蕾は、黒に包まれて目を覚ます
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私は幼いころから、貧民街にいた。
物心ついたときには、もうすでに一人だった。
今日も、ただ当てもなく歩いていた――そんな時だった。
少し小綺麗な服を着た女の子が、怯えたような顔で、路地を駆けていたのが目に入った。
(こんな場所に、あんな子が?)
思わず足が動いた。
あの姿が、昔の自分と重なったから。
「おい! 止まれ!」
声をかけて、走って追いつき、彼女の腕を掴んだ。
「お前……こんな場所で何してる?」
少女は声も出せず、怯えたように私を見上げていた。
「……首は振れるか? それで答えろ。
親に捨てられたのか?」
少女は首を横に振る。
「じゃあ、売られたのを逃げてきたのか?」
また首を振った。
「……違うのか」
少し間をおいて、少女がか細い声で答えた。
「ゆうかい、されたの……にげてきた」
その言葉に、胸の奥がざらついた。
そうか。じゃあ、今のこの子は――過去の私だ。
「……この街から出られそうか?」
「が、がんばる」
私はその小さな手を取って、そっと引いた。
そのときだった。
視界の隅に、身なりのいい男が入ってきた。
(見られたか?)
私はすぐに男の財布を抜き取った。
この子が街を抜けて生きるには、金が必要だ。
自分のためじゃない。そう自分に言い聞かせながら。
だが、男はすぐに気づいた。
私は少女の手を引いて廃墟になった教会に逃げ込んだ。
荒れた空気。埃と血と、祈りの抜け殻。
そこに逃げ込んだ途端――男が中へ踏み込んできた。
「……!」
次の瞬間、彼が襲いかかってきた。
(なっ……!?)
私は即座にナイフを抜いて応戦した。
けれど――強い。動きに無駄がない。
何度も攻撃を繰り返したが、刃は一度もかすらない。
焦った。手元が狂った。
「――っ!」
その瞬間、ナイフを弾き飛ばされ、腕を後ろに捻じられる。
力が強い。振りほどけない。
(くそっ……こいつ、誘拐したやつらの仲間か!?)
睨みつけても、男は冷静に――まるで処理するように、私を拘束し続けた。
「こいつは誘拐犯なのか?」
男が少女に聞いた。
「ち、ちがう。その子は……助けてくれたの」
(……っ)
声が震えていた。けれど、私を庇ってくれた。
私は拘束されたまま、男を睨みつける。
『お前……この子を攫った連中じゃないのか?』
「俺がそんな奴に見えるか?
お前こそ、なぜこの子を匿う?」
……迷った。
でも、ここで嘘をついても意味がない気がした。
『……私のような子を増やさないため』
男は、しばし黙り込んだあと、私の腕を放した。
そして、立ち上がり、手を差し出してきた。
「俺は教師だ。お前の可能性を信じ、正しい道へ導くのが俺の役目だ。俺と共に来い。お前には未来がある」
驚いた。
今まで出会った大人は、皆、私を道具として見てきた。
冷たい目。飢えた目。
私の名前すら知らずに利用するだけの存在。
でも、この男の目は違った。
まっすぐに、私を“人間”として見ていた。
『私は、人を殺すことしか知らない』
それが、私のすべてだった。
奪って、生きてきた。
誰かに望まれたことなんて、一度もない。
「殺すだけの人生など哀れだ。
お前には、選択肢がある。
俺が教えてやる。生きる意味を――見つけられるように」
視線が逸らせなかった。
この男の目は、まっすぐで、揺らがなかった。
こんなにも……あたたかい目で、私を見てくれる人がいるなんて。
胸がぎゅっと締め付けられる。
なのに、苦しくない。
泣きたいほど、嬉しかった。
『わたしは……まだ、変われる?
生まれ変われるのか……?』
男は黙って、私の手を取った。
少女もその腕に抱えて、私たちは廃墟を出た。
物心ついたときには、もうすでに一人だった。
今日も、ただ当てもなく歩いていた――そんな時だった。
少し小綺麗な服を着た女の子が、怯えたような顔で、路地を駆けていたのが目に入った。
(こんな場所に、あんな子が?)
思わず足が動いた。
あの姿が、昔の自分と重なったから。
「おい! 止まれ!」
声をかけて、走って追いつき、彼女の腕を掴んだ。
「お前……こんな場所で何してる?」
少女は声も出せず、怯えたように私を見上げていた。
「……首は振れるか? それで答えろ。
親に捨てられたのか?」
少女は首を横に振る。
「じゃあ、売られたのを逃げてきたのか?」
また首を振った。
「……違うのか」
少し間をおいて、少女がか細い声で答えた。
「ゆうかい、されたの……にげてきた」
その言葉に、胸の奥がざらついた。
そうか。じゃあ、今のこの子は――過去の私だ。
「……この街から出られそうか?」
「が、がんばる」
私はその小さな手を取って、そっと引いた。
そのときだった。
視界の隅に、身なりのいい男が入ってきた。
(見られたか?)
私はすぐに男の財布を抜き取った。
この子が街を抜けて生きるには、金が必要だ。
自分のためじゃない。そう自分に言い聞かせながら。
だが、男はすぐに気づいた。
私は少女の手を引いて廃墟になった教会に逃げ込んだ。
荒れた空気。埃と血と、祈りの抜け殻。
そこに逃げ込んだ途端――男が中へ踏み込んできた。
「……!」
次の瞬間、彼が襲いかかってきた。
(なっ……!?)
私は即座にナイフを抜いて応戦した。
けれど――強い。動きに無駄がない。
何度も攻撃を繰り返したが、刃は一度もかすらない。
焦った。手元が狂った。
「――っ!」
その瞬間、ナイフを弾き飛ばされ、腕を後ろに捻じられる。
力が強い。振りほどけない。
(くそっ……こいつ、誘拐したやつらの仲間か!?)
睨みつけても、男は冷静に――まるで処理するように、私を拘束し続けた。
「こいつは誘拐犯なのか?」
男が少女に聞いた。
「ち、ちがう。その子は……助けてくれたの」
(……っ)
声が震えていた。けれど、私を庇ってくれた。
私は拘束されたまま、男を睨みつける。
『お前……この子を攫った連中じゃないのか?』
「俺がそんな奴に見えるか?
お前こそ、なぜこの子を匿う?」
……迷った。
でも、ここで嘘をついても意味がない気がした。
『……私のような子を増やさないため』
男は、しばし黙り込んだあと、私の腕を放した。
そして、立ち上がり、手を差し出してきた。
「俺は教師だ。お前の可能性を信じ、正しい道へ導くのが俺の役目だ。俺と共に来い。お前には未来がある」
驚いた。
今まで出会った大人は、皆、私を道具として見てきた。
冷たい目。飢えた目。
私の名前すら知らずに利用するだけの存在。
でも、この男の目は違った。
まっすぐに、私を“人間”として見ていた。
『私は、人を殺すことしか知らない』
それが、私のすべてだった。
奪って、生きてきた。
誰かに望まれたことなんて、一度もない。
「殺すだけの人生など哀れだ。
お前には、選択肢がある。
俺が教えてやる。生きる意味を――見つけられるように」
視線が逸らせなかった。
この男の目は、まっすぐで、揺らがなかった。
こんなにも……あたたかい目で、私を見てくれる人がいるなんて。
胸がぎゅっと締め付けられる。
なのに、苦しくない。
泣きたいほど、嬉しかった。
『わたしは……まだ、変われる?
生まれ変われるのか……?』
男は黙って、私の手を取った。
少女もその腕に抱えて、私たちは廃墟を出た。