ」
「そっか……でも、嬉しかったよ。……すごく、頼もしかった」
そう呟き、そっとカルエゴの袖をつまむように引いた。
「カルエゴって、やっぱりかっこいい。あの風船とか、アイス持たされてる姿も……可愛かったけど」
「……やかましい。誰のせいだと思っている」
「私のせいじゃないよ。みんなの、でしょ?」
ニコニコと笑うノアに、カルエゴはぐっと何かを堪えるように目を伏せる。
(まったく……そうやって無防備に笑うな。こっちの思考を掻き乱す……)
そんな心の中を見透かしたように、ぽつりと呟いた。
「今……私のこと可愛いって思った?」
「なっ……」
カルエゴの喉が詰まり、反射的に咳払いでごまかした。
「貴様、何を……っ」
「……えへへ、冗談だよ」
少しだけ身体を寄せ、ノアは肩にもたれるように身を預けた。
カルエゴは驚いたように目を見開いたが、無理に引き剥がすことはなかった。
「こうしてると……安心するの」
その声があまりに小さく、あまりに素直で――
カルエゴは一瞬だけ、まぶたを伏せる。
「……少しだけだ。すぐにどけ」
「うん、すぐどく」
けれどノアは、まだ寄りかかったままだった。
カルエゴもまた、それを咎めず、静かにその温もりを受け入れていた。
こんな平穏が、ずっと続けばいいと――
ふたりとも、ほんの少しだけ、そう思ったのかもしれない。
だが、そのささやかな幸せは長くは続かなかった。
――コツン。
部屋の扉を叩くノック音が、あまりにもあっさりと、その時間を断ち切った。
「ノア様、お客様がお見えです」
「……リリィ様の使いです」
小さく返事をして、立ち上がる
「ちょっと行ってくるね。すぐ戻るから!」
そう言って微笑みながら手を振る姿を――
カルエゴは、どこか胸騒ぎを覚えながら見送った。
***
「……遅いな」
カルエゴは静かに呟いた。
ノアが部屋を出てから、すでに数十分以上が経っている。
「ちょっと行ってきます」と軽やかに笑った顔が、まだ脳裏に焼き付いて離れない。
あのとき、なぜか嫌な予感がした。
けれど、そんなものはただの杞憂だと思い込もうとしていた。
(……リリィの使いなど、少し話をする程度のはずだ。だが……)
時間が経つにつれて、胸の奥に不穏な影がじわりと広がっていく。
カルエゴは立ち上がり、扉に向かって歩き出した。
「――おい」
廊下で見かけた館の案内役の悪魔に声をかける。
「ノアは?」
「え? ノア様なら……リリィ様の使いに呼ばれて――」
「それは知っている。その後は?」
案内役は言葉に詰まり、困惑したように眉を下げた。
「……申し訳ありません。わたくしも、その後の足取りは……」
カルエゴの眉がぴくりと動く。
「ノアを案内した悪魔はどこにいる」
「え、ええと……彼は今、所在不明でして……」
「……何?」
抑えていた声が、わずかに低く、冷たくなる。
「所在不明とはどういうことだ。名を言え」
「す、すみません、名簿にない悪魔でして……臨時の雇いらしく、記録も不完全で――」
その言葉を聞いた瞬間、カルエゴの喉の奥から小さく音が漏れた。
「――チッ」
一瞬で警戒が戦闘のモードに切り替わる。
カツ、カツ、と速歩きで階段を降り、ノアが向かったであろう方向へと進む。
廊下の端、曲がり角、人気のない裏口――
どこにも、ノアの気配はない。
(まさか……)
ありえない、と切り捨てたい可能性が、脳裏をよぎる。
しかし、カルエゴは確かに感じていた。
あの時――ノアが手を振ったあの瞬間。
胸の奥を掠めた、説明のつかない不安。
それが、今や確信に変わりつつある。
「ノア…」
初めて、自分の口からその名が焦りに染まって漏れた。
冷静なはずのカルエゴの瞳が、確かな怒りと焦燥に揺れる。
(誰だ……誰が、ノアを……)
バサッ、と黒いマントが翻る。
彼の背に、禍々しくも誇り高い翼が広がる。
「――バラム!!」
次の瞬間、館中に怒号が響いた
そしてノアは
ーー姿を消した